Act-48 親馬鹿 前編
大使館の客間の浴室で久しぶりに汗を流してさっぱりとして、長い髪をドライヤーで乾かしながら着替えをする。
室内に置かれている時計をみればまだ昼間。
毎日の約束は夕方だが、ここはアメリカで後は桜を預けた療養所に顔を見せて、抱き締めるだけ…… なのだが。
2日も連絡が出来なかった為、スマホを鳴らしてすぐに出てくれるだろうかと赤井は考え込む。
拗ねて無視させるとか大泣きされるならまだいいが、パパなんて嫌いだとか言われたらどうしようか。
部屋に入って真っ先に高速充電器に差し込んだため、電池容量は70%程になっており、通話には何ら問題もない。
桜が拗ねて出なかったとしても、ジェイムズのチームからはジョディが、BAUの連中も何かと気を使って顔をみせてくれていると聞いていたから余り心配はしてないが何しろ4歳。
しかも普通の幼児と違ってすでに高校並以上の知識を持つ。
そうそう簡単に赦して貰える筈はない……
好物の苺と苺ミルクに苺ジュースと苺のケーキを沢山買っていけばご機嫌取りになるだろうかと本気で考え、喜びそうなスィーツを指折り数えてスマホを見る
ノックの音がして時間を見計らったかのように淹れたての珈琲が届き、馴れた英語にアメリカに戻って来たのだと意識を覚醒させていく。
豆から挽いたらしい珈琲の香りと味を楽しみながら部屋に置かれていた煙草の封を切り加えるが火をつけるのを止めた。
(拗ねていたら充電切れな上移動中だったと謝るしかないな。それに当分は本国から離れる事もない…… ゆっくりと信頼関係を気築く時間もある筈だ。)
FBIがジャミングシステムを付けて登録した電話回線は近場でも衛星を数か所通して探知させにくくなってなっている。
赤井は小さな溜息を付いてスマホを取り上げた。
RuRuRuRuRu……
普段なら数回のコールででる筈が出てこない。
(昼間だしBAUの連中と勉強でもしてるか昼寝をしてるか遊んでいるか……?)
暫くならして苦笑しながら電話を切ろうとした時ー……
「シュウ!? シュウなのっ!?」
「ジョディー……?」
酷く焦ったような声ででたのは後輩であり仲間のジョディ。
「どうしたんだ? そんなに慌てて?」
「どうしたもこうしたもー…… 約束の連絡位しなさいよ!!」
「済まない。 一昨日、桜に電話しようとしたら充電切れを起こしててな。 ホテルでロッシに充電コードを借りようとしたら肝心のコードが壊れてて……」
「充電器位買いなさいよ! 桜ちゃんがどれだけ待ってたか分かってるの!?」
「あぁ…… 悪かった。 だが、俺達の充電器は特殊だから買う訳にもいかないしな。 漸く、大使館まで戻ってきたんだ。 桜はどうしている? ジョディが出たという事はご機嫌ななめで拗ねているのか? それともー……」
「この ……馬鹿じゃないの! 帰って来たなら電話する前にさっさと桜ちゃんに会いに来なさいよ! 昨夜から酷い熱出して―……発作まで起こして大変なのよ!」
「発作……?」
赤井の思考回路が一瞬止まる。
「シークレット回線でコールしても馬鹿親はでないし! パパの電話はって、秀の事を呼んでたのよ!!」
「容態は?」
「医師が診てる。担当の精神科医の話だと不安神経障害かもしれないって。」
「不安?」
「桜ちゃんは拉致されて何等かの教育を受けさせられて居たのよね? その時、恐らく組織の誰だかが面倒を見てた筈よ。 まだ4歳なんだから、恐怖感を感じる前に擬似家族として感情を捻曲げその面倒を看ていた連中の誰かになついていたとしたら、離ればなれになったと思うか、見捨てられたかと思って精神のバランスがおかしく無っていても可笑しくないだろうって。」
「ー……直ぐに行く。」
「当たり前でしょう!!」
スマホの向こうでジョディが眉間に青筋立てて頭から湯気を出して居るんじゃ無いかと思う。
「ー…… あ、一寸待って……/「もしもし? 赤井さん!?」」
「JJ? 君も居てくれたのか?」
「ジョディと入れ替わりの時間だったのよ。 今、モーガンが大使館に向かってるから。後ー…… 多分、15分位で付くと思うの。 大使館にはホッチから連絡が入ってる筈よ。」
「ー…… 15分」
「大使館にね、赤井さんが来たら桜ちゃんの御機嫌取りに苺のスィーツを適当に見繕って渡してくれって、依頼してあるの。 それを引き取って来るといいわ」
「苺の?」
「大体ね! 4歳とはいえ偏食過ぎよ。 アレルギー食材は別として、それ以外の食材の殆ど食べないし! 元気になったら食生活の改善から始めなきゃ。 聞いてる!?」
「ー…… 其処まで酷いか? 少食なのは知っているが」
「……もう! 療養所にきたらじっくりお説教してあげるわよ! 仮にも親と名乗るなら生活改善から始めなきゃ」
「お説教は後ほどゆっくり拝聴す……」
赤井が苦笑した時、ドンドンとノックの音かする。
「―…… 一寸まってくれ、ロッシがきたようだ」
ドアを開けるが早いがロッシが姿を見せる。
「―…… 赤井! 桜ちゃんの事を聞いたか!?」
「今、JJから迎の事を聞いた所だ」
「なら、丁度いい。モーガンからFBI特権使ってでスピードMAX。後、5分程度で付くと」
「承知した。……という事でな、JJ。急いでスィーツを引き取ってここを出る。」
「分かった。」
「桜を頼む。―…… 直ぐに戻ると」
「伝わるかどうか分からないけど言っておくわ」
赤井はスマホを切ると、椅子に掛けておいたジャケットと床に置いたバッグを取り上げる。
「急ごう。モーガンが間もなく来る。」
「―…… 桜……」
赤井は手を握り締める。
「大丈夫だ。 JJもジョディも縁起でもないが危篤とは言わなかった。―…… だから、大丈夫だ」
「……そうだな。」
(大丈夫だ。 あの子は…… あれだけの心臓の手術に耐え抜いた子だ……。 組織の中で完全看護だったかもしれないが……その時よりはマシな筈)
「……赤井捜査官」
玄関に行くと女性スタッフが銀色の保冷バックを差し出してくる。
「BAUの依頼でご用意しておいた苺のスィーツです。 ゼリーと、ババロア、苺ミルク、苺のチョコ、苺のロールケーキ・・苺尽くしでとの事なので。」
「ー……ありがとう。桜が喜ぶ」
「早くお元気になられるといいですね。」
「あぁ……」
赤井が保冷バックを受け取ると玄関が空いて警備スタッフが顔を出す。
「赤井さん! FBIの迎が……」
「今、行く。」
赤井は保冷バッグを傾けない様に急ぐ
「ロッシ! 赤井! 此方だ!」
運転席から手招きをするモーガン。
「すまない、仕事中だろ?」
「気にするな。 リトル・エンジェルはBAUの妹分だ。BAU部長のストラウスですら一目で気に入って、任務外で会いに行くのは問題なし。気難しいオバサンだが、リトル・エンジェルも何故かなついてる。 因みに赤井パパを嫌いになったら、養子縁組の引き取り先はBAUになるからな」
「驚いたな。あの、エリンに懐く? 君の娘は魔法使いか?」
「ただの歌媛ですよ。ミューズに愛された娘です」
「シートベルトをしてろよ? かっ飛ばすからな」
「ケーキが崩れない程度に頼む。 食べられるかどうかはわからんが、桜に泣かれたく無い」
「ー……っと。了解」
モーガンは思わず桜が大泣きする姿を思い浮かべてスピードを少し落とした。
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