Act-10 銀の世界
「兄貴」
「ん?」
「あの事件から2年過ぎてますぜ」
「そうだな。」
「戻ってくるならそろそろ、だとおもうんですが」
「確かにな。だが、それはディーヴァが動ける状態だった、らだ。」
「2年経っても連絡が来ないという事はもしかして拉致した奴等に…」

最悪の言葉を言いそうになったウォッカは言葉を止める


「いくら公安やCIAでも餓鬼を殺したりはしねぇだろ。 ディーヴァの頭が良いのはバレただろうが、肉体的な成長は専門機関の検査でも見た目の年齢並だ。 骨の成長も歯の成長もそこらの餓鬼どもの同じだ。見た目の微妙な年齢差は頭脳の良さで判断できねぇだろうがな。 ディーヴァは万一の連絡方法を知っている。 それをしねぇという事は、何等かの不具合で記憶を亡くしているかもしれねぇな。」
「記憶を」

ジンは手にもっていたグラスに残るウィスキーを一気を飲み干すと深緑色の瞳を輝かす。

「まぁ、心配する必要はねぇ。ディーヴァは記憶が戻ればなにがしかの行動をする筈だ。公安に保護されているのかCIAに保護されてるのか分からんがな。 なぁ? そうだろう、バーボン?」
「はい。」

ジンの背後に立っているバーボン、と呼ばれた青年は黙って頷く。

「あぁ… テメェはディーヴァの顔を知らねぇんだったよなぁ? 裏切り者の公安の狗を撃つことすらできなかった惰弱者が。 1年半のペット生活はどうだった?」
「……」
「返事もできねぇ程良かったか? あの会社のマダムはもっとお前を飼っていたいと云ってたぞ? お前の躰はとても味が良かったそうだ」
「!!」

バーボンと呼ばれた安室透は拳を握りしめる。

同じ幹部であろうとも、ジンの方が階級は上。

半年、の予定が1年になって、それから違う会社のオーナーのペットになった。
食事も服も与えられたが、男が欲しい時に時間を問わずに呼ばれ、旅行先では数名の相手になり、満足するまで抱き続けるのは苦痛にしかならない。
女性ばかりでなく、男性の欲望のはけ口にもされた。

「まだ、僕への罰は足りませんか。 確かに僕は裏切りものとはいえ、上司であるスコッチを撃つことが出来なかった。 それを惰弱というのなら致し方ありません。どうすればご満足いただけますか」
「諸星大を探して、俺の前に引き立てて来い。 殺すのは認めねぇ。5体満足のまま、連れて来い。」
「諸星大」
「諸星大もアイツと同じ狗でなぁ。 公安の狗が、なぜか違う組織の狗とタッグを組みやがった。ディーヴァの事は詮索無用。 詮索の気配をみせたら、テメェの体内に取り付けた起爆装置を作動させる。」
「!!」

ジンが手元に持つ小さな装置を入れる。

「ぐ……っ」

心臓の当たりを押さえるバーボン

「いいな? その装置、取除こうとメスやレーザーの反応を感知したら今感じてるような発作と痛みが始まる。そして―……」

ジンは手元の装置の数値を大きくする。

「―……!!」

がくん、と膝を付いて額から脂汗をにじませる。

「それよりもっと激しい痛みが続き、30秒後に埋め込まれた薬物が血液内に送りこまれる。 血液中に薬品が入ったら1時間もしねぇであの世逝きだ。」
「わ…… わかり、ました」

ジンはニヤリと笑う。

「その装置、諸星大を連れてきたら取り出す許可を与えてやる。」
「諸星大」
「お前の大切な上司を殺した奴を捕縛する権利をやったんだ。 光栄に思え。」
「命令だと言われるまでもなく、僕が諸星大を組織に連れ戻します。 そして処刑させるのを見届けてやります」
「よかろう。」

そお返事に満足したのかジンは装置に電源を切る。

ぜいぜいと、息を整えながら立ち上がるバーボン。

「行け。 無事に戻ってきて半年。復職させてやった上に情報収集とハッカーの上を見込んで幹部としてバーボンの名前を与えてやった恩、忘れるんじゃねぇぞ」
「はい。胆に銘じて」
「忘れるな。幹部になったとはいえ、お前は、今後、どれ程の手柄をあげようとランクがそれ以上上がる事はない。Cランク以上のデータを検索したらこうなるだけだと」

ジンは再度電源を入れると数値を最大限にあげる。

心臓に走る衝撃にぐらっと立ちくらみを起こすが必死に倒れるのを我慢するバーボン。

「自分の、立場は よく 解ってる  つも、りです。 組織の為に忠誠を」
「どうだかな。 お前は所詮、外部トレードの人間だ。諸星と同じでどこぞの警察機構の狗に成り下がるかわからねぇ」
「…… そう、思うなら…… 何時でも殺して 下さい。 貴方の、そのベレッタで。 抵抗はしません」
「その言葉、忘れるな。 ―…… ウォッカ。 こいつを部屋から放り出せ。目障りだ」
「へい」

顔色も変えずにみていたウォッカはドアを開けると荒い息を整えているバーボンを支える

「可哀想になぁ? あの時スコッチを撃っていれば、あの方とダイレクトにお会いできるレベルにもなれただろうに。 兄貴の信用を得るには先は長そうだ」

ウォッカが云う

「…… 僕は 僕のやり方で諸星大を 捕まえます。 多少怪我をしても五体満足ならいいんですね?」
「否。 傷一つ付けずに連れてこい。」
「僕に、報復の機会はないと?」
「裏切り者を撃てなかったテメェなんぞに報復の機会なんぞやれるかよ。 だが、俺が諸星を処刑する時は特等席で見物させてやる」
「……わかりました。 奴を捕まえます。 行方を探す事から始めればいいですか?」
「あぁ。だが、テメェ一人の力で探せ。アシストを付けるなんて考えるな。 テメェに協力を申し込まれて、カサコソと隠れて協力したのがばれた時点でお前の命もその協力相手の命も無い。」
「はい。」

バーボンはドアの前でペコリと一礼する。

部屋から出ると壁に凭れて肩で息をする。

(エレーナ先生。 僕は、先生と、先生の御主人と、それからジンの殺された上のお嬢さんの仇討ちを果たします。 それから先輩の仇も。 今はまだ、力及びませんが、必ず。先生の下のお嬢さんを助け出して見せます。)

どれ程の泥水をすすろうとも、僕は……っ


安室透ことバーボンは幼少時を思い出す。

優しいエレーナ・ママ。
大好きだったエレーナ・ママ。
命の恩人ともいえるべきエレーナ先生

貴女を思い出すだけで、僕は強くなれます……
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