Act-06 後見人
「赤井君と云ったね? 君の気持ちは解るが、息子さんより、准将が狙われた確率の方が高いだろう? 姫湖ちゃんは此方(ペンタゴン)で保護してもっと安全な場所で治療を受けさせた方がいいんじゃないのかね?」
「何度仰られましても、承服出来ません。」
「君が、准将のお嬢さんを可愛がって居る事は我々も知っている。 だから、転院先では何時でも面会出来るように手配する。 ー…… これなら文句はないだろう?」

病院の第一応接室で会話をするのは国防総省の情報部付の少将と秘書官に護衛の大佐とドアの両横に部下の軍人が2名。
応接間の前にも2名が待機している。
対するのは赤井と死んだ瑞樹聖の上司でもあるジェイムズブラックと赤井秀一、ジョディ・スターリングだけである。

「姫湖に何か聞きたいなら、姫湖が回復してから、医師の立合の元でして頂きます。」
「しかしだねー……」
「瑞樹のおじさんは、確かに国防総省の要職の地位に居ましたが、元はFBI。 聖さんもFBIです。 事件の主犯がFBIでの任務中の犯人の関係者である可能性も有ります。」
「准将が殺されたんだ! 此方としても、犯人を尋問する権利はある!」
「それには同意します。 ですが、姫湖を転院させる事は出来ません。」
「ー…… 我々が、義理を立ててる間に首を縦に振った方が利口だと思うがね?」

大佐の階級章を付けた男が居丈高に云う。

「私は姫湖の、もう一人の兄であると自負しています。 怖い目に遭遇してまともに話が出来ない状態の妹を、”はいわかりました”と、お渡しするとでも?」
「ー…………!」

赤井は動じずに大佐に向かって殺気を飛ばす。

「兄としては、姫湖さえ無事で俺の手元で守れるなら、瑞樹一家を襲った犯人が、殺されようが自白剤で正気を無くそうがどうなっても構いません。」
「…………!」
「犯人を引き渡せというのなら、局長の命令があれば何時でも放り出しますが、FBI捜査官としての私には犯人を尋問して、主犯が居るか調べて捕まえる責務が有ります。」
「しかしだね」
「今の姫湖は首を締められたのと、目の前で家族を失ったショックで錯乱しかかったのを、鎮静剤でやっと眠らせて居るんです。 そんな姫湖を…… 可愛い妹を! 治療と称して何をするかも分からないそちらに転院なんてさせられるか!」

赤井の容赦ない殺気に大佐も秘書官と、護衛の軍人が顔を強張らせる

「ー…… つまり、君の個人的意立場としては、お嬢さんの保護者ー…… 後見人だと判断して、いいんだね?」
「勿論。 おじさんも聖に、仕事が仕事でしたから、自分たちに何かあったら姫湖が成人して独り立ちするまではと頼まれました。おばさんもいつ巻き込まれるかどうかわからないから……と。 まだ1年も経ってませんが、法律的にも後見人として、手続きをしてあり有ります。 何なら書類をお見せしましょうか」
「いや…… それは一寸調べればわかる事だ。」

赤井の殺気を正面から受け止めた少将が溜息を付く。

「仕方ない、か。我々の権力で転院させるには此方に不利だし、無理強いでこの場で転院させるのも出来るが、同行のこいつらが君の殺気で動けなくなっている」
「殺気? ああ…… そうですか? それは失礼を。 少将が平気な顔でしたので殺気を飛ばしていた事に全く気づいてませんでした。」

小馬鹿にするように大佐の方を向いて口元に狐を描いた笑みを浮かべる。

「……おまけに度胸もあるようだな? 准将にはご子息を国防総省に弾きぬきたいと幾度も持ちかけて断られ続けていたが、変わりに君をヘッドハンティングしたくなってきたよ。」
「謹んでお断ります。 俺ごときの殺気でビビるような上司の下で仕事をするなんて下剋上をしろというようなものですよ、少将」
「なっ……! たかがFBI捜査官の分際で!」
「では、比べてみますか? 赤井君はそこらの軍人よりも強い。 射撃は軽く700ヤード先の0.5インチの的を撃ちぬけます。」
「なっ……!!」

会話に入ってきたジェイムズの言葉に絶句する大佐。
国防総省の捜査員達は顔を見合わせる。

「ほう……? ますます君が欲しくなったよ。 ただの一般人が法律的後見人なら、いくらでも手はあるが、FBI捜査官が後見人だと部が悪い。 犯人の尋問に関しては、合同捜査にするように正式に申し入れるとしよう」
「御随意に。」
「ー……」

少将は溜息を一つ。

「ま、公人としの会話はこれまでとして……、姫湖ちゃんは犯人に乱暴されたという噂が飛び交っているが、メンタル面は大丈夫なのか?」
「あ……いえ、 それは、……まぁ、女性特有のものが、ショックで重なった、というだけでしたので医師の診断書もだせますが。 ……とはいうものの、ショック状態で錯乱状態に陥っているので暫くは入院加療が必要ですが」
「そうか……。 私にも娘がいる。 乱暴されてないのはせめても救いだ。」
「そうですか……。」
「准将は……… 尊敬すべき方だった。公私を分け、仕事では容赦なかったが、ランチやブレイクタイムの時は決して声を荒げる事もなく…… お嬢さんの話をする時は頬が緩んで…… 部屋には結婚式の時とご子息が試合で優勝した時の写真とお嬢さんがウィーン・ピアノ交響楽団主宰のコンクールでジュニア部門史上最年少で準優勝をした時の写真が置いてあって……」

黙り込む准将。

「おじさんは、聖さんと姫湖をとても可愛がってました。 テロ対策の調査や攻撃部隊の指揮を執り、世界を飛びまわってて…… 稀に公休で戻ってくると学校まで迎えにきて早退までさせてて構い倒して……」
「そうだったな……。 私達は准将の敵を、君は同僚とその妹さんの敵を……」
「ー……少将?」
「私人として姫湖ちゃんが1日も早く笑えるようになる事を望むよ」
「有難う御座います」
「だが、公人としては、姫湖ちゃんになんでもいいから気に成る事とかあったかどうかを聞きたいものだが。」
「……もし、、姫湖が話せるようになって思い出した事があればご連絡します。」
「話せるように?」
「ー…… 首を絞められ酷く声帯を痛めたので、声を出せないんです。」
「声を無くしたのか?」

大佐、と呼ばれていた男が聞く。

「いえ、一時的なものらしいです。 目が醒めないと正確な事は解りませんが痛みがとれたら喋れるだろうと……」
「そうか……。喋れないのは…… 辛いな」
「大佐?」
「私にも経験がある。首を撃たれてね。 あと1センチずれてたら死んでいた。 幸い私は生き延びて…… だが、声が戻るまで約1年かかった」
「! そんな事が……」
「10年近く前の事だ。―……だが、私はここにいる。」
「ふてぶてしかったからな、お前は。 医師が吃驚する程の生命力だった」
「あそこで死んだら、末息子の顔が見れませんでしたから、なんとしても生きようと思ったんですよ」

苦笑する大佐。

「兎も角、だ。 ……君のバリケードを突破して姫湖ちゃんに会うのは至難の業…… というより、まずこいつらのレベルじゃ無理だろうからね……」
「制服を脱いだ私人であれば、いつでもどうぞ。」

赤井は答える。

「ははっ…… その時は縫いぐるみでももってくるよ。」

少将が立ち上がる。

「帰るぞ。」
「はっ!」

直立不動になる秘書官たち。

「少将。大佐」

立ち上がった少将に赤井は声を掛ける。

「ん?」
「御無礼な事を云い、申し訳ありませんでした。」

赤井は丁寧に頭を下げる。

「いいさ。 君の気持は、 娘を持つ父親として良く分かるからね」
「―……」

少将はポン、と赤井の肩をたたき、屈託なく笑う。

「―…… 赤井、と言ったな?」

不適な笑みを浮かべて大佐が声を掛ける

「はい。」
「―…… 冗談ではなく…… 一度、君の射撃の腕を見てみたいものだね。そのうち、我々の1週間のサバイバル研修にゲスト参加して貰いたいものだ」
「姫湖が回復して、任務と重ならなければ……」
「幾ら我々でも後見人の許可なく尋問をするような真似はしない。 ……日程が決まったら連絡しよう。」
「分かりました」

赤井は頷く。

バタン、とドアが閉まり、複数の足音が遠ざかると、ジョディはソファの後ろに凭れかかり、ジェイムズは深い溜息を付き、赤井は目頭を押さえるように息を付いた。


「まぁーーーったく! シュウの心臓って鉄でできているんじゃない?」
「同感だ。 あれだけの殺気を飛ばしておいて、のうのうと言い切るとはね」
「……ああでもしなければ姫湖を守る事なんてできませんでした。」
「それにしたって、後見人だなんて! 本当に調べられたらどうするの?」
「心配ない。 半年以上前に法律的な届出を出して受理されている。」
「―……! 知らなかった」
「―…… 云う気も無かったしな。 おじさんも聖さんも、こんな仕事で恨まれる事もあるだろうから、万一の時は……と。」
「そう……」

ジョディが黙り込む。

「なら…… 少なくとも…… 私のように証人保護を受けなくても…… 名前を変えなくてもいいという事ね?」
「ジョディ君……」
「あの時、証人保護を受けた事を後悔してる訳ではないんです。 姫湖ちゃんにはシュウがいるから」

(私に後見人は居なかった。 犯人は解っているのに今だに捕まえる事が出来ない。 ならば、せめて姫湖ちゃんの家族の事件だけは……)

ジョディは思った。

「姫湖には俺がいる。 だが、俺には父親変わりができるが、もう少し大きくなった恋もするだろうし、男親には相談に乗れない事もあるだろう。」

赤井はジョディを見る。

「その時は、同じ女性として…… ジョディが相談に乗って……力になってやって欲しい」
「……!」
「頼めるか?」
「勿論……! 勿論よ、シュウ! ママにもお姉さんにもなってあげれらないけれど、お友達として相談に乗ってあげる。 何時でも、どんな相談でも……!」
「ありがとう」

赤井はジョディの肩をポンと叩く。

「俺は病室に戻る。 少しでも姫湖についていてやりたいからな。 何かあったら携帯で連絡を。 特別階には専用パスが必要だからな。 それと、ー…… 明日でいいからスーパーで桃か杏子の缶詰を2〜3個、買ってきてもらえると助かるんだが」
「缶詰でいいの?」
「ああ…… 本当は生のを買ってやりたいが、すぐに食べれるか分からないからな。 缶詰なら冷蔵庫にいれて冷やして置けるし食べたい時に食べられる」
「分かったわ。姫湖ちゃんは桃と杏が大好きだものね。 」
「頼む」


ジョディは苦笑しながら病室を出た。
9/25
prev  next
←夢幻の果てに