Act-43 姉妹の確執 後編
「シェリーはシロでしょう?」
「あぁ、95%な。5%は姉の尋問をみてどうでるかってとこだが」
「シェリーの事だから噛みつきそうですがねぇ」
「ライ…… 諸星がもし、ディーヴァに絡んでいたら、宮野明美に何か言っているかもしれねぇ。それを聞きだす」
「それこそ、シェリーの方が自白剤を打たせろと言いだしそうですが」
「違いねぇ。 それから組織の息のかかった弁護士を呼べ。明日の朝一で二人の戸籍を転居させる。 明後日には研究施設の引っ越しと、解体処理を。―…… それから」

ジンの指示は次々に飛び、ウォッカは反芻しながら記憶した。



「知らないわよ! 大君は裏切りものだなんて信じないわ!」

―…… パン!

頬が鳴った。

「大君は、裏切ったりしない! 散々組織の為に撃ってきたじゃない! 罪のない人たちを!」
「罪のない人だと? やはり、テメェは妹と違って役立たずだな」
「あんた達よりましよ! 妹をいいように操って!」
「自分の低脳を棚にあげんじゃねぇ!」

ジンは容赦なく頬を叩く。
両手を椅子の後で縛られて居るので椅子ごと倒れるが助け起こしてくれる味方は居ない。

「……っ」
「良いか。テメェの両親は組織の優秀な科学者だった。 にも拘らず、姉の方は役立たず。妹は才能溢れる科学者だ。 よく 鳶が鷹を産んだと言うが、テメェは鷹が鳶を産んだ ー…… 比べられた鳶の方が可哀想かもしれねぇな」
「くっ……」

妹と暮らしたくて、必死になった。
けれど、養父母達は、組織内の息がかかってて、暴力を振るったりはなかったものの、いつもいつも、影で嘲笑って居た。
妹と暮らしたい。
其れだけが願いだった。

両親と比べられ、妹と比べられ、大学に入る時は奨学金で、寮に入り、バイトと勉強をして過ごした。
留学し、海外で一流の研究者と共に英才教育を受け、飛び級であっという間に、中学、高校、大学、そして、大学院迄卒業し、博士号まで取得した妹は毎月、潤沢な予算を与えられ、節約倹約で育った自分とは大違いだった。
養父母がいて、一定水準の生活をして、世間体の手前、大学出るまでは生活保証が有ったが、大学で奨学金を取れたのは、血の繋がりがなく、それなりの成績を持って居たからだ。

幸い、バイト可の高校を選んでいたので、週末や、夏はファーストフードでせっせとバイトに明け暮れて、バイト料を貯めた。

節約して貯めた貯金で、大学時代は旅行にも行けた。
けれど、友人が妹と服の貸し借りや、取り合いの話しをするたびに羨ましかった。

「明美は弟妹は居ないの?」
「居るわ。妹が独り」
「へぇ? どんな子?」
「死んだ母にそっくりで、美人なの。明るい茶髪でね。海外に居るのよ」
「留学?」
「ううん。 両親は妹が産まれて間もなく事故で亡くなって。別々に引き取られたの。」
「そっかぁ…… 寂しいね」
「私と違って頭もよくてね、海外の学校を飛び級して薬の研究所に居るの」
「凄っ」
「でしょ? だから、、私を育ててくれた養父母は妹と比べてね。 両親は学者だったのに、その遺伝は妹が継いで、姉はダメだったって。」
「そんなこと! 明美だって、充分頭良いじゃない」
「妹と比べると、ついね……」

短大の卒業を控えて、やっと妹と会う許可が下りた。
最も、妹が海外の拠点から日本に移ってくる事になったからという理由もあったが。
月に1度か2度だったが、会えるようになった時、己と妹との差に愕然とした。
まだ幼いといっても良い年頃から人を使う事に慣れ、幹部として自分の立場を確立していた妹。
末端の構成員に過ぎない自分が組織の外で生活できたのは死んだ両親の血と才媛の妹の7光。
妹と会う為の条件は自分の細胞を提供する事。
理由は聞かなかったし教えてもくれなかった。

誰かに助けて貰いたい……
そう願っていた。

そんなとき、諸星と出会ったのだ。
法廷速度より幾分落とした速度で車を運転してたとき。
ふわり、と飛びだ出すよう ー…… 今思えば、軽い脳震盪で済む程度の事故に見せかけただけだが、当時の自分は人に車を当てた、という事だけでパニックになっていた。

(大君…… 大君…… 逃げて…… お願い逃げて!!)

頬を叩かれて煙草の火を手に押し付けられても言わない。

(大君……)

大君と別れて、何もする気に成れずにその日は大学の友人の家に転がり込んで思い切り泣いた。
一晩中酒盛りをして友人に会抱き着いて泣いて、翌日は別な友人たちも加わって昼からカラオケで歌いまくって友人と別れて。
夕食の材料を買ってお風呂に入って髪を乾かしていたら帰組織の拉致専門の男たちが問答無用で入ってきた。
声を出す間もなくクロロホルムをかがされた。

そして気が付いたら自分のレベルでは今まで入る事を赦されて居ない本部の中。
TVで見るような尋問室。
違うのは椅子に縛り付けられ、ブラウスの袖をまくられて、部屋の片隅のテーブルには屋にかの薬剤のアンプルと注射器。
そしてパイプベッド。


「まぁ、テメェがそういうのは解りきってた。 だから、な? これからライの野郎と同じように可愛がって貰えるようにしてやった。」
「!?」
「このアンプルは自白剤。 こっちは媚薬ー……」

ジンは楽しそうに笑う。

「だれかアンタなんかに!」
「フン。 誰かテメェみたいな低能女を抱くものか。 お前の相手は薬の実験に使われるヒヒジジイだ。 最後に若い女を思う存分抱かせてやるー…… とな。 勿論避妊なんてさせねぇよ。」
「……!」

明美の顔が強張る。

「志保は! 志保は知ってるの!? 私に何かあったら志保が黙ってない筈よ」
「フン。つくづく目出度い女だな。 その志保ー…… シェリーはな、お前がライを連れ込んでいた、ライが裏切ったって事で調書を受けてる。 シェリーが大切にしていた研究所も2,3日の間に撤退…… いや、爆破解体処理だ。」
「……! 研究所が」
「宮野明美。 お前の所為でな。 億を掛けた研究所がパーになる。 この分はテメェの借金になる。 シェリーとは関係ねぇ。 テメェは一生払い続ける事になる。半年前にさかのぼって、高額生命保険に入っているから来月分からはその費用は自分で払う事になる」
「……!!
「ライとどんな話を喋った? まぁ…… 薬を使った方が早いが」
「し…… 知らない。 ホントよ。いきなり別れると。そう言ったの。」
「いきなりだと?」
「ディーヴァの事を聞いて……」
「で?」
「ど…… どこにいるかはー…… しらない方がいいと」
「―…… だ、そうだ。 どうする、シェリー」

ジンは背後に声を掛ける

「―…… 気づいてたの」

黒い、幹部用の黒いスーツ。

「志保!」
「―…… よくも! 研究を台無しにしてくれたわね! あの研究所には! 沢山のデータが詰まっているのよ! それを移し替えるのにどれだけの時間がかかると思ってるのよ!!」

まくしたてるシェリー。

「―…… お姉ちゃんが毎日毎日ライを構成員として迎え入れたい。射撃が趣味といってたからきっと役に立つ―…… そう言ったから。 諸星大は嫌いでも、お姉ちゃんが諸星大を好きだという事だけは解ったから紹介したのよ!?  確かにライの技術はジンと張りあえる程の技術だった。でもね。 最初から気に入らなかったのよ。 ライ程の男が、何のとりえもないお姉ちゃんと恋人になるなんてー…… ね」
「……!」
「ねぇ…… ジン?」

シェリーはポケットにあるアンプルを見せる。

「コレ…… 使ってもいいかしら?」
「何だ?」
「開発中の薬から発生した新薬ー…… 不感症の人たち向けの試薬なんだけど……」
「くっ……」

ジンは喉の奥で笑う。

「不感症じゃねぇ女に使ったらどうなるか知りてぇのか?」
「まさか? ただの嫌がらせよ。 これぐらいいいでしょう?」
「好きにしろ。あと5分でジジイが来る。いいな?」
「ありがとう…… ジン」
「廊下にいる。」

ジンは銀の髪をなびかせて部屋を出る。

「志保…… 志保ちゃん…… まさか本気で?」
「愚かなお姉ちゃん。 2度と、あのアパートには帰れないわ。今頃、組織の手で部屋の中身一式全部運びだされているわよ。料理の調味料から服から全部―…… 分析にかけられる事になる」
「―…… 大君のものなんて何も残ってないわ。」
「それを承知でするの。 万一諸星大の仲間たちが覗きにきてー…… 宮野明美も居ず、家財道具もないと知ったら、ライは自分が裏切った所為だと思うしかない。 組織のやり方は十分知ってる―…… 新聞で若い女が顔を潰されて殺されたと知ったらどう思うかしらね?」
「し… 志保?」

シェリーはアンプルの中身を注射器の中に入れると姉の腕に突き刺した。

「おやすみなさいー…… (ごめんなさい、私にしてあげれるのはこれだけー……)」

耳元で囁くシェリーの言葉に明美の目が開かれる。

「志保……ちゃ」
「それじゃあね? 楽しい想いをした後、本格的な尋問が始まるわ。(でも……これを打っておけば、最悪の事態だけは避けられるわ……) その頃、私はここにはもういないけど」

シェリーはテーブルの上のアンプルを片づける。

ノックの音もなくドアが開く。

「時間だ」
「分かったわ。 あと1分だけ待って。 間違って自白剤とか使われたくないの。 これから組織の役に立ってもらう生体だもの。」
「確かにな。」
「じゃあ…… ゆっくり遊んでね」

シェリーはニコリと笑って男の手に触る。

「はい……。 ありがとうございます。」
「そうそう。 喉が乾いたらそこのペットボトルの水をね。 お酒はダメよ。アルコールを躰にいれたら試薬の結果の異常がでてしまうから…… 万一飲んだらどうなるか覚悟しておきなさい。」
「分かりました」
「明朝、実験センターの迎えがくるまでごゆっくり」
「はい……」

シェリーは注射器とアンプルの入ったケースを持つ。

「行きましょう、ジン。 調書とは名ばかりでも珈琲だけじゃ期待外れよ」
「分かった。 ホテルにでもいくか」
「……いいわね! でも、それよりもジンのマンションに行きたいわ。 私の外のマンションはお姉ちゃん経由でライも知ってるから撤退でしょう?」
「そうだな…… 俺のセーフハウスに行くか」
「ええ どこかで何か食べてから行きたいわ」
「分かった」

シェリーはジンの腕にすり寄っていく。

パタン。
とドアが閉まる。

明美はごくり、と唾をのみ込みー…… 固く目を閉じた
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