Act-02 心配性
「本当にお教室までご一緒しなくて大丈夫ですか?」

オロオロと職員室の近くで桜に向かって声をかけるばあや。

「大丈夫。ばあやってば心配性すぎ! パパや白馬のおじさまに笑われちゃうよ」
「桜孃ちゃまは、白馬の家でお預かりしてる大事な大事な嬢ちゃまです。坊ちゃまにも学校の送り迎えは十分に10乗掛けて気を付けるように申し使っております」
「ん、もう。 アメリカにいた時だって、ちゃんと一人でお留守番もしてたんだよ。」
「アメリカの家は24時間コンシェルジュのいるセキュリティマンションだったと伺っております。」
「そ、それはそうだけど…」
「ー… やっぱりピンク色のワンピの方にすればようございましたかねぇ… そのオレンジのワンピが似合わない訳ではございませんが…」

桜の服を上から下まで昨夜からコーディネートを考えてこれ、と決めたものの大真面目に考え込むばあや。

「(さ。流石はあの探くんのばあやさんだけあってもの凄いなぁ。 ぼっちゃま自慢で可愛さに勝手にお仕事の依頼とか勝手に引き受けちゃって探くんが頭を抱える事もあるって言ってたけど…)」

兎に角ぼっちゃま一途。
ついでに子供が好き、という事もあって、桜を人目で気に入って、先々は坊ちゃまのお嫁様に!と、拳を握って言い出す始末。

(まぁ、あの江戸川コナンのお嫁さんに、と言われた時よりはマシだけど」

桜は話を進められない担任をみて、溜息を付いた。

「大丈夫だよ。ここは小学校だけど、一応、正門にも裏門にも監視ビデオあるし、校舎にはいるには警備員さんのいる門を通らなきゃならないもん。」
「それはわかっておりますが」
「それからね、ピンクのお洋服も良かったけど、お洋服にあうおリボン無かったでしょ? 明日は三つ編みにしてピンクのボンボンのヘアゴムで縛って欲しいの」

(ホント、探くんがばあやは心配性だからって言ってたけどその通りだ)

桜は苦笑する。

「大丈夫ですよ。ばあやさん。 日本はアメリカと違って治安はよいといわれてます。」

担任となる小林は若干緊張気味に答える。

何しろ海外からの転校生である、白銀桜の保護者代理としてきたのが日本警察の警察官の頂点にたつ白馬警視総監とその息子、となれば緊張もMAXだ。
父はアメリカの凄腕警察関係者。
勤務時間が不定期になる為に連絡はすべて日本にいる間の保証人である白馬家。
心臓移植の関係で長いこと病院療養生活をさせていた娘が外に出歩ける程回復したので自分が日本勤務の間位は日本で生活をさせてやりたいと連れてきた。
娘が通う学校の校長に顔も見せないでは失礼だからと、白馬警視総監のSPとして付き従ってきた。
長い黒髪をゴムで縛り、サングラスで顔を隠していたが、濃紺のスーツはSPそのもので、最初は本当に警備の人間かと思った。
サングラスを外した顔は整っており、小林は低めの落ち着いた声だけで心臓が跳あがった。

心臓移植をしている事から幼稚園も小学校も行ってないが知能的にはすでに高学年レベル(本来なら大学レベルという事は伏せて)という」可也の過少評価で説明をし、体力的な関係で小学校で倒れたら直ぐに対処できる場所に病院がないという事もあり、父親が務める警察機構の局長の好意で会社の会議室を借りて家庭教師で勉強をさせてた為、周囲は大人ばかりで同年代の友達の作り方が下手な事。

今回の仕事も父親の生活が不安定になるのがわかっていたので、最初は亜米利加の知り合いに預けようと思ったのだが、日本で同年代の友人を作らせたくて、娘を預ける事のできる生活拠点を探していたら、事件を通じて知り合ったイギリス在住の高校生探偵が自分の家を提供してくれた事などを説明した。
警視総監自ら出向いての事情説明と挨拶に担任どころか校長に教頭、学年主任、統括主任、生活指導の担当に養護教諭まで揃っての出迎え。

しかも父親が亜米利加で警察機構では可也の凄腕だという事も白馬警視総監がクッション言葉で説明されたら付き合っている彼氏が警察官だからご安心下さいとは口が裂けても言えない。
下手に事件に巻き込まれたら自分どころが彼氏の進退にも影響してくる。

事件に首を突っ込む事件ホイホイ少年の保護者が眠りの小五郎とか噂をされだした”迷探偵”と警視庁の警部たちと知り合いだったとしてもランクが違いすぎる。
万万が一、事件に巻き込まれて誘拐でもされたら校長の頸も飛びかねない。

「あー… そうだ。 ね、ばあや。今日の夜はサラダうどんがいいな。 ばあやの手打ちうどんはとてもおいしいって探くんが言ってたの!」
「サラダうどん、でございますか… 夜ご飯に?」
「ダメ? ばあやのおうどんを食べてみたいの」

首をかしげるように斜め目線で見上げて頼んでみる。


"いーい? アンタは見た目が天使かジュモーのアンティーク・ドール見たいに可愛いンだから、オネダリなんて見上げるだけでいいのよ! 一寸斜め目線で首かしげて覗き込む! ちょーっとうるるんとできればいうことないけど、それはできなくてOK。 …そうそう。じーっと相手を見つめる!"


BAUのガルシアから教えてもらったおねだり仕様。
保護者の赤井秀一ですら一瞬黙り込りこんで溜め息を吐く。
教え込んだガルシアに至ってはぎゅうと抱き締めてキスの雨を降らせ、他の面々は白旗を掲げる。


「わ…… わかりました。うどんは、ばあやの得意料理の一つです。 ああ、いけない! おうどんを打つなら生地を寝かす時間もありますし、あとサラダ菜を買って、出汁は中華と和風のどちらがよろしいですか?」

ガルシア仕込みのおねだり目線にばあやはあっさり白旗を出した。

「んーとね、和風。お出汁たっぷりのがおいしいって探君が言ってたの」
「あらまぁ、坊ちゃまがですか! お二人のリクエストなら今日はしゃぶしゃぶ風のサラダうどんにしておいしいパンも買ってデザートは嬢ちゃまのお好きなイチゴのゼリーをご用意しましょうか。」
「ホント? お休み時間に探君にもメールしてもいい?」
「勿論ですとも! では、先生、嬢ちゃまのこと、くれぐれ〜〜〜もよろしくお願いいたします。 授業が終わるころ、お迎えに参りますので。あ、給食の時間に間違ってもアレルギーの食材を出したりしないで下さいまし」
「は、はい! 確かにメモをお預かりしてますので」

小林はビクンとなる。

「大丈夫だよ。 出すなっていっても、ばあやのお弁当、持ってきてるもん。苺ジャムのサンドイッチと苺の紅茶!」
「あ。 そうでしたわね。 この頃もの忘れをするようになってしまって。 間違っても牛乳は飲んじゃダメですからね。あと、味の辛いものや刺激物も駄目ですよ。 あ、それとあのワンピースにあうピンクのヘアゴムも買わなくては!!」
「ん。 ちゃんと覚えてるもん。」

それでは、と丁寧に腰を折ってパタパタと去っていくばあやに軽く手をふった桜は小林に向かってにっこりと笑う。

「ばあやは料理が得意だから、操るには料理のリクエストするといいって、探くんが教えてくれたの。 早速役に立っちゃった。」
「それで…… しかし本当に心配性ねぇ」
「白馬のおじさまも心配性なの。でも、大丈夫。 アレルギーだって、大分治ったの。 パパやモーガンが言ってた。アレルギーだからといってそれを盾に甘えるのはダメだって。世界を見れば心臓病じゃないのに走れない人も、日光アレルギーが酷くて外に出れない人も居る。桜は歩けるし、少しなら外にも出られる。 パパとの約束で月に1度は病院に検査にいかなきゃならないけど、ベッドから動けなかった時に比べたら我慢できる。 」

小林はしっかりした受け答えに飛び級ができると云われる事は有ると、頷きながら笑う。

(しっかしあのオネダリの目線は危険だわ…… 私も気を付けないと)


「予鈴まであと2〜3分あるから、少し早いけど行きましょうか? 外国からの転入生がいるから5分早くHRを始めると、昨日クラスの子たちには話しておいたのよ。ゆっくり歩いても5分前には着く筈よ」
「はい、先生」

桜は新しく買って貰ったパステルピンクのランドセルを背負った。
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