Act-11 仲間
「桜… 見送りは此処までだ」
「……」
「そんな顔をするな。…… 日本に行けなくなる」
「御免なさい……」
赤井はふっと笑うと、抱き上げていた小さな躰をストンとおろして膝を曲げると同じ目線になる。
「先に行ってるからな? Drやジェイムズたちのいう事を良く聞いて、体力付けて、追いかけてこい」
「うん。」
こくり、と頷く少女。
本当はまだ病院で安静にさせていたい所だが、黙って行ったら活火山のように怒って不貞腐れた挙句、病院のコンピューターにウィルスを仕込みかねない。
そう思った赤井は桜が懐いているBAUに連絡を取り、誰か一人借りれないと打診をしたらメンバーが勢ぞろいしてしまった。
「心配なんていらねぇよ」
「そうそう! 桜ちゃんの事は私達に任せて、パパ行ってらっしゃ〜〜いってね!」
「亭主元気で留守がいいって言葉もあるけど、この場合は父親元気で留守がいいって事で」
「あ、酷ぇ! 次の体力試験俺が監督なんだけど落としていいかな」
「わ〜!ごめんなさい、訂正します」
赤井は見送りという建前で桜を構いにきているBAUの面々をみて肩を震わせて笑う
「ー…… すまないな。 任務の前の緊張を無くしてしまって」
きっちりとスーツを着こなしたホッチが謝る。
「いえ、いいんですよ。桜がBAUの連中と仲がいいのは私も助かります」
「特にガルシアは一度仲間と認めたら家族同然で可愛がる傾向が強い。」
「知ってます。自分に正直で、楽しいことや綺麗で可愛い物が大好きで、悲しい事を誰よりも嫌う。 そんな彼女だから、桜はなついた。」
「そうだな。ガルシアの可愛いもの好きは半端ないから君の娘はストライクゾーンにはまっているんだ。」
微妙な言われ方に赤井は苦笑する
「BAUは仲間を想う心がとても強い。誰かが傷ついたら全員で護り、助けようとする。それは時にデメリットにもなりますが、窮地に陥っても助けに来てくれると信じられる仲間がいるという事はとてもいい事だと、私は思います」
「そう言ってもらえると気が楽になる。特にリードは仲間の中で一番年下だったから、妹ができたように思ってるし、デレクは姪のようにも思っているようだ。ロッシの場合は孫あたりかもしれない」
「桜は、BAUの連中に不協和音を感じないと言ってました。 それだけ、本音で付き合ってくれているという事です」
「桜をみた時にすぐわかった。 普通の子供に使うご機嫌取りやお菓子で釣るような事では信用して貰えない。 どのような経緯があったにせよ、見た目は子供でも考え方はすでに大人。 独りの大人として本気で付き合わないと信用してもらう事はできないだろうと」
「流石、行動分析課の敏腕リーダーをしているだけの事はある。」
ホッチの言葉に赤井は苦笑する。
デレクの肩に乗り飛行場内を見渡し、JJに服を直してもらい、ガルシアに苺のマシュマロを貰ってモグモグと頬張ってご機嫌MAXの桜は満面笑顔だ。
最高級のビスクドールが笑って喋って頬にキスをされればキスを返す。
アメリカに来て、年中ハグされ、キスをされて抱き締めて生活しているうちに、それに慣れた桜はキスをしたらキスを返してくるようになった。
赤井の裏表のない親としての愛情と、超が5つほど位つくような天才児と知ってもそれを受け止めて可愛がるBAUの仲間たち。
桜をアメリカに脱出させるときから協力してくれている行動分析の仲間たちは桜にとって、家庭教師であり、他人との接し方を教えてくれる教師でもあり、友人のような関係を築いていた。
リーダーであるホッチの長男であるジャックも、JJの長男のヘンリーも親の教育が良い所為か同年代の親戚のように仲良しだ。
チラチラと桜を見ていく乗客達も頬を緩めて笑顔になって行く。
「…… 本当は、本国に置いて行きたい。それは今も変わりません。」
「だが君は、日本行の許可を出した。」
「私が、少しでも長く、桜の傍に居たいんです。」
「そうか……」
「ジェイムズには未だ云っていませんが、桜は拉致されていた時の記憶の断片を思い出しました。 ―…… 私が興奮させて発作を起こさせてしまった所為で。」
「!」
「記憶が戻るのは悪い事じゃない。 寧ろ喜んでやるべき事だと、解ってはいるんです」
「だが、君はそれを望んでいないと」
「はい。 私は桜の記憶が戻らない事を願っているんです。あの組織にいた時の記憶を取り戻して、私の事を忘れたら、あの子を託してくれた二人との約束を守れなくなる」
「二人? 」
「独りは私と同じように狼の巣に入っていた潜入捜査員達の一人」
「”達”? あの報告書に書かれていたのは確か一人では?」
「確かな確証は有りません。 ですが、私の勘が間違ってなければ最低3人。恐らく……」
「腰を据えての調査が必要になるな。 前者は兎も角、後者には元BAUのメンバーが幹部として勤めている。万一の時は力になれるだろう。我々の天使の事は彼女も知ってる」
「有難う御座います。」
デレクの肩に乗り窓から見える飛行機を指さした桜にリードが細かく説明しているのが見える。
桜が何か聞いたのか更にリードが双眼鏡を渡しながら答えている。
「赤井の気持ちは、同じ子を持つ親として良く分かる。」
「ホッチ?」
「俺も、死んだ妻とジャックに証人保護をかけた時、これで護ってやれると思っていた。 俺は死んでも妻と息子だけは護ってやりたいと思ってた。 だが、犯人の狡猾さを見抜けずに妻を殺された事を忘れた事はない。母親が殺されるのを見せたくなくて、俺はジャックの悪戯―…… と、云っても仕事部屋にある隠し戸棚に隠れる事を”お手伝い”だと云って遊んでいただけの年頃だっただが、その”お手伝い”をさせて母親の死ぬ姿を見せずに済んだ事だけが救いだった。」
「そう、でしたね。 あの事件はFBIの中でも痛ましい事件として報告があった」
「ジャックは俺の仕事を理解してくれている。反抗期にもならずに育てていられるのは妻の姉たちが手伝ってくれて仲間たちがいるからだ」
(ジャックに母親が殺される場面を見せなかった事を後悔はしていない。 だが、自分の脳裏には今でもその死にざまが焼き付いている)
「赤井が桜を守る為に日本にいくのなら、俺は、ジャックを護る為に、ジャックのような子を出す事がないようにFBI捜査官しているようなものだ。 勿論、BAUの連中だからできる事だと思っているが」
「ジャックは良い父親をもった。 私も桜にそう思って貰える親でありたいと思ってます」
(俺はBAUの連中に嫉妬しているのかもしれない。)
「暫くの間、桜を頼みます」
赤井はペコリと頭を下げる。
「大丈夫ですよ。赤井さん。 桜ちゃんは私達の妹分。医師がフライトを許可するまで、そして此れからも、仲間であり家族ですよ。」
JJが云う。
「それまで、僕達が守ります。」
「心配すんなよ。悪い虫がちょっかいだしに来たら、全力投球で、守ってやる。」
「それは頼もしいな。 …… あまり好き嫌いしたら、遠慮無く叱ってくれ。」
「むぅ…… パパ酷い!」
「アレルギーじゃ無いのに好嫌いが多すぎるんだ、お前は。 この機会に少しは直せ。」
デレクから小さな躰を受け取ると腕に乗せ、口角を上げて笑う赤井。
「だって、お肉もお魚も美味しくないんだもん」
「カフェ・クリストファーのチキンライスとコンソメスープは好物だろうが。 なのにパパのチキンライスは殆どたべない。 親として悲しいものがあるんだが」
「だって、お肉嫌い」
「魚も殆ど食わないし」
「お魚なんて美味しくない」
「はぁ…… お前はウサギ……いや、ウサギは人参食べるからウサギの方がお利口というべきか」
「アリスの方が私の人参も食べるってほしがるんだもん。」
「アリスはケーキなんて食わないぞ」
「アリスは苺が好きだもん! アリスが自分のケーキ食べてっていうんだもん」
父親の腕にのり落ちないように捕まりながらもぎゃんぎゃんと言い返す桜をみて行動分析課のメンバーはくすくす笑う。
「親子なんだか兄妹なんだかわからないな」
「全く。」
「だが、まぁ。あれだけ元気なら2週間後のジェットに搭乗させる事はできそうだ」
「2週間! あと2週間しかないの!? あぁぁあああ!! 心配だわ。 またよからぬ奴等に拉致されたりしたらアタシ、再起できない」
「僕も」
「まぁまぁ。 何も起こってない今から心配しても仕方ない。」
「そうだ! 日本で僕たちとコンタクトできるものを渡せばいいんじゃない? アリスにはGPSがついてるけど、それはアメリカ内部専用システムだから、衛星使って日本の電波も転送できるようにして会話ができるようにするとか、新しいタブレットを日本仕様で作って持たせるとか。」
「…… いい事いうわね。」
一瞬黙り込んだガルシアが思いついたように云う。
「IT班の連中呼んで、日本仕様のタブレット作るわ! お気にいりのリュックに入る程度で世界初の軽量を2台作るの! 1台はモチロンBAUと桜との専用回線にしておくの。 それからアリスに縫い込んだGPSの機能をバージョンアップさせて、マイクも仕込んでお早うとかお休みの挨拶ができるようにする! 」
「じゃあ、インストールした方がいいようなソフト選別は僕も手伝う。 日本と亜米利加、両方で使えるものがいいよね」
「おいおい…… ベイビー。ハンサムボーイも本気なのか」
「至って本気よ、ダーリン。 ね? 天才君。」
「うん。 僕も本気の大真面目。」
「なら、IT班には私が協力要請をしてやろう。IT班の部長とは長年の付き合いだ。 貸しもあるからNoとは言わないだろう」
「さすがロッシ。頼りにしてます」
大真面目に答えるガルシアとリード。
それに付け加えたロッシ。
見送りの時間はとても短い。
デレクの肩からおりて、赤井にぴっとりと抱き付いたままの桜。
その温もりを抱き締める赤井。
短い温もりの時間は登場案内の機内アナウンスで終わりを告げた。
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