Act-03 遅刻魔と転校生 後編
「江・戸・川・君? 君は〜〜〜、昨日の帰りのHRで先生が何を言ったか覚えてますか?」
「え…… っ えぇ〜〜っと……」
(ヤベェ! 転校生がくるから5分早くHRって言ってたっけ。)
今月5回目で、すでに保護者の毛利探偵事務所には生活指導の電話が行き、先日、小五郎から拳骨を食らって、蘭にも怒られたばかりだ。
「円谷君、遅刻常習犯に教えてあげてくれるかしら?」
「僕ですか? えーっと、帰りのHRで、”明日はこのクラスに転校生が来るので5分早く朝礼を始めます” という様な事を言ってたかと思います」
「確か、先生、オウチにも電話をくれたよね? ママが夜ご飯の時にパパに云ってた。歩美、今日は20分早く起きたよ」
「私も10分早く起きた〜」
「俺なんて30分も早く前にかあちゃんに叩き起こされた……」
光彦の言葉に歩美が付け加え、他の生徒たちが賑やかに答える
「はい。流石は円谷君ね。吉田さんもお母さんがちゃんとお父さんにまでお話してくれた事を教えてくれて嬉しいわ。 皆も頑張って早起きしてくれてありがとう。 さて、灰原さんが転校してきた時も5分早くHRを始めましたが、覚えている子いますか?」
「「 はーい!! 」」
とクラス全員の生徒が元気よく手を上げる。
「はい、皆、ちゃんと覚えてますね。この学校では転校生のあったクラスは5分前にHRを始めています。」
小林はにっこりと答える。
「で、昨日、その場に居なかったのは風邪でお休みだった灰原さんだけでしたね。 もし遅刻ギリギリで入ってきたのが灰原さんなら大目にもみますが、江戸川君は昨日、帰りのHR迄ちゃんといたと思うけど、先生の思い違い、かしら?」
「えー…っと、 で、でも!」
「灰原さん、江戸川君の今月の遅刻は何回目ですか?」
「5回目です。 昨日、江戸川君が遅刻をしてなければ」
小林はコナンを無視して、哀もさらっという。
「その通り。 言い訳は?」
「ありません…。」
コナンはドアの前に立ったままだ。
「はい。記憶力が良くて大変結構。 遅刻の罰として1時限目は後ろで立ってなさい。それから2時限目の音楽のテストは一番最後に、クラスの見本として歌ってもらいます。日ごろ、絶対音感があると公言してますから、転校生に見本として聞かせてあげるように。」
「げ!!」
にーっこりと満面の笑みの小林にクラスの何人かがくすくすと笑う。
「絶対音感? 歌が好きなの?」
聞きとがめた桜の瞳が輝く
「えぇ、どんな音をきいても100%音程が分かるんですって。」
「素敵。 私ね、アメリカで聖歌隊に入ってたの。 一番最後っていうのは一番上手っていう事よね? 楽しみだわ」
「聖歌隊ってカトリックなの?」
「いいえ。私、産まれてから4つ位までずーっと入院していたの。入院していた時の記憶は殆どないし、クリスチャンの洗礼も受けてないの。 でも、入院してる時にね、パパやパパのお友達がクラシックやミュージカル、オペラや童謡とか、沢山のCDを買って来てくれて、それを聞いているうちに覚えちゃって。 退院してからパパの知り合いが眠ってる教会のお墓で歌ってあげたら聖歌隊に入らないかと司祭様が誘って下さったの。 皆とても上手でチャリティコンサートや各ブロックの教会に所属する聖歌隊のコンクールにも出て、優勝もしているのよ」
桜が云う
(ま、ディーヴァのコードネームを名乗っていた私が聖歌隊の音程を1から直したんだから優勝できて当然なんだけど)
聖歌隊に入った時はこんな子供を聖歌隊に居れるのかと、回りの仲間たちは笑い、勝手に練習をしていた。
けれど、私がアカペラで聖歌を3曲唄った時点で全員黙り込んだ。
週に一度の合同レッスン。
組織の歌い手達と違ってプロに仕込まれた声ではないけど、元々聖歌隊としてミサで歌ってきたため、音感は皆、とても良かった。
「それは楽しみね。 ねぇ、江・戸・川・君」
「(のやろぉ。 ゼッテー嫌がらせだ)ぼく、そんなに上手じゃないよ、先生」
「そうそう。コナンは絶対音感はあるけど、すっげー音痴なんだ。 耳栓用意しといた方がいいぞ。なんなら俺の貸してやっからさ!」
「音感あるのに音痴なの?」
「まぁ、江戸川君は音楽の成績はアヒルですものね。」
「あひる?」
きょとん、と目を丸くする桜
「数字の"2"の事をアヒルー… Duck というのよ。2という数字が鳥の形ににてるでしょ? ディズニーのドナルドダックみたいにかわいくないけどね。 ちなみに成績は1〜5まであるのよ。」
「? つまり下手って事?」
「正解! 小嶋君がいったように耳栓が必要よ。」
撃てば響くように理解を示した桜が閃いたように答えて哀が褒める。
「あと、明日の金曜から来週の金曜日まで日直もして貰います。」
「えぇえええ・・!! だって、明日は学校が終わったら直ぐに東都スタジアムに行かないとスピリッツのサッカーの試合があるから良い席がとれな…っ 「江・戸・川・君!!」」
小林がゴンっと出席簿でコナンの頭をペシツと叩いて睨み付ける。
「この間遅刻した時に、次に遅刻をしたら1週間日直をひとりでさせるといいましたよね? 君も分かりました、と、灰原さんたちの前で言った筈です。反論がありますか?」
「ごめんなさい…。 (くっそーっ 蘭のヤツ。 もっと早く起こしてくれてもいいのに! 新一の姿だったら予鈴にも楽勝だったのに。 いや、蘭の場合は今日は空手の早朝練習で5時半には家を出やがったからな、おっちゃんが起こすのを忘れなかったら。やっぱスケボーでくれば良かったか? いや、スケボーできたらゼッテー没収されておっちゃんと蘭が学校に頭を下げねぇと返してもらえねぇだろうし)」
小林は溜息を付く。
「なら、鞄だけ机に置いてさっさと後ろに立ちなさい。」
「はぁい…。」
コナンは諦めて鞄を置くと後ろの席に立つ。
くすくすと笑いを堪えているらしい転入生。
「全く。 ごめんなさいね、紹介の途中で。 彼がクラス一番の問題視。 推理オタクで何かと事件に首をつっこんでは怪我をしたりしているの。」
「でも先生。遅刻常習犯のおかげで転校初日で緊張してたのが吹き飛んでしまったわ」
「そう? ならば、少しは役に立ったようで良かったわ。」
小林はクラスを見渡す。
「さて。 紹介途中だったのだけど、皆にはクラスメートとして説明をしておきます。 白銀さんは亜米利加からの転入生ですが、日本語が喋れるのはわかりましたね? 皆に気を付けて貰いたいのが白銀さんは心臓の手術を受けているので、皆と駆けっこしたり体育でボールを蹴ったりする事は出来ないし、音楽室や理科室への移動で走る事もできません。 それから食物アレルギーの関係で給食のメニューは殆ど食べれないのでお弁当になる事がとても多くなります。 ―… なので、白銀さんだけ体育を休める、とか嫌いな物を食べなくてもいい、とかいう事は言わないように。」
「先生、アレルギーって?」
「免疫反応が特定の抗原に対して過剰に起こることよ」
元太の疑問に哀がさらっと答える。
「例えば、花粉症とかアトピー皮膚炎もアレルギー。 食物アレルギーの場合、たべられないものを間違って食べてしまうとアナフィラキシーショック… 呼吸困難をおこして最悪死んでしまう場合もあるの」
「あ! そういえば、蕎麦とか卵とか食べれないって人いるよね? 親戚のおばちゃんが、カニとかエビとか大好きなのに食べられないの。 かゆくなって湿疹がでるんだって」
「それは甲殻類アレルギーというのよ。」
「灰原さんも吉田さんも良く知ってるわね。さて、これで、白銀さんの躰が一寸弱いのは解ったわね? 外で遊ぶ、という事はできないけど、仲良くするようにね」
「はーい!」
「では、席は… あ、窓際は避けた方がいいんだったわね。なら、江戸川君が丁度立ってくれたから彼の荷物を今空いてる窓際の最前にして、廊下側の真ん中になるけどいいかしら?」
「はい」
「じゃあ、席を交換! 江戸川君、さっさと荷物を移して。 お隣は円谷君ね。教科書が届くのが来週の月曜だがら、今日と明日、見せて上げてくれるかしら?」
「あ、はい!」
「じゃあ、机を付けてあげて。 後ろの灰原さんと小嶋君は黒板が少し見難くなるけど今日と明日は我慢してあげてね。」
「大丈夫です。」
「おう! 転校生には優しくするもんだからな! 困った時は俺達が協力してやっから心配なんていらねぇよ!」
「ありがとう、小嶋君、灰原さん。 円谷君、今日と明日、よろしくね」
「こ、こちらこそ宜しくお願いします! 元太君が云ったように困った時は何でも相談して下さい」
「うん。ありがとう!」
「(窓際だと? また日が当たって寝やすい場所に)」
「そうそう。授業中に転寝をしたらどんなにテストの成績が良くても内申書に響きますからね。」
「……(だろーなぁ)」
踏んだり蹴ったりのコナンはガタガタと机の中身を移す。
(わわっ! コ、コナンが隣! 転校生に感謝しなきゃ)
歩美は空いていた隣にコナンが来て少し胸を高鳴らせる
「よ、よろしくね、コナン君!」
「こちらこそ!」
コナンも笑う。
(有希ちゃんが学校に通わせるなら帝丹小学校にってゴリ押しでパパを説得したけど、ここに江戸川コナンがいた、とはね。 ここにいたら、ジン兄やお姉ちゃまに会える、かもしれない)
「はい! では授業を始めますよ。 」
小林の声に桜はパディントンの絵柄のバインダーとペンケースを取り出した。
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