Act-05 反抗 後編
「優作さんと有希子さんは子供好きだからきっと仲良くできる筈だ。 優作さんの小説は、お前だって好きだろう? 工藤さんの家には、お前が喜びそうな難しい本が沢山有るし、ここにはお前の部屋があるから、優作さんか有希子さんに連れてきて貰えばいいだろう?」
「嫌!! あの人たちからは不協和音が聞こえて五月蠅いんだもん!」
「なら、真純たちに預けてもいいんだぞ?」
「真純おばちゃんはパパよりチェスもオセロも将棋も囲碁も弱いし、お家の中で男の子みたいなカッコばかりで乱暴だから嫌!」
「我儘も大概にするんだ、サラ!!」
パシン、と桜の頬が鳴る。
「シュウ! なにも叩かなくてもいいでしょう!」
ジョディが、叩かれた頬を抑えて赤井を睨み付けた桜を抱き寄せて庇う。
五月蠅いから嫌、と言われた優作と有希子は顔を見合わせて溜息を付く。
「やれやれ…… 手厳しい事を臆面もなく言われてしまったね」
「不協和音ってそんなに五月蠅い? アタシ?」
「まぁ…… 大人しくはないと思うが」
「むぅ……」
「ともかく、預かるとしても有希子の好きなショッピングとかに連れ出すとか、車を飛ばすとか、そういう事は無理そうだね。 絶対聴覚があると言っていたからコンサートで1音外したら速攻で帰りそうだ」
「う〜〜〜。」
大のショッピング好きお出かけ大好きな有希子は溜息を付く。
二人がひそひそ話す間も親子喧嘩は続く。
「構うな、ジョディ! 桜は工藤さんに預ける。 それが、一番、安全なんだ」
「でも…… こんなに嫌がっているのに可哀想よ。 日本につれていっても私たちが気を付けていれば……」
「日本に行ったら、俺はホテルを転々とする。 家を借りたとしても、何日も帰れない日が必ず出てくる。ジョディたちに任せるとしてもだ。お前は高校の英語の臨時教師として赴任する事が決まってる。 学生達が教師の家に訪ねる事があるかもしれない。 それでもつれて行けるというのか?」
「……」
「日本で、桜の髪の色はとても目立つ。 何かあってからでは遅いんだ」
「でっ…… でもそれなら私だって」
「ジョディは自分の身は自分で守れるだろう? 桜は守れない。 たとえジュニアコルトを使えるとしても、奴らの銃の方が威力は強いんだ。 それに、桜と一緒にいる時はゲームセンターにもいけないぞ。桜がゲームのBGMやカラオケが嫌いなのは知ってるだろう?」
「……っ」
「サラ……」
これ以上言い合いをしたら、桜の躰が持たない。
下手したら熱を出して寝込んでしまう。
赤井はぜいぜいと息を切らしている桜をそっと抱き上げて、あやすように背中を撫ぜる。
「今回は利き分けてくれ。 日本は…… 1週間位、観光にいくだけならいつでも連れて行ってやれるが今回は長期任務になるからどれだけ危険なのか解らない。 お前にとって、危険すぎるんだ。」
「秀一の馬鹿っ!!」
桜は容赦なく赤井の頬に爪を立てると緩んだ腕の中から飛び降りて容赦なく足を踏みつける。
「〜〜〜っ ……気が済んだか?」
顔色一つ変えない赤井。
「!! 秀一なんか嫌いだ!」
「そうか。 嫌いなら連れていく必要はないな」
「赤井秀一のID使って、ペンタゴンのセキュリティに侵入してやるっ!」
「お前が逮捕されるだけだが、それでいいならやっていいぞ」
「じゃあ、PCウィルス作ってFBIのPC全部壊して、データを全部消去してやる!」
「壊せるものならやってみせろ」
「いいわよ! データを全部壊して、かたっぱしからウィルス感染してみせるもん! でもって、ペンタゴンからもデータ引き出してみせるもん!!」
「いいだろう。 出来るものならやってみろ」
「やってやろーじゃない! ガルシア仕込みの”シルバー・プリンセス”のハッカーの腕をみせてあげるわよっ!」
「……そうそう簡単にペンタゴンセキュリティの突破なんかできないぞ。」
「BQと一緒ならペンタゴンだろーが、NASAだろーが突破できるもん!」
「そうか…… って! ……ガルシアとタッグを組むつもりか!」
BQのコードを聞いた途端、流石の赤井も顔色を変える。
行動分析課のリーダーであるアーロン・ホッチナーに逮捕され、壁の中にいくか、それが嫌なら、その技術を行動分析課で使えと二者選択でスカウトされたITの専門家。
FBI切っての分析のプロだが、前身は超一流のハッカーだった。
ハッカーの世界で知らぬ人はいない、BQ(ブラッククィーン)を名乗っていたペネロープ・ガルシア。
その彼女なら世界中に潜り込めるのは折紙付きだ。
「ふんっだ。 捜査命の赤井秀一はさっさと日本にいけば? 私はペネロープと遊ぶもんっ」
「桜……」
冷静な赤井と興奮している桜。
「桜ちゃん、落ち着いて、ね? 許可なくハッカーするなんて良くない事よ? 確かにガルシアは仕事であちらこちらのシステムに侵入する事はあるけど、それはちゃんと許可をえて仕事としてやってるの。 桜ちゃんがやろうとしてる事は悪い事よ? 解ってるわよね? 」
ジョディが宥めるように云う。
「おばちゃんには関係ない。どこかで恋愛ゲームでもしてきたら?」
「おばちゃ…… あー はいはい。桜ちゃんからみればおばちゃんよねぇ……。 まだシングルなのに、私ってそんなにゲームばっかしてるようにみえるのかしら……」
「朝とか昼とか自分のノーパソで遊んでる位知ってるもん。 くだらないシューティングゲームとか恋愛ゲーム。」
「……すっ 好きなんだものしょーがないじゃない!」
「恋愛ゲームのどこがいいのか、分からない。囲碁将棋とかチェスなら対戦相手になってあげるけど、皆、弱いもん…… リードとチェス対戦しても3分もたないでしょう?」
「リードと一緒にしないでちょうだい。 彼は特別よ特別! 桜ちゃんと一緒で記憶力抜群の天才なの!」
一刀両断に切り捨てられてガックシと肩を落とすジョディ。
「……兎も角、だ。 このままでは桜ちゃんも折れようがないだろう? 赤井君も赤井君だ。 子供相手に売られた喧嘩を買うんじゃない」
「ジェイムズ……」
「仲裁は時の氏神、と日本では云うそうだからね……」
ジェイムズはしゃがみ込んでポンポンと桜の頭を撫でる
「桜ちゃん…… 暫くの間、おじさんの家で一緒にお留守番できるかな? 私が日本へ行くのはまだ先だ。 その時までに、どうすればいいのか、考えて上げるから」
パシン、とジェイムズの手を叩いて除ける桜
「…… されれば いい。」
小さく呟かれる言葉。
「ぇ? 桜?? ……?」
「……パパなんか”ジン兄”に殺されればいい!!」
"ジン兄"
桜の言葉にその場にいた全員が硬直した
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