Act-04 噂
その噂を初めて聞いたのはいつだったか……
組織に潜入する前、ジェイムズが資料とは別に教えてくれた
「これは任務とは別な噂なんだがいいかね? 赤井君?」
「はい?」
「奴らの中に "Diva" と呼ばれる子供が居るらしい。」
「"Diva"? 日本語で歌姫、ですね? 姫と云うと女の子 ですか?」
「年齢は定かでは無い。だが、組織には10代前半の ”歌い手” と呼ばれる子供達がいるらしい。ちなみに漢字では"女"に家臣の"臣"を書く姫ではなく、愛媛県の"媛"という字を書くと云う」
「……らしい、とは?」
「不確かな情報だ。」
「ジェイムズが不確かな情報を話すとは、珍しいですね」
「確かめる前にエージェントが殺されたのでね。」
「! そう、ですか」
「その歌い手の中に、飛びぬけて歌の上手な女の子がいて、歌媛という称号を与えて居る、という噂がある。」
「情報で無く、噂ですか?」
いつになく歯切れの悪いジェイムズの言葉。
「オペラ歌手も顔負けな子供達を歌い手と称しており、容姿も重視されている子供達だ。 特殊性癖の持ち主達の間で、一晩幾ら、とも言われている」
「児童売春、…… ですか?」
「残念ながら証拠は無い。 何しろ、潜入捜査官たちが "Diva" という称されている歌媛がいう、という情報までしか漕ぎ着けないんだ。 その先の連絡は独りとして送ってこない。 我々以外にも潜入している者たちもいるそうだが組織としての横の繋がりがない為に夫々の組織内での情報しかないんだ」
赤井の言葉にジェイムズは顔を曇らせる。
「我々の他に日本の公安とCIA、ICPO等も複数名潜入しているのは俺の独自調査でも把握はしてますが……」
「リサイタルは完全招待。」
「招待制度?」
「諸星大が入り込んでも、何時、参加出来るかは、解らないだろう」
「チャンスがあれば探れと?」
「頼めるか?」
「勿論。 子供達を使って、資金の一つにしてるような腐った奴らに、情けはいりません。」
「すまない…… ただでさえ、前任者が失敗し殺された程難しい任務を科した上に更に難しい事を」
「いいえ。それは、FBIに入った時から覚悟していた事です。 俺の任務は前任者が命を賭けて掴んだシェリーと呼ばれる科学者に付いて、あの方、と呼ばれる代表者の側近の一人であるジンと呼ばれる人物を捉えて法の元に連れだす事…」
「シェリーはジンと親しい関係にあるという。 だが、前任者の居ない今、組織に入るツテはないも同じだ」
「いえ。 方法はある筈です。 少し時間はかかりますが、組織の構成員は日本中に散らばっています。 なんとか探して近づく方法を見つけます」
「頼んだよ、赤 …… 諸星君。 もし、一人でも多くの子供を保護出来るようなら、連絡を。」
「はい」
*****
あれから
日本に来て半年が過ぎ、俺は、組織の構成員の一人である宮野明美という女性の事を突き止めた。
ごく平凡な女。
組織の幹部にはなれそうにもないおとなしい女だが、両親が組織の幹部だったいう事で監視付だがある程度の自由を許されて生活をしてる
更に2ケ月をかけてその女性の嗜好や交際関係、仕事状況を調べ上げて、交通事故を装って近づいた。
そして、更に時間をかけて偽りの恋人関係になり、少しづつ組織の中に踏み込んで行った。
組織に入る為には組織本部への紹介状を推薦状を貰うのが最低条件だったが、近づいた女は組織の中では下っ端で、本部がまともに取り合わない。
「ごめんね、大君。 今度、妹に会うから頼んでみるわ。 妹は私と違って頭も良くて化学者なの。 薬学の博士号まで持っているの。 せめて大君に会うだけあって、入れるかどうかのレベルだけでもみて貰えるように推薦状を書いて貰うから」
「気にするな。 俺は お前と居たいだけだ。 それだけで入ろうとしているのだから」
「大君―…」
実験や研究などで忙しい日々を過ごす妹の紹介状を取りつけるまで更に2ケ月という時間が掛かったが時間がかかるのは承知の上。
偽名で作り上げた履歴はPCで調べられても問題ない程完璧だった。
それから更に射撃のテストやら何やらと様々な条件をクリアしなくてはならなかったが、そんな事は苦にもならない。
俺は新人として組織に入る事ができた。
その後は、偽りの恋人関係を続けながら幹部レベルに近づく事だけを考えて行動をした。
残念なのは明美のレベルでは情報らしい情報が手に入らない。
せめて志保、と呼ばれる妹に近づければと思ったが、科学者というだけあって多忙な日々が多く、姉と付き合っている男として、接近する事すらもできない日々が続く事になった
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