Act-01 願い
私には産まれてから4歳位までの記憶がない。

どこかで唄って事だけ、うっすらと残る記憶の影に残ってる。

「桜はミューズの祝福を貰って産まれてきたんだ。」

そう教えてくれたのは、私を助けてくれたアメリカ連邦捜査局のFBI捜査官である赤井秀一。
狭い場所から助けてくれた人……。

でも、記憶に影に残る人影とは違う人。

銀の髪と赤茶の髪。
お酒と血の匂い。
化粧と薬品の匂い。
黒いスーツと白い白衣。
車とバイク。

時折出ている記憶の断片が不安を呼び起こす。

怖くて怖くてー……
なのに恋しくて抱きつきたい。

夜中に悲鳴を上げて飛び起きる。
心臓が苦しくなって、痛みに襲われる

「桜! サラ! どうした!? ……また、恐い夢を見たのか?」

返事をする事が出来ずに悲鳴を上げ続ける私を、抱き上げて抱き締めてくれるのは赤井秀一。

―…… 私のパパ。

「大丈夫ー…… 大丈夫だ。 恐い夢はもう終ったんだ。 ここはもう安全だ。」

心臓の痛みが無くなって、寝付くまでパパは私を抱き締めてくれる。

「俺が居る…… 命に賭けて守ってやる。」

パパの腕の中が一番安心できる場所。
大好きなパパ……。
本当のパパやママが見つかっても、私は秀パパと一緒に居たい。

けれどー……

時折夢に出てくる銀色の長髪の男の人と明るい茶色のショートヘアの女性の人は一体だれ?
何故かとても懐かしい感じがするー……

でも、その事を話すとパパの瞳はいつも曇る。

「必要になったら想い出す。 だから今は忘れていろ……」
「パパにも会いたい人がいるの?」
「生きて欲しいと願う人はいる。 けれど…… それは彼女の運しだいだろう……」

"彼女"

パパの好きな人だろうか?
聞いてみたかったけど、パパの瞳の色が聞かないで欲しいと言ってるので聞けなかった
パパに言われてから私はその事を話さない。


私はミューズの祝福を受けて生まれた娘とパパはいう。
私の持ってる不思議な力。
頭の中に入っている沢山の唄。

私は唄う
パパと同じお仕事で無くなったという人たちが眠る教会で月に一度。
時折悲しい瞳を見せるパパの為。

讃美歌の時もあれば世界の民謡の時もある。
オペラを歌う時もあれば明るい童謡を歌う時もある。

私の唄を聴いてくれるのは教会の敷地にあるリハビリ施設で暮らす人。
足の不自由な人
目が不自由で点字を勉強してる人。
教会で神父として暮らす人もいる。

その人たちの為に唄う。

私の唄で笑顔を亡くした人たちが笑顔になってくれると司祭様が言った。
声を出せなくなった人が必死に何かを云おうとする。
誰にも心を開かずに部屋から出れない程の傷を追った人達が涙を流して、部屋から出ようとする。
歩くことを諦めた人が、歩こうとする。
私の声は魔法なのだと。

でも、パパは私が沢山の人前で歌うのを嫌う。
それは私を護る為。

赤ん坊だった私を誘拐した人たちが、私の声を武器に悪い事を企むのを阻止するため。

想を
輝を
優を
祈を
安を

沢山の願いを声に乗せて私は赦しの歌を唄う。

Amazing grace

躰と心が覚えているこの唄を。


♪・・・・・・・・♪



Amazing grace
how sweet the sound
That saved a wretch like me!
I once was lost but now am found
Was blind, but now I see.

'Twas grace that taught my heart to fear.
And grace my fears relieved;
How precious did that grace appear,
The hour I first believed.



♪・・・・・・・・♪



”一曲歌え”

そう言ったのは誰?

” …… の歌を聴くと落ち着くの。ずっと一緒よ。”

優しい声。

逢いたい。

本当の私を知る人に。


でも。

逢えた時…… パパはどう思うのだろう?

お願い、パパ

私を放さないで…………

ずーっと…… ずーと……
一緒に居たいの……
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