Act-55 冬が来る前に
ガチャリ、とドアが開いて、明美は入ってきた人物を見るために顔を上げる。


問答無用で気を失わされて気づいたら組織の本部にある尋問室。

ジンの配下の男に自白剤のような物を投与された。

何処までが現実で何処から夢なのか。
志保が来て何等かの液体を液体を注射された後、初老の男に一晩中躰を持て遊ばれ、その後、夜は幾人もの男が躾と称して抱きに来る。
それも独りではなく、複数の相手に前後から攻められる。

1週間ほどそんな状態が続いた後、首輪の様な物を付けられ、檻の様なものに入れられた。
檻には黒い布がかけられ、何処に連れて行かれたのか分からない。

けれど、それがどこかの島である事は海の匂いで分かった。
そして白衣の男女がいる事からなんらかの研究施設である事も。
部屋の作りは悪くない。
シングルのベッドに机と椅子。
着替えを入れる箪笥にカーテンで仕切られたバスルーム。
パソコンは無いが衛星を使ったTVもあるのでニュースも見れるしラジオもあるから日付を間違う事もない。
最も見れる番組、聞ける番組の制限があるが、TVとラジオが接続された部屋を与えられているのは妹が組織の中でもTOPに入る科学者である幹部だからだ、と説明された。
食事も贅沢ではないが、バランスのよいものが3度ごとに届けられる。

だが、制服をきた男たちが夜になると監禁されている部屋にきた。
夜毎に私の躰は汚されていいく。

(会いたい、大君… 今の私に、貴方を愛する権利なんて無いけれど。 それでも…… 大君。 貴方に抱かれたい。)

今迄はシェリーに会う条件として、1〜2ケ月に一回、組織にDNAを採取され半年に1度卵子の提供が義務つけられているだけだったが、諸星大が組織から消えてから週に一度となり、情事の後が残った躰を検査して月の排卵日に卵子まで採取される。
それまでは女性医師で少なくとも躰を気遣って採取をされていた。
それが、島では男性で、下半身どころかで上半身を視界を隠す、という気遣いも無い。
黙って唇を噛みしめて時が過ぎるのを待つだけ…
平然とした顔で傍に付き添う看護師には表情が無い。

(私はー… どこまで堕ちていくのだろう… 救いなのは身ごもらない事だけ)

恐らくそれは、志保が生体実験用に処方している薬剤を週に一度服用させろと命じて届けさせてくれている薬品のお蔭




「志保? 私が検査される様子でも見にきたの……?」

ガチャリとドアを開けて入ってきたのは白衣を纏った妹だった。


「ー…… シェリーよ。 志保なんかじゃ無いわ。」
「いいえ。私にとっては志保よ。たった独りの妹だわ。」
「私は、姉だなんて認めて無いわよ。」
「そうね。 私は、志保ちゃんの足手まとい。警察機構の男に騙されて、組織の中に連れ込んだ女だわ」
「そのとおり。馬鹿な女のせいで、私達の可愛いディーヴァは行方不明。私の研究所も焼失。」
「ごめん、なさい。志保の研究室迄処分する事に為るなんて、思ってなかったの。ましてや、ディーヴァが拉致される羽目に為るなんて想像してなかったわ。 此だけは本当よ? 貴女の研究を中断させるつもりはなかったの」
「今頃言っても遅すぎよ。あの研究所にいたのは私だけじゃない。他の研究員も居た。 下級構成員に過ぎない宮野明美は本来ならとっくにオークションで売られていたわ。」
「オークション? 私は、だれかに飼われる事になったの?」
「宮野博士夫妻と血の繋がりがある実の娘をオークションに出せないわ。 貴重なDNAを持っているのだから」
「お父さんとお母さん、の」
「感謝しなさい。 彼等は、組織の役に立たない末端構成員にしか過ぎない娘を守ってくれているわ。」
「そんな、話をしに、こんな島迄来たの?」
「まさか! ジンが久し振りにハンティングをするの。獲物が複数居るから半分くれるというので来たのよ」
「この島に狩猟場所が有るの?」
「えぇ。 とても素敵なハンティングワールドよ。生き延びた人はいまだに居ないわ」
「生き延びた人?」
「昨日一昨日、新しい男たちに抱かれたでしょ? 彼等が獲物よ。半分は私の薬の被験者に為るの。」

シェリーはクスクスと笑う。

「そんな。 人を獲物にするなんて! 正気なの?」
「諸星大はディーヴァの行方を知ってる筈。 ―…… 拉致したとしたら、今頃、あの子の躰の異常に気付いてる。 その諸星大と遭遇しながら見過ごしたのよ! 役ただずのあいつらは。あの子は…… あの子の躰はっ 普通じゃないのにっ!」
「ディーヴァは… どこか悪いの?」
「! お姉ちゃんには関係ないわ。 お姉ちゃんにはあの子を治す事は出来ない。」
「志保。 教えて。ディーヴァは貴方の何なの? あのジンですらディーヴァを探していると聞いたわ」
「ディーヴァはね、私達の大切な妹なの。」
「妹!?」
「そうよ。 でもお姉ちゃんにとっては赤の他人。 ディーヴァの事は、宮野明美には関係ない事だわ。 今日、私が来たのはお姉ちゃんを迎に来て上げたの。 ここにきて4ケ月……。 まだ正気を保っている。」
「どういう事」
「―…… ジンがね、この島に送られた女たちは2ケ月位で昼夜関係なく男を欲しがる娼婦に堕ちこぼれると言ったから、賭けをしたの。 4ケ月経っても正気だったら、監視付で末端構成員に戻してほしいとね。 それからフサエブランドの新作のスーツとバックも買って欲しいってね。」
「それで」
「賭けは私の勝ち。先週目出度く4ケ月になったのよ。 だから、ハンティングの帰りに船にのせてあげる。 勿論この場所を知られちゃ困るから眠って貰うけど。」
「ー……」
「最も衛星通信でTVも見れるしラジオも聴けて、夜の相手もいたから不自由は無かった筈よ。 お姉ちゃんの携帯は私があずかってるから日本に帰ったら返してあげるわ。 データは全て消去してメールも電話帳も消えた状態だから綺麗なものよ」
「携帯、返して、くれるの?」

(大君と一緒に選んだ 大君が選んでくれた 大君が買ってくれた携帯)

「たかがガラケーごときがそんなに嬉しいの?」

志保はくすりと笑う。

「今時ガラケーなんて「シェリー」」
「ジン?」
「獲物が揃った。 半分、お前にやる約束だ。 好きな獲物を選べ。ハンティングは午後からだ。 仕度はできているのか?」
「もう、そんな時間? 無駄話が過ぎてしまったわね。 直ぐに行くわ。 獲物のデータを見せて頂戴。 ハンティングの支度は着替えるだけだから10分有ればで十分。 私のハーレーは?」
「キャンティのバイクと並べてある。 メンテナンスはしてあるが、キャンティが最終確認をしているぞ。」
「キャンティが」
「お前はどうせ獲物選びに夢中になるだろうからってな。 テメェのバイクの手入れ位テメェでしろ。」
「ふふっ……  今度、キャンティに御礼をしなきゃね。私は銃は下手だからジンの後ろについていくわ。 いいでしょう?」
「あぁ…… 」
「行きましょう? ジン。 お姉ちゃん。日本に帰えるのは48時間ー… いえ、60時間後位かしらね。 それまで、監視の人と最後の逢瀬を楽しみなさい。」

シェリーはジンに寄りそうように腕をからめて出ていく。

(志保)
産まれて数週間で組織に引き取られた妹。
組織で育った為に、自分とは異なった常識の中で育ってしまった哀れで可愛い妹。
勿論、自分も一時の間、組織の施設で育てられたが、妹と違って早々に外の世界に戻された。
つまり、宮野の血を引いているというだけの存在なのだ。

(いいえ。 何時か、必ず助け出して、普通の女の子にして見せるわ・・・。 冬の後には春が来る筈だもの)

明美はふっと机に置かれたラジオを付ける。


♪・・・・・・・・♪


秋の風が吹いて 街はコスモス色
あなたからの便り 風に聞くの
落葉つもる道は 夏の想い出道
今日もわたし一人 バスを待つの
冬が来る前に もう一度あの人と
めぐり逢いたい
冬が来る前に もう一度あの人と
めぐり逢いたい


♪・・・・・・・・♪

(もう一度・・ あの人とめぐり逢いたい・・・ か。 綺麗な声・・ 誰が唄ってるのかしら)

昔、TVでみていたフォークソング特集で聞いた。
紙ふうせんというグループの冬が来る前に。


明美の脳裏に自分を裏切った愛する男の顔が浮かぶ。

(冬が来る前に)

―… 私は何時か、殺される。 生き延びれないかもしれない。
(逢えるだろうか。死ぬ前にもう一度)




”お聞きいただいたのは亜米利加の、と、ある教会の聖歌隊に属している一人の少女の声です。 亜米利加国籍の子だそうですが、大人顔負けの歌唱力で教会の聖歌隊の一人として唄っているとか?”
”実はこの聖歌隊の子供達の事は教会に通うカトリックの方々は良く知っていて、数年前から月に一度、教会の墓地の前で讃美歌とか国家を歌っているとの事です”
”すでに聖歌隊の子の何人からプロの歌手デビューをしているそうですが、今日お届けした子に関してはデビュー予定はないとのコメントを出しています”
”勿体ないですね。 すでにプロの音楽プロデビューのオファーもあるそうですが、まだ子供である事と、人見知りをするという事でTV出演どころが写真撮影を含めた画像公開のNGでオーディションにも参加をしてないそうです。”
”残念ですねぇ。”
”ですが、日本の曲が教会で歌われるなんて同じ日本人として一寸嬉しいですね”
”そうですね”

♪・・・・・・・・♪


冬が来る前に もう一度あの人と
めぐり逢いたい
冬が来る前に もう一度あの人と
めぐり逢いたい


♪・・・・・・・・♪

―……  まさ か!

(聞き間違い?)

”それではまた来週もこの時間にお会いしましょう。 海外旅行でみたちょっと日本の風景。メールお手紙FAXお待ちしてま〜す”

(この声―……  ディーヴァ!)

明美は慌ててラジオを消す

(大君。 無事で ディーヴァを 日本から?)

祈るように手を握り締める。

(どうか、無事で)


カツカツカツ、と足音が聞こえて来て、明美はラジオではなく、TVを付けて具だらないドラマをみている振りをする。


”明美 生き延びろ”

諸星大として言われた言葉は今だに耳の奥に残っている。

(私は……  生き延びて見せる。 もう一度、あの人にあうために。 志保を救ってくれるかもしれないあの人。 私が最後を見届ける事はできないかもしれないけれど、きっと志保が見届けてくれる。 大君と、大君の仲間たちと供に)
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