Act-43 姉妹の確執 前編
「声を掛けられた、だと?」
「はい……」

電話口で報告してくる男。

待ち合わせ時間の10分前を目安に薄汚れた着替えをヤサに取りに戻ったふりで行かせた。
風呂はこの2週間は公園の水道のみ。
ただ、本当にホームレスになられても困るのでウォッカに2日1度、賞味期限ぎりぎりの弁当や水、カップ酒などを届けさせていた。


”なんだ? 車がー…… 黒いのが? シボレーか?”
”―…… じいさん! ダメだよ、ここに居ちゃ”
”誰だ? ここは俺の家ー…… まさか倉庫の? す、すぐどきますんで、せめて荷物をー……!”
”入っちゃダメだ!”
”なんでだ?”
”ここはー…… その、 今から……え、映画の撮影が始まるんだ”
”映画? カメラもなくか?”
”そ、倉庫の中にセットしてあるんだ。 そろそろ役者が揃うからー…… そうだ。 これでなんか食ってー…… 今日は戻ってこないほうがいい”
”へ?”
”行くんだ。危ないから”
”へぇ…… いいんで? 貰って”
”ああ、やるから! 早く消えてくれ!”

その会話はちゃんとジンとウォッカの耳にも届いていた。

「兄貴の感は凄いっすね。大当たりだ」
「フン…… 予想道理か」
「電話…… きますかね?」
「携帯は持たせていねぇからな…… 電話ボックスからしてくるとして……小銭があるかどうかだが。」
「コートに100円玉を3つ縫い付けてあります。あと、200円程残高のあるテレカを持たせてますから……」
「なら問題ねぇな」

そんな会話をして5分ほどして、ウォッカの携帯に連絡が入った。

「遅かったな?」
「すいません。 なるべくー…… 人目のない電話を探してましてー……」
「そうか、で、どうだった?」
「男か一人…… 倉庫からでてきました。」
「ライか?」
「いえ、髪は肩位までの…… ごつい顔つきの男でした。映画のロケの準備をしてて、役者さんもくると賑やかになるから今夜はどこかで過ごしてくれと…… 5千円札を出しながら体格の良い男が」
「体格のよい男…… 映画の撮影だと?」
「組織の幹部とは思えませんでした。胸のふくらみからみて銃を所持してると思いました。あと…… 札を出しながら倉庫の中をちらちらみて…… ウォッカ様に見せられた車が。 黒いシボレーが倉庫の近くに停車してありました」
「そうか。」
「あ…… あの、ジン様? 貰った札は如何致しましょう?」
「お前の稼ぎだ。 好きにしろ。」
「は…… はい。 それで、あの 私は これから」
「今日は家に帰るな。酒でもくらって公園のドラム缶の中にも入って寝ろ。」
「あ はい。」
「ご苦労だった。」
「これで…… 娘は?」
「あぁ…… オークション対象外にしてやるよ。 報酬は1週間以内に振り込まれる。Cランクへ昇格の通知はそれ以降だ」
「ありがとうございます。これからもあの方に…… ジン様に、忠誠を誓います」
「……期待している。」


ジンは電話の向こうでペコペコと頭をさげているであろう男の顔を思い出す。

「で、どうしやす?」
「決まりきってる事をいうな。2〜3ケ月甘い汁を与えてから」

ジンは右手で首を切る真似をする。

「了解しやした。」
「宮野明美のアパートに4−5人向かわせろ。 俺が行かないと気づいたら仲間に連絡を取って、脱出させるかもしれねぇ。 明美が従わなければ気絶させてもいい。万一留守をしてるだけなら戻ってきたのを見計らって本部の尋問室へ連れて来い。それからライの家には狙撃手を含めてダースでまわせ。 あと、シェリーにも緊急呼び出しをかけねぇとな」
「シェリーも?」
「姉から何か聞いてるかもしれねぇ。」
「シェリーはライを嫌ってましたし、姉妹仲も今イチですから聞いてないような気もしやすがねぇ……?」
「とは思うが、それでも姉だ。ライを組織に紹介したのはシェリーだと聞いている」
「分かりました。」
「今6時半だからー…… これから本部に戻るとして、8時には戻れる。個室を取っておけ」
「幹部レストランに8時。個室予約っと」

カタカタとタブレットを操作するウォッカ。

「レストランの予約は兄貴の名前で?」
「ああ、構わねぇ。」
「兄貴のコードで…… と 予約完了」
「早いな」
「これぐらいできなきゃ兄貴のメモリーバンクはできませんや。後は?」
「ない。 ああ…… 宮野明美の尋問官には、安室の時に使った自白剤を用意するように伝えろ」
「―…… はい」

ジンはポケットからスマホを取り出す。

「―…… 俺だ。今、研究室か?」
「”いえ、ほら、一寸前に話した薬 ー…… 覚えている?」
「薬? ディーヴァのアレルギー中和剤のか?」
「そう! やっとね、出来上がりそうなの! あの子が何時見付かるのか解らないけど止められ無くて。 最終的な試験は此からなんだけど、やっと一区切りついたから、今日は研究所に泊まらずに5日ぶりにマンションに帰ってきたのよ。 データ整理をメンバーに任せて私はお昼に上がってお風呂に入って一眠りした所。 明日は久しぶりに研究をお休みにしたから、これからどこかに夕食に行こうかと思ってた所。 どうしたのよ? 今日はライとの仕事ってウォッカから聞いたわよ?”」
「問題が起きた。」
「”問題?”」
「ライが裏切った。―……正確にいえば、スコッチと同じだ。」
「なっ!! スコッチと同じって? ライは妹を……彩華を拉致した公安の狗だったって事!?」

電話の向こうで相当驚いて息を飲み込む気配がする。

「姉から何か聞いてないのか?」
「あのねぇ! 私がライを嫌っている事位、知ってるでしょう!? その私にライが何かいうと思ってるの?」
「かもしれねぇが。明美から電話は」
「電話? ―…… あぁ…… 3日前に充電が切れた儘、鞄の中に放置してたわ。確認するから一寸待って」
「くっ…… シェリーらしいな」
「だって、プライベート用なんて、お姉ちゃんとの連絡にしか使わないもの。あ…… 一応、諸星大の携帯も入ってるけど一度も掛けた事ないわね。 ジンとの連絡は幹部用だし。会いたくなったら、お互いの部屋にいけばいいだけだもの」
「違いない。」
「でしょう? ……それに、今、開発をしてる薬は"彩華"が見つかった時に飲ませられるアレルギーの抗体を中和する薬なのよ? お姉ちゃんと妹。 どちらが大切か、ジンならわかるわよね?」
「―…… なら、明美の家に4−5人向かわせて居るが構わないな?」
「―…… ぇ?」
「ライが裏切り者なら、明美が、情報を流した可能性もある。」
「って待ってよ! いくら馬鹿な姉でも、組織の事は知らない筈よ? 私も教えてないし。」
「ああ、解ってる。だが、お前は仮にも妹だ。調書は取らねぇとな」
「了解。―…… どこへ行けばいい?」
「8時に幹部用のカフェの個室を予約した。」
「8時半でもいいかしら? 一端研究所によって、何時でも移動できるように、残ってレポートを纏めているスタッフに私の口から伝えたいの。 あの研究所、直ぐにも撤退移動しなきゃならないでしょう?」
「ー…… そうだな。 いいだろう。8時半だ」
「分かった。なるべく早く向かうわ。―…… 全く! なんて事!」
「お前の所為じゃないのは解ってる。”あの方”にも俺からちゃんと報告してやる」
「ありがとう。 じゃ、急ぐから後でね」
「あぁ」

ジンは楽しそうに電話を終わらせた。
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