Act-02 招待 前編
ロサンゼルスのに郊外に世界的有名な推理小説作家の工藤優作と世界的に有名な女優である有希子が暮らす家がある。
「お早う、優作! 」
先日、地獄の締切を終えて、これでもかという位、寝溜めをした優作が着替えてキッチンに行くと、年中無休で元気な有希子がエプロン姿で朝食の用意を整えていた。
「お早う、有希子」
「今日の予定は? 締切は昨日だったわよね? その割に早起きだけど何か約束でもあるの?」
「今日は昼食に呼ばれているからね。朝食は軽くでいいよ。」
「昼食? ディナーでなくて?」
「実は赤井君からの招待でね ……」
「赤井さん? 優作が時々アドバイスをしてるFBIの切者捜査官、だったわよね?」
有希子は珈琲を入れる手を止める。
「プライベート的な相談だが、できれば近日中にと言われていてね。締切の翌日だったら会えると言ったら今日になった」
「赤井さんがプライベートって珍しいわね? 初めてじゃない?」
「そうだな。 彼からの相談事体が初めてだよ。しかもできれば有希子も一緒に……と」
「私も?」
有希子がきょとんとした顔をする
「あの、赤井君からの相談事だ。 出来るだけ力になってあげたいと思ってはいるんだが…… 仕事であちこち飛び回って居るからね 本部で会う事も少ないよ。」
「そんなに?」
「2〜3年前は、かなり危険なテロ組織の捜査をしてたようだ。」
「……そう。お仕事とはいえ大変ね」
有希子は顔を曇らせる。
「だったら、尚更力になってあげなきゃ、ね?!」
「そのつもりだよ」
優作は笑う。
「で、何処でランチ?」
「アーネストホテルのカフェ・クリストファーの個室を1時に予約してあると連絡があった。」
「カフェ・クリストファー? しかも個室って……? 」
有希子は驚いて目を見開いた
表だって公開はしてないが、オーナーは米国軍の幹部だとか、国防総省のOGだとか、はたまた海軍出身とか噂され、セキュリティーの厳しい、”一見さん”は入れないカフェである。
一つのテーブルが広めでテーブルとテーブルの間も開いている、空間を贅沢に使った配置で商談にも適して居るが、身元調査済みの紹介者が必要で、世界トップランクのアーティスト達ですらメンバーズになるのは難しく、優作ですら通りかかりに寄ろうとして、世界的に有名なミステリー作家だと知られつつも入店を断られた程だ。
暫くして、その店の常連であるIT会社の社長が招待してくれて、漸く入れる事になった時、ドアマンの男性が店長を同行の元で、以前入店を断った事に対して、丁寧に詫びを入れた。
「気にする事はない。 君は君の責任を果たしただけだ。 私も後からこの店の規約を知ってね。これから贔屓にさせて頂くよ。」
「ありがとうございます。」
それ以来、優作も有希子を伴い何回かその店を使っているが、紹介した友人は片手で数えられる程で、息子の新一は今だに連れて行ってない。
新一を連れていかないのは持前の好奇心でオーナーの事やら目に入った客の事やら調べようとするのを防ぐ為でもあるが、お忍びでランチを楽しみにくる有名人の事を興味深々と詮索されたら、父親の優作も母親の有希子もランチが楽しめなくなるからだが、常連となった優作でさえ個室の予約は中々取れない。
赤井がその店の個室予約を取れる、という事はそれなりの人物から紹介されており、オーナーの信頼も厚い、という事だ。
表にでる接客マナーは厳しく躾られており、ウェイトレスもウェイターも身元調査済みでそれぞれの得意分野もあるが、会長本人が母国語である英語の他にドイツ語、フランス語、イタリア語などを流暢に話す事から、語学に秀でたスタッフも雇われている。
手話やジェスチャー能力が高く、コミュニケーションをとれるスタッフも多く雇われ、笑顔を絶やさず、酔った客がいたら、さりげなく別室で休ませる。
更にバックヤードの方では障碍者も雇われ、障害の程度にもよるが、夜間清掃や玉ねぎや馬鈴薯の皮むき、皿を拭く、ナプキンを折る等、差別無く雇われている事も高評価されている。
障碍者たちがリハビリで作るクッキーは食後にサービスで提供されるがこれが人気で月に1週間程限定で売り出すのだが、あっという間に売り切れる人気商品だ。
決して豪華な料理ではない上にその日のメニューはシェフ任せというのが多いが、アレルギーや宗教上の問題で食べられないものがあれば、予約時に伝えればできる限り対処してくれる。
有機栽培、無農薬食材などの季節の食材を使った料理は大統領や王室の晩餐会に出しても可笑しくない、と言われ、事実オファーも来ているが、一度も受けた事がないので有名だ。
その店への招待。
「何か有りそうね?」
「私も、そう思うよ」
有希子が言い、優作も頷いた。
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