Act-52 生き甲斐 前編
「いいですか? 薬はちゃんと服用して、長袖と帽子を忘れずに」
「うん! 大丈夫! パパと一緒に9回寝たら、ちゃんと帰ってくる」
「あぁ…… そうだな? 日が高くなる前に地域内の教会に行って、司祭様と神父様に挨拶をして、其からデパートに行って、ベッドを買おう。 女の子には鏡台も必要だな? それから可愛い洋服と新しい食器ー……。」
「桜ね、ウサギさんかクマさんがいい。 ディズニーのおしゃれキャットのマリーちゃん!」
「了解。 ウサギならウェッジウッドにピーターラビットのシリーズがあったな。クマなら…… ハロッズか? ……ディズニーは何処で買うんだ?」
「ハロッズは縫いぐるみだったような気がしますが…… ディズニーショップはありますが熊のプーさんはあるかもしれませんが、マリーちゃんがあるかどうかは……??」

そう答えて首をかしげる医師の顔も嬉しそうだ。

「ま、その場に行ったら気が変わるかもしれないな。」
「そうですね……。 車椅子とAEDは?」
「車に入れてある。 だが、使わずに済むのが目標だな。」

此れから長いアメリカ生活に為るため、外出許可がでたら一度は教会に挨拶を…… と、暇を見て買っておいた淡いグリーンの膝丈のワンピースに黒いベルトと靴で愛らしさ前面に引き立てた桜は赤井とも外出にウキウキと駆けだしそうだ。

「おーーっと! 桜ちゃん。駆けっこは禁止だよ。移植手術の拒否反応は全くないとはいえ、発作が起こったら大変だからね?」
「! うん……」
「気長に治そう。誰が移植をしたのか分からないが拒否反応がないだけ凄い事なんだ。」
「さ、行くぞ、桜……」

赤井はわざとらしく車のキーをチャリンと鳴らす。
キーホルダーは付けない主義だが、桜の興味をひくため、スワロフスキーを埋め込んだキラキラ輝くエッフェル塔のホルダーがついている。

「桜が持つ!」
「なら、車に差すまで桜の任務に依頼してもいいか?」
「アイアイサー!」
「頼んだぞ、桜捜査官」
「了解」

赤井の口真似をする少女にくすりと口角を上げて笑う。

「じゃあ、ドクター。」
「気を付けて。朝晩の血糖値と血圧チェックは忘れないでください。 万一発作がおきたら連絡を。24時間対応するよう周知させてありますから」
「あぁ。」

赤井はボストンバッグを持ち上げると肩にかける。

「パーパ、早く!」

桜が即す。

「早く! 苺のケーキ食べたい」
「分かった分かった。 苺は逃げないから、ほら、先生に”行ってきます”は言ったのか?」
「あー…… 行ってきます!」
「行ってらっしゃい。楽しんで来るんだよ?」
「はーい」

にこにこと手をふる医師に桜も振り替えす。

傍目には普通の幼児だが、頭の中は大学生並。
問題は精神面でこちらはほぼ見かけレベル。

赤井はボストンバックを掛けてない方の手で桜の頭を撫でる。

(シェリーはー…… 志保はきっと、姉を裏切った諸星大を恨み、桜……ディーヴァを探してるだろう……。 あの子供嫌いなジンですらディーヴァだけは自ら護衛をするほど可愛がっていた。  ……俺は、明美を裏切った。だが、若い女…… 顔の分からぬ女の遺体のニュースはFBIのネットにも出てこない。 俺に見せつける為ならばわかるように殺す筈。つまり生きているという事だ……。 ジンなら心理戦も厭わない。)


”ディーヴァを護ってあげてね? 私や……志保のように寂しい想いをさせないで”
(明美はそう言った)

まるで仔犬が親犬に甘えるように赤井に纏いつくように歩く桜に笑みを見せる


(済まない、志保……。 君が大切に育ててきたディーヴァを俺は奪った。この報いは何時か受ける事があるだろう……。 もし、組織を壊滅させてなお、この子の両親が見つからなかったら―…… その時は、この子をすべてを話そう。 もし、この子の記憶が戻って、俺でなく君を選んだら、君に返そう。  だから今は…… 俺にこの子の預けてくれ……)


スコッチが…… FBIの俺達とは相容れぬ筈の日本警察の公安の彼が、あえて俺達に…… 俺にディーヴァを預けてくれた。

俺は、彼の思いを無駄にしたくない……
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