Act-44 ミューズの祝福 前編
「明美の姿が…… 消えた?」
インカムで電話に出ながら赤井は眉を細くする。
「ああ…… 継続して捜査はさせるが、昨日の今日でアパートに立ち入る事も出来ないし、宅配業者が来たという事位しか分からない。」
「宅配?」
「新しいベッドと棚を届けに夜間配送の業者がきていた事はアパートの住人が偶々みていた。だが、古いベッドと棚を回収していた以外は分からないそうだ」
「ー……そう ですか」
(ジンが来ないと思った時点で明美の保護を掛けるべきだった。 いや、それ以前に分かれた時に保護をした方が良かったのか………)
赤井は深い溜息を付く。
ジンとの仕事に失敗した以上、直ぐにでもアメリカに戻りたい所だが、肝心の桜が車酔いから体調を崩し、嘔吐が始まり、飛行場に着く前に高熱を発した為にDrストップがかかった。
微熱位迄下がらないと12時間のフライトには耐えられない。
ジェットの中には医療器具が揃っているが、気圧の変化に耐えきれず悪化する場合もある。
病院に戻るには危険過ぎて、飛行場の地下パーキングから、特殊避難通路でVIP用控え室迄来て、解熱治療に入った
嘔吐が続いて脱水症状が続いてブドウ糖の点滴が、続けられて居る。
本部からBAUという別動隊のチームが護衛で来日してきていたが、護衛対象者である桜が寝込んでしまって2〜3日は絶対安静、フライトなんて持っての他だ、医師に云われたので2日の間はフリータイムにしてもらった。
思わぬサプライズホリデーにメンバーは驚いていたが、折角日本に来たのだからと、テーマパークや東都美術館などに三々五々と散って行った。
だがチームリーダーであるホッチは万一フライト可能になった時、管制塔に申請できる権限を持つのが自分だけという事もあり遠出をせずに飛行場近辺にとどまっている。
「秀……パパ?」
空港内のVIP専用の個室休憩所を病室代わり映えにソファーベッドでぐったりして点滴を受けている少女が首を巡らせて言う。
背もたれで少し上体を起こして、ふかふかの大きなクッションを当てられているのは横になったままだと躰に負担が掛かりすぎるからだ
「桜? 目が醒めたか?」
覗き込むように顔を合わせて額を重ねた赤井はほっと息を吐く。
「ごめ……んね。 桜の所為で…… フライトが」
「お前の所為じゃない。」
「あたしー…… が 熱なんて出さなければ」
「大丈夫だ。 お前は何も心配する必要はない。」
「でも」
「サラ。 Drの判断に任せるんだ。 多少の熱でもフライトが出来そうなら真夜中でも飛び立つ。お前が寝ていても、だ」
「ん……」
吐く息が熱く早い。
「大丈夫だ。……熱で汗をかいて喉が渇いただろう? パジャマも汗で気持ち悪いから取り替えた方がいいな。水を飲むか?」
「氷……入れて」
「冷蔵庫に入れてあるペットボトルだ。冷たく冷えてるから氷は我慢するんだ。 少しづつ飲むんだぞ?」
大判の汗ふきシートで首筋や脇を拭いて、荷物の中にいれておいた新しいパジャマに着替えさせると、冷蔵庫から軟水の水を取り出してストローをさしこんで手渡せばごくごくと飲んで行く。
躰が水分を欲していたのが小さなペットボトルのスポーツドリンク1本だけでは足りずに2本目を強請り、赤井は医師を見る。
医師が黙って優しく頷いたのをみて、赤井は2本目のペットボトルを取り出してストローをさしこんだ
そして、半分程を飲み干して満足したらしくストローを口から放した。
「落ち着いたか? もう大丈夫か?」
「秀 ー…… パパ?」
熱は高いが少し落ち着いたらしい少女が問う
「ん?」
「アメリカってどんな国?」
「アメリカは本当はアメリカ合衆国と呼ばれてー……United States of Americaと云うんだ。USAと呼ぶ人もいる。50の州及び連邦区から成る連邦共和国で首都はワシントンD.Cで…… 国旗の事を星条旗と云うんだが、国旗の左上に紺色のスペースがあって、そこに星がかかれていて、その数は50の州を表している。」
赤井はベッドサイトの椅子に座ってゆっくりと話し出す。
「国家もちゃんとあるんだぞ。 "The Star-Spangled Banner" 日本の国歌よりも長い の、が……」
「歌?」
ピクン、と反応をした桜に赤井は墓穴を掘ったのを確認する。
「歌って!」
「あのな……。 以前も言ったが俺はお前と違って… 「教えて!」
桜の瞳がキラキラと光っている。
「ー…… 仕方ない。墓穴を掘った俺が悪いんだからな。だが、1番だけだぞ。2番以降はアメリカについてからだからな。音程を外してもクレームを付けるなよ」
「うん!」
♪・・・・・・・・♪
Oh, say can you see,
by the dawn's early light
What so proudly we hailed
at the twilight's last gleaming?
Whose broad stripes and bright stars,
through the perilous fight.
O'er the ramparts we watched
were so gallantly streaming?
♪・・・・・・・・♪
(今、明美の事を考えてても仕方ない。)
赤井は子供の時から聞きなれて歌い慣れた星条旗を歌いながら思った。
フットボールの試合の前、FBIへの入局の時、志半ば倒れて戦死した兵士達の葬儀の時も幾度となく歌い、聞いた国家。
約束通り1番だけ歌うと、ピンクに染まったの頬を優しく触る。
「大丈夫だ。 俺が付いてる。 俺がお前を護る。」
「やく、そく?」
「あぁ、約束だ。 だから、今はゆっくり眠って、熱を下げる事だけ考えろ。 」
「うん…」
ゆっくりと毛布の上から撫ぜていると呼吸が落ち着いてくる。
ウトウトしだした少女をて、赤井は大きな手で視界を防ぐように目の上に置いた。
「おやすみ、桜。 次に目を醒ましたら熱はもっと下がってる」
「―… パ、パ」
赤井はそっと額にキスを落とす。
そして手を放せば穏やかな呼吸で、赤井はほっと息を吐いた
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