Act-40 祈り唄 後編
「……っ! 桜? サラ……? どうし……」
赤井はくたっとなってしまった桜を抱き寄せてそっと呼吸を確かめる。
(眠っただけか。 歌うのを止めるのを忘れたから…… ずっと唄わせてしまったから疲れたんだな……)
赤井は躰を冷やさないように毛布でしっかりと包み込むと立ち上がる。
「Dr? いつ……」
「……親子水入らずに乱入して申し訳ない。 あまりに遅くて様子を見にきて、その……あまりの声に圧倒されて声を掛けれず」
「……凄い声で……」
看護師の頬に残る涙の痕。
「不思議ですね。 私、歌も讃美歌なんて知らないのに…… 心が浄化されるようでした。」
「―…… これがこの子の潜在意識に眠る力です。」
赤井は答える。
「奴らはこの力で人を操ろうとした。 この子は何も知らずに、知識として与えられた歌を好きな様に好きなだけ歌ってました。」
「勿体ないですね…… こんなに綺麗な声なのに」
「―…… 俺は、ただ、唄が上手で歌が好きな子として育ててやりたい。 童謡やアニメの歌を歌って回りから”歌が上手だね”と言われて喜ぶだけでいい」
「……そうですね。」
「Dr」
「はい?」
「沢山歌ったから暫くは夢も見ずに眠ると思います。ゆっくり寝かせてやらないと体力が戻りません…… 桜が寝てる間に相談があるのですが 」
「分かりました。私の部屋へ」
医師と看護師は赤井に続いて靴を取り替えようとして足元をみて正気に返る。
「っと……! 履き替えるのを忘れたか」
「Drは予備の靴で部屋に行かれて下さい。 私、もう1足ロッカーにあるのでこのまま行きます。」
「足裏が汚れるぞ」
「平気です。ストッキングを履いてますし、ロッカーにサンダルの替えもありますから。Drの靴と私の靴は、明日、靴磨きに出しますからどうぞそのまま」
「すまないね。」
「いいえ。 あんな素敵な声なんて、余程のコンサートに行かないと聞けませんもの! チケット代と思えば安いものです」
看護師は赤井の腕で眠る少女の頭を軽く撫ぜでパタパタと掛けていく。
「どうやら桜ちゃんのファンが2名程増えたようですが…… FANクラブのNoは1桁でもらえますかね?」
こほん、と空咳をするDr
「―…… それは無理だろう。もう何人もいるからな」
(俺もジンも……シェリーも…… そしてジンの配下の連中も……)
「そうですが…… それは残念。」
医師はわざとらしく肩を落とす。
「不思議な子ですね。 大人びた桜ちゃんが怖いと…… 言ってた彼女の雰囲気が変わってしまった」
「それは」
「……ここの院内で、桜ちゃんと赤井さん以外、名前を名乗るのは赦されてません。 それは万一の事を考えての事。……解っていても、怖いものがあるんですよ。 私も彼女もね。」
「済まない。 俺達がDrたちの名を知る事は万一の時危険なんだ。 桜が連れ戻された時、名前を知っていたら、そこから足がつくかもしれない。 」
「そうですね」
(けれど、時々は思い切り歌わせてやる方がいいのかもしれない)
赤井はぐっすりと眠る桜のベッドの横にあるソファにジャケットをかけ、ニット帽を置く。
ベッドサイドに縫いぐるみを置いて、そっと額にキスと落とすと親の顔からFBI捜査官の顔に戻る
「さて…… 本題にはいろうか Dr」
赤井の声のトーンが変わる。
「こちらへ…… 桜ちゃんはとても耳がいいですから」
医師と赤井は廊下にでると、少し離れた場所にある医師の個室に入った。
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