Act-13 暗がりの中で
(しーちゃんの馬鹿。 ここは、しーちゃんの家でもあるのに、11時を過ぎると車を止めて見上げるだけで入ってこない。)
姫湖は暗がりの中に灯った煙草の灯と、そして消えて行く車のライトを見送って膝を抱え込む。
睡眠薬を処方されて服用してても殆ど効果が無い。
2〜3時間転寝できればよい方だが、それは看護師もメイドも知らない事。
看護師が夜中に必ず様子を見に来るので、その時間前後は姫湖が気に入っていたと思われる人形を抱いて顔を伏せてねた振りをする。
看護師は姫湖がベッドで眠ってる分には入って来ない。
たまにソファにいるのを見咎められてた時は放心状態を装う。
看護師は疑いもせずにそっとベッドにいざなうと寝かしつける。
そして点滴をさせられて、再び夢の世界に入るのだ。
(赤井さん。 そろそろ日本行きの話がでた? 貴方はいつ、その事を話してくれるのだろう? そして姫湖ちゃんの願いはなんだろう? 私は、駄々をこねて一緒に行きたいと喚いてもいいのだろうか……)
止まらない涙。
(赤井さん。 私がこの世界に転生したのは何故?)
姫湖の躰にいるのは大人なのだとは言えない。
それでも
子供の姿で
貴方が
任務の為に近寄った宮野明美を愛してしまう前に
子供の姿で我儘を言って
喚いて貴方の傍にいる事を願ってもいいですか?
小さな足音が聞こえて姫湖はそっとベッドに潜り込むと丸くなる。
そして小さな音がして、ドアが細く開かれる。
窓際のソファに座ってたり、窓の外をみていたら寝かしつける為に入ってくる。
姫湖が好きなクラシックのCDをかけて入眠剤を服用させる。
けれど、ベッドがこんもりとなって寝ている分には入って来ない。
眠りが浅いのを知っているので気配で目を醒ましてしまうかもしれないから、である。
(コナンの原作はまだ始まっていない。 でも赤井さんが組織に潜入するというプレ・プロローグは始まろうとしている。 宮野明美が運転する車にぶつかり、病院で出会って、被害者加害者の枠を超えて付き合い出して。 でもそれは組織に潜入するための取っ掛かりで、なのに、付き合っていくうちに本気で愛してしまう。)
息が苦しくなってくる。
何も考えれられない。
誰かが遠くで名前を呼んでいるような気がする。
(どうすればいいの。 どうすれば赤井さんを引き留めて置けるの? ダメ。 引き留めては。 赤井さんはFBIが誇る銀の弾丸。 700ヤードを超える銃の腕を誇る捜査官で、あのジンと同じかそれ以上の狙撃手なんだから、私が行ったら迷惑になる)
雪乃としての大人の感情。
姫湖としての子供の感情。
クラクラする。
葬儀の後、食欲が殆ど無くて、摂るのは果汁100%の搾りたてジュースかスープ程度で、エネルギーの元になる肉も魚も殆ど口にしていない。
躰に悪い事は100も承知だが、食べようとすると胃液が喉に上がってきて受け付けないため、医師が簡易栄養食を出していた。
半ば不眠症で導眠剤を服用しても眠りが浅い。
少しでも外にでて太陽の陽を浴びれば違うのかもしれないが、部屋から居間に行くと、血にまみれた3人の姿が脳裏に浮かぶ。
それは、雪乃ではなく姫湖がみた最後の風景。
(もう少し・・・ もう少しだけ、私の傍にいて、赤井さん)
消えかける意識の中で姫湖としての想いが願った。
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