Act-48 親馬鹿 後編
FBI直下の療養所に到着すると、保冷バックはモーガン達に預けて 赤井は前って聞いておいた桜の部屋に向かって駆けて行く。
「桜!」
赤井にしては珍しくノックもせずにドアを開ける
「しー……っ」
ずっと付いていてくれたらしいJJとジョディが指を唇に当てる。
「今さっき、やっと薬が効いて眠った所よ。」
「そうか……」
「まだ熱が高いから起こさないで。」
「承知した」
赤井は足音を殺してベッドに近寄ると額に浮かぶ汗をそっと拭い取る。
酸素吸入器をつけ、脈拍計と心電図の機械に繋がれているが、呼吸は落ち着いている。
「ただいま、桜。ー…… 心配かけたな……」
「ー……でも、不思議よね? 1時間前は呼吸も早くて、吐いたりして、面会謝絶か集中治療室かって話も出たのよ。 でも、電話口からパパの声が聞こえた途端、落ちついたの。親なら子守唄位歌ってあげたら?」
「桜は耳も良いから変な唄は歌えないぞ。」
「逃げ回ってた1ケ月、必死になって子守唄とか調べてたよな?」
「……まぁ、知らない、なんて言えないのでね。」
「それだけ記憶力があるのに何を云う。」
「音感センスは別ですよ。俺が覚えたのは一部の童謡プラスアルファ程度だ」
「それでも、きっと喜ぶわよ。」
「そうそう。小さい時の読み聞かせとかは大切なんだから」
「読み聞かせねぇ? 桜の記憶力で今更なような気もするが……」
「もう! 精神面はまだ幼児よ? 抱っこも昼寝もお散歩も成長に大事なスキンシップなんだから! 親失格になりたくないでしょ!」
「御高説は最もだ。 ―…… 本屋に行ったら児童心理学の本でも買ってくるよ。寝かしつけは弟と妹でスキルはあるからな。」
「あぁ…… 兄貴には負けるけどそこそこ頭のキレる弟とお転婆で男勝りな妹さん?」
「弟は兎も角、妹は育て方を間違ったからな桜は女の子らしく育てるよ。 マザーグースのようにお菓子と甘いものとすてきなものでな」
「それがいいわね。 アドバイスが必要ならいつでも知恵を貸すわよ。ホッチでもね。」
「その時は相談するよ」
赤井は僅かに口角を上げる。
「ー…… 桜」
カタン、と音を立ててベッドサイドの椅子に座る。
(早く元気に成れ―…… 其から沢山友達を作って…… 普通の子らしく。 楽しい事を沢山覚えて…… 映画もショッピングも、約束したミュージカルにも連れて行ってやる……)
「あーあ…… シュウってば溶けそうな顔しちゃって」
「ふふっ…… 親ならこうでなくちゃ、ね」
ジョディの言葉にJJが笑みを浮かべる
「JJ? 赤井が戻ってきたら説教かますって息巻いていたんじゃなかったか?」
「……の、積りは変わってないけど、まるで恋人同士のハートマークが飛び交ってそうなあの場に入り込める?」
「―……邪魔したら脳天ぶち抜かれるだろうけど、な」
トントン、と肩を叩くと振り向いた赤井にクーラーボックスを差し出す
「忘れモンだよ。」
「あぁ…… 済まない。」
「ま、ケーキより娘優先ってのはわかるけどな。ジャケット位脱いだらどうだ? 抱き上げた時にそのボタンは嫌がられる。 あと、ケーキもクーラーボックスのままじゃ冷蔵庫に入りきらない。」
「っっと……。 ……そうだな」
赤井は来ていたジャケットの飾りボタンの位置に気づいて脱ぐと部屋の壁に掛かってるハンガーにかける。
「全く……1時間前の大騒動が嘘のようね」
「ホント。 ―……でも良かった。」
「さてー…… これ以上容体が悪くなる事も無さそうだし。我々は失礼しようか。」
「そうだな。 書類書きをリードに押し付けて来ちまったし。」
「私もジェイムズに報告に戻らなきゃ。シュウの報告書は―……明日、ノーパソを持ってきてあげるわ」
「頼む。 今日もぬけれそうなら一端顔を出すとー……」
「了解」
再びベッドサイドに腰を下ろした赤井をみて、ジョティたちは顔を見合わせて苦笑するとそっと病室を出る事にした。
「シュウってば今から親馬鹿全開かしら?」
ジョディが呆れたように言い出す
「ってかもう親馬鹿になってるんじゃないか?」
「ロッシもそう思います?」
「何しろ充電がきれてから、煙草と酒の量が一気に増えた。 鍛えてるとはいえ肝臓と肺の検査で要再検査になるんじゃないかと思う位にね」
「……はぁ…… まずは禁煙からかしら?」
「両方無理だろ」
「じゃ、節煙からだわねー…… あと、桜ちゃんがアレルギーを起こす食材と食べようとしない食材の一覧を用意してあげなきゃ……」
「1日の運動量もだな」
「勉強はリードとガルシアが見ていたんだろう?」
「まぁ…… 教える事なんて無かったけどな。リードはチェスやオセロ、哲学や語学を教え、ガルシアがPC構造とかネットの組み立て方を教えてました。」
「未来のビュロウか」
ロッシが思い出すように云う。
「ビュロウになるには15歳にはなって貰わないと…… といっても15歳でビュロウだと赤井の最年少記録を軽く抜いてしまうが…… 体力面のテストでふるい落とされー…… いや、リードの特例とガルシアの特例もあるから大丈夫か……」
「年齢制限といえば確か赤井も一度引っかかったんじゃなかったか? サマー・スクールで抜群の運動神経と成績を叩きだして、18の大学卒業と同時にビュロウ入りだよな?」
「将来FBI捜査官を希望する大学生対象としたサマースクールに当時15歳の少年だった赤井がいたんだ。 年齢制限を明記してなかったから大学から送られてきた書類選考の年齢を担当者が見落としてな。 サマー・スクール参加の許可証をもってオリエンテーションにきた少年をみて大騒ぎ。だが、一端出した許可を取り下げる事はできないから脱落覚悟で参加させようとキャンプ責任者が判断した」
「ところがどっこいの結果をだした……と。」
「キャンプ初日の体力テストの監督官は俺の同僚だったが、もの凄い新人が現れたかもしれないと舌を巻いていた。並み居る大学生をごぼう抜きでトップクラスのグループに食い込んだんだからな」
「でしょうねぇ…… シュウの体力はバケモノ並だもの」
思い当たるフシがあるのかジョディが溜息を付く。
「サマー・スクールのキャンプで体力・重火器の取り扱い、サバイバル試験の知識、緊急時の行動…… その他モロモロ…… 10項目教化の合計成績総合1000点中で950以上若しくはベスト10以内の成績を収めたものは卒業と同時にFBI入局資格を与えられるのは知ってるか?」
「950かベスト10ならいいってヤツだろ? 確か50人クラスを作って日程を変えてそれぞれ1週間だっけ?」
「1週間は女子だ。 男子は10日間。それぞれ初日の体力・学力テストで3つの班に分けてのキャンプだ」
「それをクリアしちゃった・・と」
「……15歳で937点取られてみろ。鼻柱の強い自己意識の強すぎる子供達を9割以上落とすのが目的のサマー・スクールだぞ? 初めてのサマー・スクールは937で、ベスト10は成らなかったが 特別枠でビュロウ入りの話まで出たが許可は出なかった。17歳の時は969で本人が希望すれば入局許可もだせたんだが、その時は本人が大学を卒業してから入りたいと辞退した。18の時には992という過去の受験生最高点数を叩きだし、その場で卒業と当時にと話が決まった。―…… それも、採点する連中がミスを探し捲っての結果だ。」
「つくづくバケモノレベルだな。」
モーガンが溜息を付く。
「いつも冷静で一匹オオカミだったわ。……それが、桜ちゃんを救いだしてから、表情が柔らかくなったようにみえる。」
「……桜ちゃんと電話してる時も優しい顔をしてたな。 フィリピンで組織の連中とやり合った時は容赦なく叩きのめしていたが。」
「兎も角。桜ちゃんはシュウの宝物になったのよ。―……任務で辛い時…… あの子の声に何度も救われたー…… そう言ってたもの」
「それは解る。 組織の連中が躍起なって探すのもあの声が武器として役に立つからだろう」
「……あー…… 確かに。 ジュリアードとか即日いれそうよね。」
「ウィーンとかドイツの有名な交響楽団の聖歌隊とか」
「ウィーンで少年合唱団は女の子は無理だから、ドイツのヴェルニゲローゲ少年少女合唱団かな。」
「………………」
「兎も角、俺達の仕事は一端小休止だ。 後は赤井次第。」
「赤井が桜ちゃんを連れて本部にこれるように手配できるか聞いてみるか」
「あ! それいいですね! 人見知りだからどこか部屋を一つ貰ってお勉強部屋にして……」
「机とベッドに。」
「PCを2台と電話。窓にはピンクレースのカーテン」
「いいわね! サプライズで計画できるかしら?」
「確かエリンも桜を気に入ってると言ってたな? できるかもしれないぞ」
「素敵! 女の子はいるだけで華やかになるわ」
わいわいと病院を去る面々
(やれやれー…… 俺が聞いてないと思って勝手な事を)
赤井は耳に差し込んだイヤホンで会話を聞きながら苦笑する。
(桜ー…… 俺はお前の父親になれるだろうか…… 明美を救う事も、志保……シェリーを救う事も出来なかった…… 組織を潰すチャンスを失った俺が……)
赤井は昏々と眠る少女の顔を見つめながらそっと小さな手を握り締める。
「大丈夫だ……。 パパはここに居る…… 今はまだ苦しいだろうが、傍にいてやるから…… 頑張れよ」
♪・・・・・・・・♪
眠れよ 吾子 汝をめぐりて
美しの 花咲けば
眠れ、今は いと安けく
あした 窓に 訪いくるまで。
眠れよ 吾子 汝が夢路を
天つ使い 護りたれば
眠れ、今は いと楽しく
夢の園に ほほえみつつ。
♪・・・・・・・・♪
赤井が唄うブラームスの子守唄が、病室に流れ……
桜の躰に付けられた脈拍計の音を消した。
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