Act-47 定時連絡
「桜ちゃんの具合、どう?」

小さなノックの音がして、ジョディは病室のドアを開ける。

「―…… まだ、熱が高くて」
「そう…… はい、珈琲買ってきたわ」
「ありがとう。 ジョディが来たら買いに行こうと思ってたのよ。 ―…… 保護者の赤井捜査官…… いえ、パパと云うべきかしら? パパからの電話がない事が不安なんでしょうね……」
「こんな小さいのにわかると思う?」
「小さいからこそ、過敏なのよ。 ―…… 私だって事件で他の州に行ってる時、必ずヘンリーに電話するけど、電話が出来ないと落ち着か無いし、声を聞かないと元気かどうか分からない…… ましてや熱を出したなんて聞いたら事件なんて放って飛んで帰りたくなる」

JJはベッドサイドに置かれたカーゼのハンカチで額に浮かぶ汗をそっと拭い取る。

12時間のフライトであっとゆう間に桜と仲良くなったJJは且つてはBAU(行動分析課)の広報担当で事件のレポートを一手に引き受けていた。
均整のとれた見事なプロポーションはFBIの中でもピカ一で、綺麗なブロンドは背中まで流れて緩くパーマをされているが、ヘンリーという名前の男の子が一人いる。
そして国防総省で半年程の任務に抜擢されて戻ってきてからはチームの1員として活躍中である。
小さくでも女は女同士と、いう事で行動分析課からはJJがジェイムズのチームからはジョディ・スターリングがこの1ケ月程、桜の傍について遊び相手を兼ねて傍にいる事もあるがどちらかといえばJJの方に懐いている。
人見知りの激しい桜が、BAUのメンバーとはあっという間に打ち解けて仲良くなってしまった事自体は問題はないのだが、体力面・精神名面では酷く弱い。
BAUにはミスターユニバースと称される程筋骨たくましい武闘派のデレク・モーガンという名前の捜査官がいるが、そのモーガン捜査官がどうやって体力を付けさえればいいのかと頭を捻っている位だ。
取りあえず、朝起きたら日陰を選んで散歩。
プレイルームでボール遊びに鉄棒上り……
心臓に負担が掛からないように遊びを兼ね備えたメニューを組み立てた。
暑い昼間はBAU切っての天才で4つの博士号と瞬間記憶力を持つIQ187のスペンサー・リードと、元・裏の世界で名を馳せていた優秀なハッカーのペネロープ・ガルシアとの勉強。
二人とも桜を子ども扱いをせずに基礎の基礎からきっちりと教え込むが、勉強だけでなくチェスや囲碁、古いPCの解体とかまで教え込む為、桜も興味を示してテーブルに向かう。
音感にしてはいう事なしでホッチが一流と呼ばれるオペラ歌手のDVDやミュージカルをプレゼントしてそれを嬉々として見る。

けれど、一昨日、赤井からの定期便電話が無くて、その翌日から桜は散歩も遊びも勉強も嫌がった。
オペラのDVDを回しても電源を落とし。飽きもせずに電話を見る。
タブレットで音楽系のデータを検索する事もしない。
誰の言葉にも反応を示さず、じっとベッドの上で放心したかのように赤井からの電話を待ち…… 夕方近くになって高熱を出して倒れた

呼吸が浅く早い為、念の為にと酸素マスクを当てられているが自己呼吸はできている為、熱さえ下がれば直ぐにも外せる。

昨夜…… 赤井からの電話が無かった。
じっと、スマホを見ている桜に、医師達が電波の通り難い場所にいるだけだと、そう言い聞かせた。
赤井の行動をうすうすながら察知していた桜は納得したように見えたが、夕食は殆ど食べられず、もの凄い高熱を出していた。
解熱剤を投与されたが、心因性からくる熱なので効果は殆どない。
パジャマも汗に濡れて直ぐに湿ってしまい、シーツも何度か変えた程だ。

わずか1晩で脱水症状を引き起こして、点滴で水分を補っている。

「大丈夫ー…… 大丈夫よ。 パパはちゃんと帰ってくるわ…… ロッシと一緒に。」
「ぱ……ぱ」
「そうよ。 お約束、したのでしょう? 国歌の2番と3番を教えて貰うって」
「ー…… どこ?」
「きっと…… きっとね。 もうすぐ帰ってくるわ。 パパだって、電話が出来なかったと心配してるわ。 声が聴けなかった。歌を聞けなかった……って」
「―……ぅ……」
「大丈夫…… パパを信じて…… ロッシおじさんを信じてあげて」

息子が熱を出して寝込んだ時のようにそっとお腹のあたりを叩いて、撫ぜる。

「―……」

暫くそうして落ちつかせていると桜はやっと寝付いた。

「全く! 秀ってば定時連絡忘れてどこをフラフラと…… こっちからコールしても電波の届かない所かメッセージだし! おそくても2週間位で戻ってくると思ったのに」
「そうね。 ロッシの方からの定期連絡だと、今日あたり戻ってこれると言ってたけど……」
「そう……」

熱が下がらないのは赤井の声が聞けないという不安から。
僅か4歳の子からしてみれば、約束を破ったと思ってしまっても仕方ない。

「……っ!」

桜の躰が小さく揺れた

「桜…… ちゃん?」

JJとジョディが異変に気付く

「!?」

翡翠色の瞳が一瞬開かれて、小さな手が宙を掴むように伸ばされて、パタリと落ちる

「桜ちゃんっ!」
「Dr! 桜ちゃんがっ!」

JJとジョディがナースコールに飛びつく。


RuRuRuRuRu……
BuBuBUBU……

枕元のテーブルにおいてある赤井と桜のホットライン専用にのスマホが着信を示し、JJがジャケットにいれてあるスマホのメールの着信音ー…… 病院なので当然マナーモードー…… が重なった。
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