Act-15 再び日本へ 後編
「―……行っちゃった」

視界からジェットが消えてもなお消え去った方向をみているガルシアが呟く。
遠く、すでに視界には映らない程に飛び立った小型ジェット。
ジェットが戻ってくるのは時差を含めて4日。
燃料が足りずに個人所蔵の小さな島に着陸して燃料を補給してのフライトである。

「大丈夫さ。 日本に留学したと思えばいいだけだ。 状況的に俺達が会いにいく事は無理があるけどな。探の家ならきっと安全だ。ジャミングシステム経由で話もできる。」
「解ってる。でも、やっぱり心配。 どんなに頭が良くてもまだ6歳、7歳なんだよ? そこらへんの子より可愛いし」
「まぁ、おっきくなったら虫退治に追われるのは事実だろうけどね、赤井さんがパパだから下手な虫は近寄らないよ。 それに僕たちもいるし」
「それはそうだけど」
「それに、心配ばかりはしてられない。」

少し難しい顔をしているホッチナーは溜息を付く。

「私達は桜を拉致した黒の組織とやらの事を最重要機密として調査をする事になっている。」
「ぇ!」
「勿論、BAUとしての任務が最優先だ。だが、犯人不明でお蔵入りになっている事件を過去最低20年にさかのぼって分析をする事になった。その案件についてはここにいるメンバーとストラウス部長以外には共有しない。」
「……本気で仰ってます?」
「至って本気だ」
「…… 過去20年? 待って下さい。 そんな昔の資料なんてデータベースに残ってないのもありますよ!?」
「ジョディ・スターリング捜査官のお父さんが殺されたのが20年近く前。部長的には25位遡りたいと云っていた」
「……お蔵入りになったものの紙ベースは僕が片っ端から目を通せばいいんだよね?データ化されているものはガルシアの得意分野で絞込ができる筈だ」
「すでに赤井が個人的に25年〜20年前の資料は網羅してくれた。それに関しての不振な点の抜粋は私がUSBで預かっている」
「……やるしかねぇな」
「そうね。私たちはBAUという名前の家族なんだから」
「赤井との連絡は私に任せて貰おう。1ケ月の行動であちこちにある連絡ポイントは聞いてあるからな」
「……」

顔を見合わせるBAUの面々はごくりと唾を飲み込む。

「やってやろーじゃねぇか? 桜の為だけじゃねぇ。 桜のような子を出す世界にしちゃいけねぇんだ。」
「言うは易く行うは難し、だけどやるしかないよね」
「そうよね。」
「いいな、部長が承認しているとはいえ、BAUの仕事が最優先だ。でないと、奴等はどこに潜んでいるか分からない。 なにしろあのクリス・ヴィンヤードはシャロン・ヴィンヤードの老けメイクだったというからな」
「それに加えて初代の怪盗KIDにそのパートナーのファントムレディ。2代目KID、それから薬を呑んで躰が小さくなったとかいう工藤新一こと、江戸川コナンの事実関係の情報を収集する。 赤井はKIDとコナンの情報を国家警察にリークしないのを条件にミステリー作家の工藤優作氏の全面協力を取り付けたが私達にはそんな義理はないからな。私達は私達の流儀でバックアップをする事になる」
「了解」
「それから、壁に耳あり障子に目あり、という事でな、万一シャロン・ヴィンヤードの撮影を見かけても疑う視線は絶対に見せるな。彼女は工藤優作の妻である有希子夫人の友人でもあるからな」
「ユキコ・フジミネ。日本の誇る女優ですよね。結婚を機に表立った活動はしていませんが人気は衰えてない」
「その通り。工藤夫妻は一癖どころか2癖3癖もあるし有希子夫人は黒羽盗一に変装を習ったとかで一見では破れない変装をしてのけるからな」
「「「はい」」」

ホッチの言葉に部下たちは頷いた。


「ところでさ」
「ん?」
「桜ちゃんは今頃僕らのサプライズ受け取っているかなぁ?」
「んー… そうだな? 受け取ってんじゃねーか? 」
「喜んでくれるかしら?」
「まぁ、驚いて泣きだして飛びつくってトコだろーな?」
「そうね。 でもまぁ、嬉し泣きだろうし。」
「探は前情報を流してないわよね?」
「それはないだろう。 彼もノってきた一人だからな」
「そうですね。」




幸福がこの上なく大きい場合には、微笑と涙が生まれる ー スタンダール ―
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