Act-14 もう一つの家族
「ホントに大丈夫? 薬は持った? 苺のキャンディは持った?」
「うん。 ピル・ケースも飴もリュックに入ってるよ。それにエリンが買ってくれたこの赤十字のネックネスのペンダントトップの中にも緊急用のが2錠入ってる」
「にしても。 ほら、万一、リュックに薬をいれ忘れた時にネックレスを落とすとか〜〜」
「ガルシアってば心配しずぎだよ。」
「だって〜〜〜っ」
「大丈夫だよ。 発作なんて滅多に起きないもん。」
「でも、万一って事が」
「落ち着け、ハニー。 そりゃ、こいつが亜米利加に来た時は弱くて、軽くて、ちょっとした風邪でも熱とかだしてたけど。今は普通よりちょっと弱い程度だし。まだまだ弱いけど、体力だって付いてきた。」
「う〜〜〜っ。解ってる! 解ってるけど」
「ありがと、ガルシア。」

(ガルシアはいつもいつも、私を心配して構ってくれる。心配性で優しい女性)
桜は母親の様におろおろしているガルシアに笑みを見せる

「桜が行くのは天国じゃなくて日本だもの。 雨が降って虹が出たらその虹の中できっと会えるわ」
「虹ってねぇ。それは水と光の屈折で―…」
「もう!スペンスっては夢が無さすぎ!」
「ごめん。でも、心配してるのは皆だよ?」
「大丈夫!」

桜は深呼吸を一つ。
それだけで桜が何かを歌うと感じ取ったのは行動分析に属しているからだろうか

♪・・・・・・・・♪

Somewhere over the rainbow Way up high
There's a land that I heard of
Once in a lullaby
Somewhere over the rainbow
Skies are blue
And the dreams that you dare to dream
Really do come true

虹の向こうのどこか空高くに
子守歌で聞いた国がある
虹の向こうの空は青く
信じた夢はすべて現実のものとなる

♪・・・・・・・・♪

桜はBAUのメンバーの隙間をぬうように歩いて歌う
静かに唄うのはオズの魔法使いで使われた”虹の彼方に Over the Rainbow ”

♪・・・・・・・・♪

Somewhere over the rainbow Bluebirds fly
Birds fly over the rainbow
Why then, oh why can't I

虹の向こうのどこかに
青い鳥は飛ぶ
虹を超える鳥達
僕も飛んで行くよ

♪・・・・・・・・♪

「心配しないで。 探君が日本まで一緒だし、学校のある平日は探君のお家でお泊りだけど、金曜の夜と土曜はパパと一緒にいられる筈だし。 探くんの叔父様は、科学分析研究所の所長さんだとかで遊びに連れってってくれるって!」
「探と同じ高校に編入するのか?」
「ううん。 小学校。 探くんは江古田高校に編入するんだって。英吉利のロンドンブリッジハイスクール卒業してるから、イギリスにいたら大学も行けるのに、わざわざ高校生をもう一度やるんだって」
「マジかよ… お前のほどの頭脳なら探と同じ高校でも十分通えるだろ? サグルだって大学に行けるだろうが」
「僕の場合は目標があっての江古田高校編入ですからね。 それに日本はまだ飛び級を導入している高校や大学がとても少ないんです。 万一桜の年齢で高校とか大学に編入したらどうなると思いますか? 桜ちゃんは江古田付属小学校ではありませんが、赤井さんの捜査活動範囲を考えれば帝丹小学校への転入は間違ってないと思いますよ」

白い肌に栗色の癖っ毛でスコットランドヤードからの依頼で何度も事件を解決に導いている探が苦笑する

「そうかな? 桜、おうちでパパを待っていた方がいいのに。スカイプでガルシアたちと話をしたり、通信教育で大学の勉強していた方がいい。」
「まぁ、親父さんが、桜が日本で暮らすなら小学校に通うってのが条件だかんな? 諦めておもいっきり遊んで―……って運動は駄目か。図書館行ったりすればいいさ」
「今更、足し算引き算なんてつまらないの」

ぷー、と頬を膨らませる桜にBAUの面々と探は苦笑する。

「諦めるしかないね。 桜ちゃんの年で大学とかなんて行ったら、僕の家の警備でも抑えきれない程の取材が来る。」
「そういや、探の親父さんって日本警察のお偉いさんだっけ?」
「お偉いさんじゃなくてTOPだよ。白馬警視総監。日本警察の頂点に立つ人さ。国会やらサミットの警備やらと毎日分刻みのスケジュール」
「よくご存じですね」
「そりゃあね、僕らの妹を預けるんだから少しばかり調べておこうって思うよ。たしか、メイドさんもいるんじゃなかった?」
「メイドじゃなくて、ばあやです。 僕が日本にいる時は運転手もしてくれますよ。」
「へぇ……」
「実際、ばあやの運転技術は見事ですよ。ばあやは子供も大好きだから、桜ちゃんの学校の送り迎えは、ばあやに頼むつもりです」
「探は電車か?」
「日本の高校は基本が自転車、バス、電車通学と決まってますからね。事故で骨折とかして車通学を余儀なくされる場合は特別枠も適用されますが。」
「探くん、免許もってるっじゃなかった? パパがそういってたよ?」
「探偵業で必要になるのでバイクと車の免許は取ってますが、日本の法律上の年齢制限で車の免許は使えないんですよ。 オートバイは使えますが」
「ばあやさんとパパと探くん。 だれが上手?」
「どっちだろう……? 僕はあまり車はあまり使わないし、赤井さんは国際A級だから、赤井さんかな? ばあやはもう年だからね。っていったら、ばあやに怒られるかもしれないけど」

探が笑う。

「さて、そろそろ機内に入ろうか?」
「! ……うん」

桜はBAUの仲間たちを見る。

(帰ってこれるだろうか)

不安な想いが募る

「ンな顔するなって!」
”そんな顔をするな”
「ったぁ…。何するの〜 モーガンの虐めっ子」

モーガンの声と赤井の声が重なって聞こえた、と思ったら、ピン! と、痛くない程度のデコピンをされて、頬を膨らませる。

「何かあったら、私達に連絡するのよ?」
「桜のSOSは24時間受け付ける。私達はいつでも力になる」
「赤井の為じゃない。 桜は私たちの家族も同じだ。」
「か  ぞ  く  …… ? 私、の」
「そうだ。 BAUは一つの家族であり、信頼と友情で成り立っている。」
「The dreams that you dare to dream ―信じた夢は現実のものとなる―… 桜が信じた夢は必ず叶う。 何か会ったら遠慮なく、私達を頼りなさい」
「Over the rainbow、ではなくて、Inside the BAUだって事を忘れるな。 お前はもうBAUの、此方側の仲間だからな」
「妹を護るのは兄であり、姉であり、親でもある私たちの務めよ。」
「いい? 毎日ちゃんと最低1回はメールするのよ! スカイプでもいいわ! アンタの為に、専用回線をひいてあるから、24時間受け付けよ」
「…うん!」

桜は笑顔を見せる

「行ってくるね!」
「行ってらっしゃい」

桜は仲間たちに順ぐりに抱き上げられて、頬や額にキスをおとされ、キスを返す。

「じゃ、探、ここから先は君にバトンタッチだ。桜の事、俺達の妹の事を頼む」
「はい!」

探るは背中を伸ばして頷く。

「これでも探偵の端くれです。探偵としての白馬探の名前と、白馬の家の面子にかけて、桜ちゃんは護って見せます」
「何かあったらいつでもいい。ガルシアが設定したホットラインに連絡をくれ。 桜の為なら24時間いつでも駆けつける」
「午後4時23分03秒。 白銀桜嬢は白馬探が確かに預かりました。」

探は柔らかな笑みを見せると桜に手を差し出す。

「行こうか? 赤井さんー… 君のパパが待っている所へ」
「うん!」

桜は白馬の手を握る。

(大丈夫。 私は… 自分の事を忘れても、パパと居る事を選んだんだから。 パパがジン兄を殺したら、私はきっと、泣いて泣いて…。 全部、忘れてもいい。 名前も記憶も全部忘れてもいい。 その後、赤井桜としてやり直す)

「大丈夫だよ。桜ちゃん。」

白馬が不安を感じ取ったかのように声を掛ける。

「機内でレディ・ワトソンが待ってるから。桜ちゃんが不安そうになってたら、ワトソンが悲しみます」
「ワトソンも連れてくの?」
「勿論です。 ワトソンは、僕が育てた大切なパートナーです。彼女は桜ちゃんが大好きですからね?」
「桜もワトソン好き! … 機内だと籠からだしてあげれないね」
「それは仕方ありません。普通のジェットなら動物用のゲージに入れてのフライトになってしまうのが、BAU専用のジェットという事で手荷物で機内持ち込みできる事自体特別枠なんですから。 法律上、日本に付いたら検疫は免れないので彼女は怒るでしょうけど、我慢してもらうしかありませんね」
「そうだね」

桜はタラップを上がろうとして、もう一度後ろを見る。

笑顔で手を振ってくるBAUと名前の家族に桜も手を振り返す。

(忘れないように目に焼き付けておこう。黒の組織に誘拐されていたのではなく、組織の歌媛幹部だったと知ったら背を向けるかもしれない。 でも、こんな私を妹分だと云ってくれた人たちを)

桜は白馬の手を握りながら、タラップを上がると、機内に入る前にもう一度振り向いて子供らしくぶんぶんと手を振って見せた。
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