Act-42 惜別 前編
「”エサ”はまいたのか、ウォッカ」
「へい。ぬかりはありませんや。ホステスの中でも顔立ちがよい、いつも指名が入る女の父親をちょいと脅…… いえ、説得して、1ケ月、ホームレスの真似事をすれば、娘はホステスとして召集はされても、オークションにはだされないようにジンの兄貴が保障すると伝えました。 もし、犬どもがいて姿をみるなり、何かをいわれた時、すぐに連絡をよこして事なきを得たら、500万の報酬を払ってやると。 最初はホームレスの真似事を渋ってましたが、借金を抱え込んで返済におわれてますからね。500万あれば、借金はちょうけし、娘も無事。更に100万程浮きますから、結局は首を縦にふりやした。 件の倉庫をヤサに段ボールの家を作って雨の日もずっと外で生活させてます。」
「いいだろう。 ライとの待ち合わせは明後日だ。 明日は倉庫には帰らせず、明後日、帰らせろ。 待ち人が居れば明日の夜か明後日の朝から集ってくるだろーからな。」
「へい。それも指示をだしてまさぁ。もし、誰かに何か言われたり犬の匂いがしたら歯に仕込んだ発信器で知らせろと……」
「上等だ」

ジンはニヤリと笑う。

「さーて、ライはどう転ぶだろうなぁ? 一人で待ちぼうけか、俺の配下に入るか、2者選択だ」
「俺としては、ライの狙撃の腕は捨てたくないッスけど、兄貴のパートナーの位置を渡すのは嫌っすね」
「俺のパートナーはウォッカにしか出来ねーよ。 俺の配下に入ってもパートナーは俺じゃねぇ。 他の奴だ。」
「まぁ…… 兄貴は撃った奴の事なんざ一人も覚えてませんしね?」
「はん! お前がいるのに覚える必要なんざねぇだろうが。 俺が覚えているとしたら裏切りものの顔だ。そいつの顔は狙撃した直後に忘れるだろーがなぁ?」
「ごもっとも。 俺は兄貴のメモリーバンクっすからね」

ジンは殺したターゲットの事は綺麗に忘れる。
昔の任務を聞かれてウォッカがフォローする事は初中終だ。
もし、諸星大がジンのパートナーになったとしたら水と油で上手く行くはずがない。
それだけの自負がウォッカにはある。

「―……で、兄貴、安室を買ったゲストからの連絡が本部を通して入ってます」
「はん?」
「半年を1年にできないかと、半年追加分としてオークション落札金額の2倍金を寄付するそうで」」
「2倍なら悪くは無い話だが ―……本部の稟議に いや 4……5倍だ。 5倍だすなら認めると伝えろ。手打ちが立つなら本部への稟議を上げてやるとな」
「5倍……ですか」
「まぁ…… レンタル期間が切れたらフィリッピンあたりのアジトに送って、2年程新人扱いで教育させるつもりだったし、安室が噛みついてきたら5倍出すといわれたから拒否できなかったと言える……5倍は高いと交渉してきたら3,5倍まで値下げをしていい。交渉はお前がやれ」
「はぁ……」
「なんだ? 文句でもあるのか?」
「いえいえ。」

ウォッカは慌てて首をふる。

「ま、どちらに転んでもあの財閥なら4倍までなら出すだろう。」
「承知しやした。」


(大丈夫だ。 ディーヴァは生きてる。 浚ったのか公安であろうとCIAの狗だろうと、KGBであったとしても、FBIでも……。 ディーヴァの見かけは幼稚園児だ。 餓鬼を殺す事はできない。 アイツが知っているのはただ、唄を歌うだけ・・だからな)

ジンは一瞬目を閉じて、意識を切り替える。

(一時だけ、だ…… 一時預けているだけだ。 ―…… 必ず探し出す。)

「ウォッカ」
「はい」
「今日の取引は」
「夜8時に―……」

さらさらと説明を始めるウォッカ。

「分かった。 まだ少し時間が取れるな……」
「2時間程なら」
「アジトに立ち寄れ。 ……1時間程仮眠する」
「承知しやした。取引場所に一番近いアジトに向かいます」


(ジン兄……)
脳裏に小さな少女の声が響いた。

(ジン兄、大好き!)

小さな躰で抱き着いてくる。
心臓の手術を生き延びた後も何度も危険な時があった。
勉強と研究の合間をぬって妹に会いに行ったシェリー。
シェリーが薬学で目覚ましい知能を開花させたのも、妹の存在があったのではないかとジンは思う。
冷凍治療で生き延びて、その治療の後遺症で成長が著しく遅くなった赤ん坊。
あの姿に成長するまで10年の月日が経っている。
普通の1年が10年と同じ。
長年の治療の効果で今回の<リサイタル>をきっかけに普通の生活をさせながら治療に入ろうと計画案がでていた矢先だったのが救い。
名前を呼べば満面の笑みで懐いてくる少女が可愛かった。


志保と同じ血を半分引き、そして半分の血は―……


(ディーヴァ…… お前を拉致した仲間と思われるアメリカ系の奴らはライに殺させた。生き残った女は恐怖で何も喋れない状態になった。……あの一家の護衛は日本警察。という事はスコッチは公安関係。公安が使う手段にしては妙な穴がある計画だった…… しかも財閥はFBIとも密接なかかわりがある…… 公安に日本警察にFBIにCIA…… 油断なならねぇな)

ジンは外を見ながら頭を働かせる。

(どちらにせよ。ディーヴァを見つけ出してから、ケリをつけてやる―……)
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