Act-10 斎の時
故人を偲ぶように想い出話が出る。
任務の事、おじさんが自慢していた家族の事……

姫湖は見事にホステスの役を果たしていた。
将軍方に挨拶をして回り、ケータリングの給仕たちに夫々の指示を出す。
あまり付き合いのない親戚たちにも嫌な顔は見せず。

これが12歳の子供の姿なのかと将軍方も瞠目する。

「准将が自慢をなさるだけの事はある……」
「頭が良いだけはない。礼儀も言葉使いもしっかりと躾けられたお嬢さんだ」
「息子さんも確りしてたが ー…… 本当に惜しいかたを」
「あの件を調べる事が出来るだけの後任選別が大変だな」
「あの件? 父はそんなに危険性の高い任務を抱えていたのですか?」
「えー…… あぁ。とても…… 数ヶ月単位ではなくてね。3〜4年はかかる…… 状況によってはもっと長期間の調査になるが、解っているのは末端の末端。 君の父上の前任者は事件の調査中に行方不明となった。」
「その方は、見つかって無いと仰る?」
「彼には気の毒だがー……」
「では、もしかしたら父も、そういう羽目に為る可能性があったと?」
「可能性は高い。…… けどね、君が心配することは無い。此れは、アメリカを護る我々の責務でもある事なんだ。今は各機関がバラバラで調査しているが、何年後には合同で調査をして情報を共有し壊滅作戦を敢行する。 ……それが、准将が考えておられた事だった」

赤井は将軍達と同等に話す姫湖をみても喜べない。
無理をして話に混ざっている。
仕事の事は話してないが、顔と名前は教えられていたのか、ちゃんと名前で呼んでいる。

だが……
化粧で誤魔化せない位唇の色が悪くなっていく

「姫湖…… 将軍方々の御相手は切り上げてそろそろ躰を休ませなさい。顔色が悪い」
「しーちゃん?」
「これ以上、お相手をしてたら疲労で倒れて、病院に戻る事になる」
「でも……」
「そうだな。」
「私たちの事はいい。 時期に失礼しなくてはならないからね。」

将軍方が云う。

「でも」
「姫湖? お前が倒れたらおじさん達が悲しむぞ」
「―……はい」

姫湖は頷いた。

「申し訳有りません。俺ー…… 私は姫湖を寝かし付けて来ますので」
「我々に気を使うな。 TVや雑誌の取材はペンタゴンがFBIのか広報を通すように連絡を入れてある。 もし、准将の遺児に近寄ったら、肖像権の侵害で拘束するとな」
「お気遣い痛み入ります。」
「斎の場に迄来て下さって ー…… ありがとう ございました。」

姫湖は丁寧に頭を下げる。

(もう少し…… もう少しだけ持って…… 姫湖の躰)

「さ、部屋に戻ろう。そして、たっぷりと眠りなさい。」

赤井の言葉に頷く姫湖
そんな姫湖を黙って見る親族たち。

「……お祖父様、お祖母様、叔父様、叔母様方。 遠くから臨席ありがとうございました」

(どんな方であったとしても、どんな目論見があったとしても、礼儀は忘れちゃいけない……)

姫湖は余り付き合いの無かった、任務的にあまり行き来できなかったという事もあるが、親族たちに近寄ると頭を下げる。

「親よりも先に死ぬ不幸をした両親とにぃ…… 兄を…… 許して あげて  下さい。」
「―……」
「ホテルの予約をしてないなら…… 3階の客間を使って下さい。左橋から2人部屋が2つ、一人用が3つあります。来客用のベッドとテーブル、箪笥にTV位しかありませんが、シャワー・ルームはそれぞれの部屋にあります。お使いになるのでしたらご自由に」
「ホテルを予約してないから助かるわ。」
「有りがたく使わせて貰うよ。」
「どうぞ。」
「あー、そうだわ。キッチンやカップは勝手に使っても?」
「―…… どうぞ。」
「言い添えておくが、カラトリーをご自分の荷物にいれようなどという考えはなさらぬ事だ。」
「なっ!」
「おじさんもおばさんもセンスがよくてな。 食器類もグラスも可也のレベルでそろえている。 ひとつ二つと目を付けられたのがあるらしいが。」
「―…… しーちゃ… 赤井さん。」

姫湖がそっと首を振る。

「日本には、形見分けという風習が今でもあるわ。食器の一つや二つ位なら無くなってもいいの。 パパとママが本当に大切にしていたのは2階のお部屋にあるものよ。」

キッチンの鍵付きの飾り棚には春日雪乃であった時から好きだった、ドイツのマイセンの千一夜シリーズがフルセットでおいてある。
日本の大蔵陶園、オールドノリタケのダイヤモンドコレクション
リヤドロの限定品。
ジノリのシノワズリシリーズ。
バカラのグラス。
そして棚にはガレのランプ。

どれもこれも普通の家庭では中々と手の出せない高級品だが、買えるものばかりなのだから。

姫湖はゆっくりと踵を返した。
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