Act-45 BAU 後編
「桜? パパだ。入るぞ」
「秀パパ!」

ベッドの横には白いカーテンレールが引かれていたが赤井は半分位開ければウサギの縫いぐるみを片手に抱いた少女が笑顔を見せる。

「具合はいいようだな? 廊下まで綺麗な声が聞こえてきたぞ。今日はミュージカルか?」
「パパが貸してくれたタブレットで検索したの。そしたら沢山の人が唄ってる曲の中にメモリーっていうのがあって……  ごめんなさい。」
「怒ってなんかいないぞ。お前に云う事があるんだが、その前に ー…… ご挨拶をしなさい。 パパの仕事仲間だ。」
「パパのー…… 仕事仲間?」
「お前をアメリカの、療養所まで護衛してくれるメンバーの人たちだ。」

きょとん、とした顔を見せる桜


「初めまして。私はホッチ。アーロン・ホッチーナーだ。 見事な声を聴かせて貰った。 本国に帰って元気になったら、おじさんの息子の音楽の先生を頼みたい位だ」
「ジャックは音楽の成績だけは今一つだからな。 頭は父親に似てとても良いし、性格も父親似で正義感がとても強いのに」
「勉強はいくらでも見てやれますが、音楽ばかりは……。 私の音楽の成績は1年通してBでした」
「違いないな! ……と、俺はデビット・ロッシ。おじさんには娘が居て、君位の孫がいる。 残念ながら遠くに住んでるから孫の音楽教師は頼めないが」
「…… 桜。白銀桜、です。アメリカに付いたら白銀・A・桜 になるの。」
「そうか…… 君のように可愛い娘を持てるなんて羨ましいよ。」
「羨ましい?」
「さっきから赤井に自慢されっぱなしだ。ミューズの祝福を浴びて産まれて来た子だと」
「……パパ……?」
「事実しか言ってないぞ。」

少し照れた桜の言葉に赤井は真面目に答える。

「ま、人数が全員そろった訳じゃないが、話がある」
「ー…… フライト、でしょ?」
「今日の昼頃ー…… フライトする。 パパは別行動でアメリカに行くから、このおじさん達のいう事を良く聞いて先に行くんだ。」
「一緒にいけないの?」
「済まない。ー…… 万に一つのミスも許されないんだ。お前を拉致した連中がどこで罠を仕掛けているか分からないからな。 俺は独りなら身を守れるがお前は体力が落ちてるから無理をさせられない。」
「パパ」
「大丈夫だ。 君のパパとはおじさんが一緒に行動する。2人で動いた方が怪しまれないからな。」

ロッシと名乗った壮年の男が云う。

「ロッシ?」
「いいじゃないか。幸い有給が使いきれない程残ってるから10日間位なら付き合える」
「いいだろう。 赤井のお嬢さんは俺たちが守る。 ロッシ、常に連絡を怠るな。」
「承知しているよ。」

(別行動をとらないといけない位、危険なんだ……)

桜は僅かな会話で判断をする。

「秀パパ。」
「ん?」
「アメリカに戻ったら、2番と3番、教えてくれる約束、忘れないで」
「勿論。 ー…… 今迄だって、危ない橋は沢山わたってきた。 少し遠回りになるが、ちゃんと帰るよ」
「なら、待ってる。」

桜は赤井の服を握り締める

「タブレットはお前に貸してやる。ー…… パパが帰った時に返してもらう貰うからな」
「うん。」

桜は頷く。

「ロッシ捜査官。 パパを、必ず連れて来てね」
「勿論だ。 大丈夫。君のパパがプロなら我々もプロだからな。 なんなら指切りでもするか? それから、おじさんでもロッシ、と呼んでも構わないぞ」
「私の事もおじさん、で構わないからな……。」
「ー………」

桜はじっとロッシとホッチの顔をみる。

「私、ロッシ捜査官を…… ロッシおじさんを信じる。だから指切りは必要ないわ」
「それはー…… 光栄だが責任重大だな。」

ロッシは笑を浮かべた。

「さ、唄の時間は終わりだ。少し休んでー…… 寝なさい」
「…… フライト前に起こしてくれる?」
「勿論だ。お前の乗ったジェットがちゃんと飛び立ったのを見届けてからパパも行動を開始する。」
「うん。 お休みなさいパパ。」
「おやすみ桜」

赤井がもそもそと動いて丸くなる桜の傍にお気にいりのクマの縫いぐるみをおけば、縫いぐるみを抱きかかえる

「それから…… ホッチナーおじさん、ロッシおじさんにもおやすみなさい」
「いい夢を」
「また後でな」
「うん」

赤井がそっと瞼の上にキスをおとせば、すでに夢の中に入っている幼い子供。

二人の捜査官の目に入る姿はまだ4歳の子供だった。
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