Act-07 闇の中 前編
嫌な夢をずっとみていた。

何故か子供の姿になって、男の人に乱暴されて、首を絞められている。

そんな夢。

「姫湖」
(ひめこ? 私の名前は雪乃というのよ? ひめこって誰の事?)


「馬鹿だな。夢をみてるのか?」
「アーチ!! ねぇ。 とても妙な夢を見たのよ? 小さな子供になって、両親らしい人が血にまみれてれているの。 兄弟らしき人も居たわ。」
「夢だろう?」
「夢だといいわね。 でも、私を助けてくれたのが、大好きなキャラクターだったのよ!」
「まさか、雪乃の好きなアニメの?」
「ええ! 赤井秀一だったのよ!」
「僕じゃ無いのが残念だよ」
「あら、赤井さんに妬いてくれるの?」
「恐らく、僕が勝てない、たった一人の人だからね」
「仕方ないじゃない? アーチに合うまで憧れの人だったのよ! アメリカ国籍だったら、絶対FBIの入局試験受けてたわ!」
「全く! 君が日本国籍でよかったよ。 あと、赤井秀一がコミックスキャラだったことにもね」
「んもう! 心配なんてしなくていいわ。 赤井秀一には宮野明美っていう恋人がいたのよ? ジンっていう狙撃手に殺されてしまうけど。」
「ジン?」
「そうよ! 銀色の長髪で何時も黒い服。真夏でも真っ黒なの。 まぁ、恰好いいといえばいいけれど、やっぱ赤井さんよねー。」
「浮気者だな、お前は」

アーチが私を抱き締める。
彼の腕の中はとても心地好い。
沢山のキスをくれる優しくて穏やかな人。
私が、春日の娘と知っても、春日を関係無く愛してくれた。
紫の瞳だからと差別なんてしなかった。

夢であったら……

でも、微かな意識の中でみた顔は、原作で髪を切る前…… ううん、伸ばしかけている途中の赤井さんのような
アニメの声と同じ。



まさか


Webで時々読みふける 転生とかっていう話?
海外ドラマでも似たような 飛行機が時空のはざまに飲み込まれて無人島にってあったけど
気づいたら好きなアニメの世界だったっていう……?

どうやって確かめる?
事故があったのかどうか。

考えられない……

喉が渇いた

「みず……」

水を取りたいのに動かない躰。
下腹が重い。
頭も重くて躰を動かせない。
意識の何処かで、躰が、起きるのを否定している。

「お水……」

ふ……っと暖かな手が躰を抱き上げてくれてストローみたな物を口に入れてくれた。
アーチと違って少しゴツゴツとしている、力強く逞しい手が見えた。

なのに安心できる。

水を欲していた私の躰はごくごくと水を体内に取り入れる。
もっと飲みたかったのに途中でそっと飲むのを止められた。

「今は此処までだ。 沢山飲んだら喉を痛める」

子供をあやすように背中を撫ぜられる

「もう少し寝なさい。 俺が…… しーちゃんが傍にいてやるから……」
「しーちゃん……?」

しーちゃん
ひめこと呼ばれていた子は、赤井さんをしーちゃんと呼んでいたのだろうか?
なら……

今の状況を調べる間……ひめこちゃんになって…… 調べるしか無いのだろう。
コナンの原作は、赤井さんが出ている(絡んでいる)話とプラスアルファ位しか分からないけど…… 出来る事なら夢であってほしい。

頭が回らない……
目が閉じていく

「お休み 姫湖……」
「傍に居て…… しーちゃん……」

(ひめこちゃんは、赤井さんをしーちゃんと呼んでいた……)
そう思ってくらくらする意識の中で声をかける

「ああ…… 大丈夫。俺はここにいるから…… ゆっくり眠れ……」

大好きな赤井さんの声。
微かな意識の中で、赤井の黒髪が見えた。
私より長い綺麗な黒髪

不思議だ……。

ひめこの躰が喜んでいる。
赤井さんが傍にいてくれるのを喜んでいる……

姫湖ちゃんは、赤井さんが好きなんだろうか?
私は、勉強ばかりしてて、学校でも友人は少なく、専ら先生を相手に難しい問題を解いていた。
親と居るのは雑誌や会社のパーティーで、成績優秀な娘と息子に恵まれたと、自慢話の時だけ呼ばれる存在。

熱があっても、祖父以外に優しい声を掛けてくれる人は居なかった。

「姫湖……」

優しく呼ばれる声は、アニメで知り尽くした声優さんの声で、頭を撫でてくれる大きな手はとても安心できる。
どうなっているのか分からない。

でも姫湖は独りじゃない。
赤井さんが居てくれる……

けれど、この時の私は気づいてなかった。
”声”が出ていないという事に。

「―…… 辛い事は…… 忘れてしまっていいからな?」

赤井優しい声が響いてくる。

「自分の事も…… 名前も記憶も……  忘れられるなら全て忘れてしまっていいからな……?」

(……姫湖ちゃんの身に…… 何かが起こった? 意識が消える前に見えた血みどろの床。 テロリスト絡みの飛行機事故じゃない…… 何かがあった……)

躰の奥から悲しみが溢れてくる。

(パパ…… ママ…… にぃにぃ……)

頭のどこかに残る意識が3人を呼んだ。

(姫湖を独りにしないで…… 置いてかないで……!)
(―……姫湖ちゃんの心が泣いている。―……パパとママと……にぃにぃを無くしてしまったの?)

悲しみが溢れて止まらない……。
(姫湖ちゃんの躰の中に"私"がいる。……目覚めるのを嫌がる子供の魂のなかで、大人の私が、しっかりと状況を把握したいと思ってる……)

けれど、
子供の躰は弱ってて……

私の意識は闇に沈んでいった。
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