Act-51 父娘喧嘩 前編
桜の一時退院許可ー…… 正確にいうと外泊許可、が出たのは赤井が帰国して1ヶ月以上が経ってからだった。
発作を起こして倒れて2日程はずっと付ききりだったが、目を醒ます度、赤井の顔が視界に入り、朝も昼も夜も居る安堵から、桜の体調は目に見えて良くなっていった。
一番の問題は食事。
普通の幼児よりも少食で、食べる物は両手で数えられる程度。
アレルギーがあって、薬品レッドカードがあるにしても、まともに食べるのは果物だけ…… という事実に赤井は困惑する。

(組織の奴等は…… この子をどうやって育てて来たんだ?)

年の離れた妹は、子供特有の味覚の差こそ在ったが、小さな頃から回りの大人達が食べる物を食べたがり、お腹を壊すと心配される程良く食べる子供だった。
その妹を見ていたせいか、ついつい比べてしまう。
消化器官の働きが悪く、沢山食べると吐き戻す事も有るため、食事の量をかなり減らして、時間を置いてまた少し。
肉類も魚類も乳製品も殆ど口にしない。
其れでも、口に有った物を食べてくれるだけで、赤井の頬は緩む。


(急ぐ必用は無い。 ー……此れから少しづつ、食べれる物を増やせばいい。)


ジョディが持ってきたセキュリティがガチガチに掛かったノートPCで作成した報告書と密かに入手していた関係者のDNAが分かるものの分析結果の報告会。
それら諸々の処理に半月
ごねて泣き出すかと思いきや、夜は泊まりに来て、朝の散歩に朝ごはんを一緒に食べて、行ってきますのキスをして出かけるので昼に電話が出来なくても機嫌は良い。

なので、山程のレポートを提出し、サインをして、一息付いたら半日外出許可。
熱もださず、帰ってきて、翌日の検査結果次第では朝から夕方迄の外出許可。
それを何度か繰り返して発作等を起こさすに体力が回復してくるようなら退院……

…… と、為る筈だった。

それが。

外出許可を目前に控えて赤井に5ツ星ランクの紹介制レストランオーナーが以前の任務とは関係ない別なテロ関係に命を狙われている為、緊急で護衛の任務が入った。
テロの主犯がはっきりしてるため逮捕してオーナーの身の安全が保障されるまでという期間で要する時間は1週間から2週間と目されていた。
先方が、半年は遊んでいられる特別長期公休があった赤井を指名してきたのだ。

外出許可がでたらパパと2人きりのデート、というのを指折数えて楽しみにしていた桜は当然ながら荒れに荒れた。
枕を投げつけ、看護師が運んできた食事を投げ捨てる。

「桜! 俺に八つ当たりするのは仕方ないが、食べ物を粗末にするんじゃない!」
「秀一の嘘つき! 秀一なんて大っ嫌い……!!」

翡翠の瞳に涙を溜めて好物の苺も赤井に向かって投げつけるという、文字通り大嵐の小悪魔台風娘と化した桜。

「っと……!」

赤井は見事な運動神経で投げつけられた苺を回避したため汚れなかったが傍にいた医師はよけられず白衣に命中して赤く染める。
赤井が避けてしまった為に、桜の怒りゲージは更に上がった。

「秀一の馬鹿〜!! 何で避けるのよっ!」
「ぇ? 嫌、避けるのが普通…… ん?」

普通だろうと言いかけて、ハタと思いつく

「―…… Dr? もしかして、避けたのはマズったか?」
「この場合は避けずに甘んじて受け止める…… というか、服を汚した方が桜ちゃんも満足したでしょうねぇ……」
「はぁ……」

赤井は深い溜息を付く。
が、投げられそうなものはあらかた投げてしまったので何かしら渡して投げつけろ、という気に成れなかった。

「嫌いだもんっ 秀一なんて嫌いだもんっ!! どっか消えちゃえ!!」
「桜!」
「桜ちゃんっ! それ以上興奮したら……っ」

小さなお姫様の台風を聞きつけて安定剤を持ってきた看護師が顔色を変える。

「ほら…… イイコだから薬を飲んでー…… きゃ!?」
「桜っ! 止めろ!」

看護師が差し出した薬と水を受け取ったと思いきや勢いよく投げ捨てる。

赤井は呼吸が乱れて来た娘を抱き上げて落ち着かせようとして、パシンと小さな手で弾かれて幼い爪で頬を引っ掛かれて拒否される。

「桜。 ―…… 興奮したらまた発作を起こす。熱をだして苦しいのは嫌だろう?」
「秀一なんてパパじゃないもん!! 任務でも捜査でも勝手にすれば!!」

赤井の腕の中から逃れようとジタバタと暴れる桜。
赤井の腕力を持ってくれば拘束するの簡単だが、あまり力を加えたら心臓に負荷がかかりまたICUに戻る事になる

医師が安定剤を打とうにも幼い爪で反抗する

「分かった分かった! 降参だ降参。 パパが悪かった。頼むから、少しでいいからパパの話をー…」

赤井は桜をベッドにもどす。
名前を呼ぶ=超絶ご機嫌斜めか超絶機嫌が良いかのどちらかだが、今回は間違い無く前者…… なのでこうなったら桜が折れる事はない。

泣く子と児童には勝てぬ

赤井は、その言葉を知識としては知っていたが、まさか自分がその言葉を体験するとは思っておらず、親になったのは早まったかのか、とすら思った程の荒れようだった。
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