Act-04 怪盗と探偵とFBI 前編
「この宝石の片割れを持つ女性が、赤井君の桜ちゃんと関係がある…… という事だね?」
「鑑定士は2個の石を半分にして加工したものと言ってましたら、恐らくそうではないかと……」
「一寸待って? 桜ちゃんは赤井さんの娘、なのよね?」
「正確に云うと養子です。2年程前に捜査の過程で保護をしました。記憶が無く、自分が何という名前で呼ばれていたのかも覚えてませんでした。 誕生日も分からないので正確な年齢は分かりませんが骨や歯の成長状態から3、4歳。その後、私が後見人となり亜米利加で法律上の娘として養子にしました。」
赤井は戻ってきた箱をまた順番に鍵をかけながら淡々と説明をして、バックにしまう。
「優作さんは作家として、有希子さんは世界に名立たる女優として人脈もおありだ。 俺達FBIにはない情報も手に入れる事ができる筈。」
「過分な評価は有りがたいが…… 私達にわかる事は限られるよ」
言葉を選びつつ牽制球を繰り出す優作に向かって、赤井はポケットから煙草を取り出して、ゆっくりと火をつけて紫煙を吐き出す。
「……日本で”怪盗1412”若しくは”怪盗KID”と呼ばれる、巨大な宝石を中心に盗みまくっている人物がいる事をご存じですか?」
「KIDの事なら知ってるわ。新ちゃ …… いえ、日本に居る息子から怪盗KIDの噂を聞いたから」
「怪盗1412と云うのが国際犯罪者番号ですが……、1412がKIDの意味をもつ、と解読したのは優作さん、貴方でしたね? 彼は、主にビッグジュエルと呼ばれるサイズの宝石を専門で、被害額は軽く200億を越えてます。」
「確かに解読したのは私だが、それと、この話の関係は…?」
「今、日本を騒がせているKIDは黒羽盗一の息子である黒羽快斗。 江古田高校の1年生です。」
「「快斗君……」」
「はやりご存じでしたね?」
「―……っ!」
赤井は苦笑する。
「表だってはマジック好きな高校生。ですが、夜になると父親がマジックショーで着ていた白いスーツでビッグ・ジュエルと呼ばれる様々な宝石を盗み出して警察を翻弄しています」
「…………」
「不思議な事に、宝石の殆どは2〜3日すると色々な方法で持ち主の元に戻ってくるのと、人を殺す事はしない、という事で、彼はアイドル的に有名になってきています。」
「それが? この件と繋がるのかい?」
「FBIから、黒羽快斗君がKIDであると云う事を証拠品付きで日本警察に情報をリークして、家宅捜索をして逮捕させるのは簡単です。 唾液、指紋、声紋などから同一人物だと特定するのも簡単ですから逮捕させ、顔は少年法に守られますが、学校は退学処分、生涯マジシャンとして手が使えなくなる神経切断手術を受けさせるのも簡単な事……」
「逮捕するというの? 快斗君を」
有希子の声が震える。
「状況証拠はそろってますし、被害を受けた美術館や展示会の会場から彼の指紋・声紋もDNAも入手済みです。 実家の隠し扉の場所も、協力者である寺井氏の所在も確認済ですが、彼の事を、日本警察へは教えていません。 かつてファントムレディと呼ばれた女性は今だに国際手配中。 私が持っている証拠を提出したら逮捕されます。 捕まったら夫人は日本の法律ではなく国際法に基づいて裁判が待っています。ご主人と御子息の事を知っていて黙っていたという犯人隠匿の罪状も課せられて10年以上は塀の中で暮らす事になります。寺井氏の場合は…… 彼は、先代からの協力者で、今も色々と協力していますから無期は確実。 奪った宝石を元に還すのは国がするとしても賠償金で家邸は処分する事になります。 家財道具全部売っても賠償金の支払は出来ないと思われます。 快斗君はすでに2代目として犯罪に手を染めていますが未成年という事で顔は出ませんが、TV撮影された顔かたちを顔認証ソフトで公開する輩がでてくるかもしれません。 それ犯罪者の子として有名になるだけで、マジシャンになるという目的を達する事は出来なくなる。 黒羽盗一氏と知り合いである有希子さん、貴女も取り調べの対象となります。」
さらりと言い切る赤井に有希子の手がピクリが動く。
「何故私達に教えるのか、聞いてもいいのかな?」
「黒羽快斗はただの2代目。オリジナルである黒羽盗一という東洋一のマジシャンの息子に過ぎません。盗一氏は20歳前後でマジック教会国際連合グランプリを獲得しましたが、息子さんは無理でしょうね。」
「……黒羽盗一……」
「初代と優作さんは怪盗と探偵としての間柄でもあった筈……」
「ならばどうして逮捕しないのか、教えて貰えるかな?」
「逮捕に踏み切らないのは、2代目が一人の人も殺さず、女性に乱暴したりしていない上に、目的があって、宝石を探しているようにみえるから―… とでも。 ちなみに、怪盗が復活したという噂が立って、その画像をみた時、娘は今のKIDは怪盗1412のコピーキャットだから追う価値も騒ぐ価値もないと一刀両断に言い捨てましたが」
「コピーキャット……? 模倣犯の専門用語だね。 まだ6歳の娘さんが、そう言ったのかい?」
「初代のステージ衣装を着ないと騒いで貰えない可哀想な模倣犯、というのが娘の意見です。」
「手厳しい事を云うね。赤井君のお嬢さんは」
「私の娘ですから。」
優作が苦笑して赤井も口の端を上げて不適に笑う。
「困った事に、桜は真似を嫌う傾向がありまして… 黒羽盗一氏の貴重なライブビデオは穴が開くほど見たがるのに怪斗君が文化祭とかでやった参考ビデオは1回みて ……といっても学生の文化祭ですから10分程度のものでしたが、動きもタイミングも父親の真似。 本人のオリジナルに欠けて面白くないと云い捨てました。 マジックのネタなんて元は同じですし、父子なのだから似て当然だと思うのですが、娘にとっては、魅力が足りないようです」
「おやおや」
「ですが、俺は先ほども言いましたがわざと同じ服を着ている事に意味があると…… 目的があると思ってます。」
「目的って?」
「ビッグ・ジュエルの中に、パンドラと呼ばれる石があるそうですね」
「パンドラ……?」
「月光にかざすとその中に紅い焔が見えると噂される輝石です、彼は、その宝石を探していると思われます」
「その宝石を探してどうすると?」
「その宝石こそが、初代KIDを事故死させた原因でもあるからです」
「ならその宝石を探せばいいだけでは?」
「恐らく、日本の…… いえ、世界有数の王家、財閥系の大邸宅のどこを探してもパンドラはみつからないでしょう。世界に名立たる鈴木財閥のオーナーが協力者だったとしてもです」
「何故?」
「その理由は後ほど。」
赤井はふう、と溜息を付く。
「有希子さんは、その盗一さんに変装技術を習った事があったそうですね。 もう一人…… 数年前に亡くなったクリス・ヴィンヤードという女優と一緒に」
「!!」
有希子は黙り込む。
「そんな事もあったわね。」
「初代は脱出マジックに失敗して事故死したという噂ですが、もう一つの可能性があるのをご存じですか」
「……もう一つ?」
「私が数年前に潜入捜査に入ったある組織では数か月に1度、<リサイタル>と呼ばれるコンサートを開いてましたが、そこでは催眠音波で顧客を操ってたのではないかと思われる節があります。」
「催眠音波? 催眠術の事でいいのかな?」
「催眠術とは、少々違うかもしれませんが、大分類で分けると同じだと思われます。」
「大分類」
「初代KIDのマジック・ショーが失敗するように暗示をかけられ、仕掛けがおかしくなるように仕向け、公衆の面前で死ぬように仕向けた人がいる……ということです」
「なら…… あの事故は! 作られた事故だと?」
「その可能性がある、という事です」
「じゃ…… じゃあ、その事故を仕組んだ人は……!」
「俺の調査では、犯人であろう、と思われる人は複数名います。ですが、奇妙なことに、飛降自殺・焼身自殺、行方不明、記憶喪失・麻薬中毒で精神病院で隔離中…… などで証言することができません。」
赤井は臆する事なく優作と有希子を見る。
「……精神病院に送られた犯人にも会いましたが…… 面白い事を云いました」
「面白い?」
「黒羽は死んでねぇ…… 俺達が殺したのが黒羽であって黒羽じゃねぇ… と、涎を垂らして、拘束帯を付けられて …… 勿論精神異常者の言葉ですから信用なんてできませんが……」
「それはつまり……」
「……黒羽盗一氏は何者かに拉致されたか、顔をかえて生きてる可能性もある…… という事です。ステージに上がったのは他人の空似。 故にミスをしたとも思われます。 世間ではプロでありながら初歩的なミスをした、という汚名を残したまま」
「そんな……! なら快斗君は……」
「このままでは、初歩的な脱出マジックに失敗したマジシャンの息子という事で、初代の汚名は雪げません。―…… 最も、それを売名行為として売りにするようなら其処までの人物だという事ですが。」
「……」
「殺された理由は、”パンドラ”という宝石を探して、とてつもなく危険な組織に潜り込んで失敗し…… 正体を知られたからだと思われます」
「危険な組織……」
「日本・亜米利加は言わずもがな、世界の国々で暗躍している闇の組織。 彼方此方の諜報機関や警察機構がやっきになってヤツラを潰そうとしていますが、いまだに叶っておりません」
「そういう組織があるというのは私も噂で聞いているが……」
「先ほど俺が言ったクリス・ヴィンヤードはその組織のコードネームを与えられた幹部ですが、1000の顔を持つ女と言われてました。 表の顔は有希子さんと同じ女優でシャロン・ヴィンヤード。 先年亡くなった女優のクリス・ヴィンヤードはシャロンの母親と言われてますが、実はシャロンの変装だと。」
「シャロン……!!」
有希子が手を握り占める。
「今のところ、有希子さんが、組織幹部の友人であることは、俺以外誰も知りませんが、同じ女優として友人同士であるだけというなら、今はこれ以上の詮索はしません。」
「そう…… 其処まで調査済みだったの」
「もう一つ…… 貴方がたの息子さん 工藤新一君が何等かの事故で江戸川コナンという名前の少年になっている事も、DNA鑑定で簡単に証明する事ができます」
有紀子は唇をかみしめ、優作は深い溜息を付いた。
「ー…… 参ったね。流石にFBIきっての切れ者と云われるだけの事はある。 それで赤井君は私たちにどうしろと」
「優作さんの情報網と人脈をお借りしたい」
赤井は優作の顔を凝視して言った
「さて…… 私の情報網といっても、FBIの調査以上の事ができるかどうかは」
「FBIもCIAも日本警察も…… 夫々の縦の繋がりは深海のように深いですが、それぞれの機構の横の繋がりは細い。 情報の共有は皆無ですし、必要な情報があったとしてもTOP同士の合意なければ教える事はない。 つまり、俺が調べた程度の事はFBIでなくても調べられると云う事です。」
「―……」
「……俺達が追っているのは、FBIだけでは壊滅できない程大きく、黒く…… 簡単に倒せる相手ではない。」
「ー………」
「世界的規模で著名なミステリー作家の工藤優作なら、中立の立場で動ける筈です」
「赤井君…… 君は」
赤井の言葉に優作を目を見開いて黙り込む。
「……ここから先は、FBI捜査官では無く、一個人の赤井秀一のの独り言として聞いて欲しいのですが これに関しては、小説のネタに使うのも避けて頂きたいし、有希子さんからみれば、もしかしたら嫌な事を云うかもしれません。無理なら今日の事は綺麗に忘れて退出を願います。」
「退出」
優作と有希子はごくん、と息を飲む。
「ー…… 分かった」
たっぷりと5分以上悩んだ優作はぬくるなった珈琲を飲みほして答える。
「私と有希子は、君の独り言が終わって、プラス10分程…… 壁になろう。何を言っても質問もしない。」
「私も。赤井さんがそこまで云うなら、それなりの理由がある筈ね。 でも、一つ聞かせて?」
「何でしょう?」
「私たちに、理解不能だったら幾つか、質問してもいいかしら?」
「勿論…… 答えられる範囲で」
「ならば、私たちを壁と思って話をしたまえ。 君のタイミングで構わないよ」
「感謝…… します」
赤井は自分の席にある珈琲をゆっくりと飲み干すと、深呼吸を一つして話始めた
その物語は、推理作家である工藤優作の想像を、遥かに超えるものだった。
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