Act-06 銀と赤 前編
「……桜?」


ジンにぃ……だと?
あのジンが、桜の兄だと?
ジンは俺と同年代。
桜はまだ6歳。
……と、いっても歯や骨の成長状態から割り出した年齢だが、付けた名前と同じでどちかといえば小柄な日本人の血を引いているというのなら7歳か8歳とかでも可笑しくはないのだがそれでも10歳を超す成長ではないという。
親子と云える年の差の兄妹だというのか?

あの、ジンが兄なら、お姉ちゃまというのは誰なんだ?

赤井は銀の弾丸そのものになったかのようにハイスピードで色々な事を考える

ジンが組織でディーヴァを可愛がっていたのは覚えている。
<リサイタル>の時には自ら護衛をする程だった。
ウォッカや志保たち他の幹部も可愛がっていた。
他の幹部たちが可愛がっていたのは桜がジンの妹だったからなのか?

そもそもジンの両親は誰なんだ?
確かに桜はジンと同じ銀色の髪を持つ。
だが、髪の色が同じだなんて世界を探せば山といる。

あれだけの宝石を2人の娘に与える事が出来る資産家。
ジンも拉致されて洗脳されて育った子だと云うのか?
もう一人妹がいるとするなら誰なんだ?
ジンもなにがしかの宝石を与えられていると云うのか?
それとも、妹が生まれたと知って、ジン自ら組織に連れ込んだのか?
ジンの妹だというのなら知能が高くでも納得できるが射撃センスが良いのも分かる。
だが、ジンは、足手まといになるような人間を引き込むような性格じゃない。


「サラ? お前 ”ジンにぃ” って…… ジンを知って 昔を思い出したのか? それとも、何処かで奴とあったのか!? 答えろ!桜!」
「じ……ん? ……  じんにぃ? ……ジ  ン?  ど  こ  …… 」


桜は赤井の問いには答えない。
翡翠の瞳が大きく開かれてジンの名前を呟き続ける。
瞳孔が開いて焦点を結ばずに夢遊病のようにふらりと歩き出す。

「桜……? どうした?」

元々白い方ではあったが、更に白くなって躰が細かく震えだす。

「……休戦が必要だな。 部屋で少し休みなさい。 落ち着いたらその後でもう一度話をしよう」

赤井は呼吸が早く荒くなっていく娘の状態に説教がすぎたと言葉を和らげ抱き上げようとするが、小さな手で弾かれて拒絶される



「ジンーーーーーっ!!」



絞り出すように呟くと胸の当たりを抑えるようにぐらり、と躰が揺れた。

「桜っ!」
「桜ちゃん!」

床に倒れる直前に赤井が抱きかかえる。

「サラ! 桜っ!! ー…… ジョディ! 医療班を呼んでくれ!」
「……ぇ?」
「桜の意識がない! 早くしろっ!!」
「ぁ……! 了解!」

ジョディが電話に飛びついて内線で医療センター長を呼び出す。

「桜っ……! 確りしろ!」

赤井は床に座り込んで自分の膝の上に頭に置いて覗き込む。
頬をはたいても反応を示さず、体温がどんどん下がっていく。

「桜……っ!」
「秀! 部屋で寝かせた方が」
「そうしたい所だが、下手に動かすと危険だ。医療班を待った方がいい」
「あ……そう…… ね」

数分も待たずに、医療センターのセンター長と医師が白衣を翻して救急セットを持って駆けつけてくる。

「桜ちゃんが倒れたって!?」
「どいて下さい! 赤井さんっ!」
「桜ちゃん! 桜ちゃんっ!」

センター長と医師が呼びかけても反応がない。

「センター長。桜ちゃんの血圧が」
「救急車を」
「はい!」

ガタンと机に凭れるように寄りかかる赤井。
医師が心臓を何回か押せば桜の喉から小さな息が漏れて、長い睫が揺れる

「よし、戻った! 桜ちゃん! 聞こえるかい!? 桜ちゃん!?」

センター長と医師は左右から覗き込むように桜に声を掛ける

「パ…… パ?」

微かに開かれる瞳。

「大丈夫、秀パパはここにいるよ? 赤井さん!」

赤井は桜を凝視したまま動けない。

「シュ ウ……」

酷く弱い声

「赤井さん! ほら! 桜ちゃんが呼んでます! 念の為に酸素マスクを」
「はい。 ー…… 少し我慢するんだよ? 直ぐに楽になるからね?」
「ボス・ジェイムズ! 救急車が来ました! 正面エレベータで警備員と上がってきます!」

ジョディの言葉に正面近くにいる優作と有希子が移動する。


「サラ…… 」

赤井は小さな手をそっと握りしめる

「馬鹿娘……っ!」
「あた し も 行く……」
「サラ……」
「じん  に  ぃ ……? どこ……?」


桜の焦点が宙を舞う。


「しゃべるな。余計苦しくなるぞ」
「ジン…… にぃ? 来て くれ た……?」
「眠れ……」

赤井は平静を装って優しく声を掛けると手の平で桜の目を塞ぐ。


(パパ…… の手? 暖かくて安心できる……大きな手。 ジン兄の手は何時もひんやりとしてて…… ジン……? だれ……?)

意識が遠のく。

心臓がドクンドクンと騒いでいる。

どこに いるの

ジン兄―…?
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