Act-46 逃避行 後編
「全く因果な商売だな。私達の仕事は」
「そうだな。 ―……移動しよう。 ここらまでくれば組織幹部の手は届かないが、1000の顔を持つ女ー…… 変装の名人のベルモットこと、シャロン・ヴィンヤードがいるからな」
「あの女優がテロの一人だったとはな……」
「クリス・ヴィンヤードは母親と言われてますが、実はシャロンこそがクリスですよ。DNA鑑定では99%本人との照合率です。」
「一昨年亡くなった、あの名女優が同一人物だったとは……」
「ベルモットは黄金のリンゴならぬ腐った林檎、ですよ。 観掛けは若いが中身は老婆だ」
「酷い言いようだが当たっているようだな。 ……? っと誰かこちらをみてるようだが」
「ええ…… 私が電話をしてる時からですよ……」

赤井は自販機で缶ビールを買って背後を確める。
ロッシが気を張ってくれているとはいえ、万一、という事がある。

「ー……次の曲り角でロッシは右側に行ってくれ」
「承知した」

ロッシはジャケットの中の銃を確認する。

「5人ー…… 否、もう少し増えたか」
「8名だな。フィリピンで会うとは任務中の連中がいたようだ」
「殺るか?」
「否。俺が見えなければ良いだけだ。追えない様にはさせてもらおう」
「関節でも外すか?」
「そんな器用な余裕は無いな。骨折程度で清ませればいいが。」
「赤井が敵で無い事を感謝しよう。」
「ふっ ……」

赤いポケットから透明なピアノ線を取り出す。

「1時間後にホテル。」
「承知した」


ロッシと赤井は顔を見合わせて路地裏に入る。
ロッシは年には見えない見事な脚力で走った。
赤井はピアノ線で足止めを貼ると慌てて駆けてきた下端構成員達の一人にビールの缶を投げつけて…… 顔は避けたが、腹部を直撃したので暫くは激痛で動けないのをの退いてー……他の面々を一撃で昏倒させ、ー…… 骨を折ってしまったのは不可抗力と思いつつ、全員のパスポートと携帯と財布を取り上げるとその場を去る。

「急ごう、ここから北京に行けば支局メンバーがフォローでアメリカまで送ってくれる手筈になっている。」
「承知した」

裏道よりも明るい通りで堂々と動く。




そして



桜と別れて1ケ月経って、赤井とロッシはバスを乗り継いでアメリカに戻ってきた。
真っ先に一番安全な大使館に入り込む。

「赤井捜査官! ロッシ捜査官! 御無事でしたか」

正面から真っ向で入ると、赤井とロッシの事を知っている元FBIの警備員が顔を綻ばせる。

「赤井さんの事だから堂々と顔を見せると思ってましたが。」
「あぁ。全く! こんなに疲れた護衛は始めてだよ」
「顔を見せたらすぐに連絡をと云われてます。 ホッチナー捜査官がロッシ捜査官の、ジェイムズ捜査官が赤井捜査官の着替えを持ってきてますから、まずは客間でシャワーでも浴びて汗を流して下さい。 ―… おい、お二人をリザーブ済み個室の客間にご案内しろ。」
「はい!」

警備の言葉にスタッフがよってくる。

「助かるよ。出来れば熱いコーヒーも欲しいんだが」
「スタッフに届けさせます。」
「客間にスマホの充電器は? 」
「どの機種でも対応出来るように複数有ります。 会うのを使って下さい。」
「有り難う。昨日充電切れな上に、ロッシ捜査官が予備の充電コードを壊してしまってね。娘に定時連絡出来なかったから今頃拗ねてハンストしてるかもしれない。」
「私のスマホを貸すと言ったんだが、ジャミングがかかってなかったから安全の為に使わなかったんだよ、彼は」
「御愁傷様としか言えませんね。」
「全くだ」
「いずれにせよ無事に帰ってきたんです。娘さんも許してくれますよ」
「どうだかな……」

赤井は溜め息を吐いた。
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