Act-01 想い遙かに
「おはよー! 哀ちゃん! 風邪、治ったんだね! 良かった! 今日もお休みだったら学校の帰りにお見舞いに行こうって昨日、光彦君たちと話してたんだよ」
「おはようございます、灰原さん。風邪はもう大丈夫ですか?」
「おせーぞ! 灰原! コナンは一緒じゃねーのか? 風邪うつして治したのか?」
「お早う。心配かけてごめんなさい。 熱も下がったからもう大丈夫。 小嶋君、先週はお勉強会をしなかったから江戸川君に風邪を罹患させるような事は無かった筈よ。 彼の事だから、またお隣から推理小説を借りて、朝まで読んでて起きれなかったんじゃないかしら? 蘭さんに叩き起こされてバタバタと走ってくるわよ」
「またぁ? 本当に毎日毎日、本を読んで飽きないね〜」
「まったくね。 さ、江戸川君を待っていたら私達まで遅刻してしまうわ。 行きましょう?」
「そうだね。」

帝丹小学校の少年探偵団は今日も待ち合わせて…… と、云っても通学ルートに家を出る時間もほぼ決まっているので必然的に途中で合流するのだが、賑やかに歩いて行く。

「そういえば、今日、ウチのクラスに転校生が来るって知ってましたか?」
「転校生?」
「歩美、知ってる! 昨日の放課後、すっごく可愛い子が来てたの見たよ!」

光彦の言葉に哀は首を傾げ、歩美は即座に頷く。

「そうそう! って、灰原さんはお休みだったから知らない事でしたね。すみません」
「いえ、いいのよ。そんなに可愛い子だったの?」
「うん! 小林先生に案内されて、お父さんとお兄さんと一緒に校長室に入って行くのをチラっと見たの」
「あー! そーいや、学校の駐車場にカッコいい車が何台か止まってたよな! 確か3台あってよ、黒い服のおじさん達が警備してたぜ」
「黒い服?」
「うん。耳にイヤホン付けてたよ。コナン君がエスピーって言ってた」
「エスピー? …ああ、それはセキュリティポリス。英語でSecurity Policeと書くのよ。 その頭文字がSとPだからその略称ね」
「セキュリティポリス?」
「警視庁の警備部警護課で、要人警護任務に専従する警察官を指すの。ほら、アメリカの大統領とかを近くで守る黒服の人たちがいるでしょう? あれと同じようなものよ。」
「へぇ……」
「じゃあ、父ちゃんがどっかの社長で、命狙われてるとかってありえるよな! だったら、俺達で犯人捕まえてやんだけどな!」
「じゃあ、悩みを聞いてあげようよ! で、歩美達が捜査協力するの」
「いいですねぇ。じゃあ、早速、お昼にでも聞いてあげて、放課後から行動開始しましょう」
「どっかの社長なら、犯人捕まえてやったら褒美にうな重くわせてくれっかな。 来月発売のヤイバーのフィギュアセットでもいいけどよ」
「いやいや、あの車ならフランス料理のフルコースかもしれませんよ? イタリアンもいいですね」
「歩美はトロピカルランドのホテルにお泊まり付きの1日券がいい! でね、夜はトロッピーが来るレストランを予約するの!」
「それもいいですね! あのホテル、中々予約ができないって、姉さんが云ってました。」

賑かに話すクラスメートを、哀は優しい笑みで見る。

「そういえば、転校生は綺麗な銀色の髪でしたよね。」
「!! 銀色?」
「マンガに出てくるようなふわふわの髪で、ツインテールにしてました。」
「銀色の?」
「うん! キラキラ光ってすっごく綺麗だった! お兄さんもすっごい恰好良かったよ! 綺麗な茶色の髪で、スーツっぽいの着てたから高校生かな? あんな格好良いお兄さん、歩美も欲しい」
「そう…」

(銀色の髪なんて珍しくもないわ。)

<リサイタル>で行方不明になった妹。
あの時、研究が駄目になっても一緒にいれば良かったと、どれ程思った事か。
あの時、拉致される原因になった公安の狗は死んだ。
そして公安の狗かもしれないと思われた情報部の構成員は私(シェリー)の薬に耐えた。
自白もせず、オークションにかけられたが妹の行方は分からなかった。

拉致をしたと思われる裏切り者の諸星大は捕まえる事が出来ず、その裏切りを引き入れた姉は無人島で再教育と称して躾をされ直した。
諸星に救いだされる機会が有ったとしても、あれだけのと躾をされたのだ。
子供が出来ないように秘かに渡した薬は避妊薬だが、同時に女性機能に弊害を引き出す。
勿論、検査で、出てくるような市販の安物ではない。
組織の中でも天才科学者と称された私が作った薬なのだ。

(お姉ちゃんが殺されたから組織を逃げ出した、なんて半分は嘘。外の世界に行けば何時かは彩華の情報が手にはいるかもしてない、と思った。 私の最終的な目標はあの子の躰を治す為の薬を作り上げる事だったのに……)
「哀ちゃん…?」

歩美の心配そうな声にハッとなる。

「まだ、具合悪い?」
「いえ、ごめんなさい。大丈夫よ。」

哀は明るく笑う。

「ほら、今日は音楽のテストがあるって云ってたでしょ? 江戸川君の歌を聞かされるのかと思うと一寸憂鬱で」
「あははっ! アイツは超音痴だもんなー」
「頭はいいのにね。」
「そうそう、絶対音感があるって云ってる癖になんで音楽だけ悪いんでしょうね?」
「音感が聞き取れるのと歌うのはきっと違うのよ」
「そだね。哀ちゃんはとっても上手なのに」
「ありがとう。 でも、吉田さんだって綺麗な声で上手だし、円谷君もピアノを習ってるから音感もあるし。 田嶋君だって、もう一寸押さえて唄えばもっと上手になると思うわ」
「えへへっ 歩美は、ママがピアノ弾くから教えて貰ったの。上手に唄えるといいな」
「ぼっ ぼくは、ピアノなんてホントは女の子みたいで嫌だったんですけど、でも灰原さんにそう言って貰えるなら頑張って練習します!」
「声を落とすってどんな声だ?」
「大声で歌うって事じゃなくて、何時もの、こうゆうふうにお喋りをする時の声で歌うっていう事よ。 ―… それにね、私は上手じゃないわ。 もっともっと、上手に唄う人を知っているの」
「灰原さんより?」
「えぇ。 歌媛と呼ばれた人を知っているの」
「うたひめ…?」
「と、いっても歌手じゃないの。 今は会えないけど」
「会えないって死んじゃったの? それとも哀ちゃんが育ったイギリスにいるの?」
「行方不明になってしまったの。 ―… 生きているのか死んでいるのかすら分からないわ。 でも、今でも探している人たちがいる筈よ」
「いっ! 生きてるよ! 絶対!」

哀の言葉に歩美が勇気づけるように云う。

「そ、そうです! そんなに歌が上手ならどこかの王様とかが連れてってしまったのかもしれません。 きっと、警察が探してて、見つけてくれるはずです」
「そうだぜ! 元気だせよ! 俺達も手伝ってやっからさ!」
「ありがとう。 ―… そうね。 ディーヴァは、きっと生きてる。」
「ディーヴァ? ディーヴァっていうの?」
「ディーヴァには歌媛という意味があるの。 まわりの人たちからそう呼ばれていたのよ。」
「名前は知らないの?」
「えぇ。 ディーヴァという呼び名以外、誰も知らないの。私もね。」
「灰原さんがそこまでいうならとても上手な人なんでしょうね。 一度聞いてみたいですDVDとかないんですか?」
「残念ながら出てないの。 でも、あの声は忘れない。」

あのジンが、ベルモットですら彩華の事だけは可愛がった。
心臓の移植とアレルギーの治療で、1年の殆どを組織の医学の粋をきわめて作られた冷凍睡眠装置の中で育った妹―…
私の可愛いさーや

私のことを”お姉ちゃま”とよび、ジンのことを"ジンにぃ"と呼んで懐いてくれた。

私の研究はすべて貴女のため。
解毒剤の治療と平行して彩華の為の薬は永遠に作り続けるわ。

組織にいれば、貴女の情報は入手しやすい。
でもあのジンが直ぐに合わせてくれるかどうかわからない。
でもこちらの世界にいたら…

事件ホイホイ呼び寄せ人間の工藤君には悪いけど、警視庁の知り合いがいる工藤君の近くにいれば。


もしかしたらと、 願わずにはいられない……
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