Act-41 告白
「馬鹿ね、気付いて無いと思ってた?」

ジンの配下に入る為に、ペアとしての初仕事の話が決まった後、俺は明美を呼び出して食事をして、立ち寄った公園で自分の立場を告白した。
殴られても、責められても、泣かれても……
全て受け止める。
そう、決めて、明美との事を終わりにするため。

「お前…… 責めないのか? 俺は、組織の情報を入手するため、事故を装い近づいた男だぞ?」
「知ってる……」
「知ってるって?」
「最初はね、故意だった何て、知らなかったし、気付きもしなかった。」

でもね……?

「時々、何を言ってもうわの空で難しい顔をしていた。私より遠くを見ているような感じ。 ペアのカップもセーターも着てくれなかった」
「……それは」
「良く考えれば可笑しいわよね。 志保が大君を狙撃手としてスカウトして本部に口利きしてくれたのは、私が姉だったから仕方なく、だったけど。」
「そうだったな。 志保は俺を出会った時から嫌ってた。 外部の人間が組織に入る為には組織からのスカウトかそれなりの立場の構成員の紹介が必要。 ―…… 良く口利きしてくれたと、今でも思う。最も、志保が天才科学者のシェリーと知った時はもっと驚いたが」
「……そうよね。 志保は死んだ両親の血を引いて小さな頃からIQも高く組織で英才教育を受けてきたもの。 私はダメな落ちこぼれ」
「そんな事はない。お前という時間は任務を忘れそうになる位、穏やかな気持ちになれた。―…… これは本当だ」
「ありがと…… 大君」

明美の紹介だけでは、構成員にはなれても狙撃手として認められるにはもっと時間が掛かった。

「私ね、連日頼み込んだの。 少しでも大くんと一緒にいたくて。 志保も、諸星大は嫌いでも、ジンと恋仲だったから、気持ちだけはわかると言ってくれたの」
「ー…… 志保が」
「馬鹿だよね。 私」
「すまない……」
「いいの。 でも、1つ教えて?」
「ー…… 応えられる事なら」
「ディーヴァを…… 歌媛を連れ出したのは大くん達なの?」
「それを知って、ジンへの手土産にするか?」
「ー……!」

諸星大から赤井秀一に戻って聞く

「だがー…… まぁいい。 正確に云うと少し違うが、彼女は現在、俺達の保護下に有る。」
「そう……」
「ー…… これを」

持ち歩いているipadを操作してイヤホンをつけると聴く様に促す。

「聞いていいの?」
「お前は特別だ」

イヤホンを耳に当てた明美の目が見開かれる。

万一の時の保険で録音しておいた歌声。
幼い声だが、ジンたちが聞けばディーヴァだとすぐにわかる。



♪・・・・・・・・♪


海はひろいな
おおきいな
月はのぼるし
陽がしずむ


♪・・・・・・・♪

 
「此れは童話ね?  昔…… 幼稚園の頃に習ったわ 確か…… ”海”?」
「あぁ……。ディーヴァが無事だという証拠だ。どこに居るか、場所は言えない」
「無事なのね?  でも、何て幼い声…… まさかディーヴァは子供だったの?」


♪・・・・・・・♪


海はおおなみ
あおい波
ゆれてどこまで
つづくやら


♪・・・・・・・♪


「あぁ…… 志保よりも小さい……」
「そう…… だから…… 志保はディーヴァをあんなに可愛がっていたのね?」
「ディーヴァは記憶を無くしている。 良悪は兎も角、自分が組織の一員で、声を武器にする幹部だと云う事を覚えて居ない。 勿論、ディーヴァというコードネームも、名前も覚えて居ない。 ただ…… 譫言で”お姉ちゃま”と言ってたから、どこかに姉がいるだろう。 最も家族の事は何も覚えてないから不確かな事だが」
「そう……」



♪・・・・・・・♪


海におふねを
うかばせて
いってみたいな
外の国


♪・・・・・・・♪


(外の国? まさか大君は……ディーヴァを)

明美は黙って、イヤホンを返す。

「仕事…… 上手く行くと良いわね」
「お前ー……」
「大丈夫。 私、志保と違って、馬鹿だから直ぐ忘れるわ。」
「すまない」
「ディーヴァを護ってあげてね? いつか…… 普通の人として暮らせるようになるといいわね」
「俺の命を懸けて約束しよう」
「約束よ? 私や志保のように寂しい想いをさせないであげて」
「ー…… 俺は、組織を壊滅させる。 俺達だけじゃない。俺が倒されても次が出てくるだろう」
「そう。」

諸星大に戻る。
お前は、また、平気な顔をしているのだろう。
そして、家に帰ってひっそりと泣く。

本来なら、シェリーの協力も欲しかった。
彼女程の頭脳なら、司法取引も証人保護もかけられた。
だが、結果的に俺は志保の信頼を得られず此処まで来た。

もう、後には引けない

明後日は港倉庫で待ち合わせ。
ジンと一流ホテル迄行き、ブラックタイに着替えて、ホテル在住の邪魔者を人前で殺す事。
何とも呆気ない仕事だが、ジンの事だからそれなりに仕込みがあるのだろう。
明後日の集合では罠を仕掛けられるかもしれない、
明日の夕方をめどにFBIの選抜メンバーが倉庫の半径500メートルのポイント地点に集合し、倉庫の中には気配を消すことのできるメンバーが潜伏する。
ジンを捕まえ、どんな手段を使っても未だ顔も解らぬあの方を捕まえる。

諸星大は、背後に明美の視線を受けながら去りかけてふと、足を止めた。


「なんで、解ったんだ? 俺が狗だと……?」
「―…… 馬鹿ね。大君」

明美は今にも泣き出しそうな笑顔を見せる

「言わなきゃ、分かんない?」
「―……」

(例え騙されていたとしても、大君を愛してるから、大君が好きだから、ずっと騙された儘でもいいと思ってた)

「生き残れよ、 明美。”その時”まで」
「うん! これでも私しぶといから」
「じゃ…… な」
「大、くん……!」

明美が呼びかける。
だが、諸星大はもう振りむかない。

(明美は…… 気づいただろうか。あの曲の最後に。)

諸星大に戻って少し早計だったかと考える

(だが、俺もこれ位のリスクを背負うべきだ。 その上で、やるべき事をしよう。)



君につげよう 迷わずに行くことを
信じたこの道を私は行くだけ
すべては心の決めたままに
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