Act-17 暗闇
どろどろとした夢を見た。

黒い沼に引き込まれて

醜い心に飲み込まれる。

「嫌 …… ! ぁ…… パパ……!!」

息が出来ない。

寒い。

此処は海?

テロリストがー……… 飛行機で自爆して。

お祖父様。
お父様
お母様
敬之。

せめて一目。

「姉様ー……!」

弟の、声がした。

「雪乃!」

愛する人の声がした。


転生前の私はどうなったの?
殆どの人は無くなった筈。

なら私は?

姫湖ちゃんの心は何処に?

「姫湖」

赤井さんの声がした。

「頼む姫。目を醒ましてくれ。」

(赤井さん? 私は、貴方が知ってる姫湖じゃない。 だから、もう、忘れて。)

業と切った手首。
姫湖の精神状態が普通じゃ無い事に気が付いた筈…

違う

赤井さんを渡したく無い

一人ぼっちは嫌……




「姫湖………」

明け方には目を醒ますかと思ったら、精神的疲労と貧血と診断されて、説教する前に軽い睡眠薬を打たれてしまい、目を醒ましたのは昼過ぎだ。

「姫湖?」
「―… しーちゃ…?」
「馬鹿娘! 辛いなら、悲しいなら俺を呼べとあれ程言ったろ! お前に万一の事があったら、俺は!」

赤井は包帯を巻いた方の手首を業と握りしめる。

「―……っぁ …!」

声に成らない悲鳴を上げる姫湖

「痛いだろ!? 痛いのは自業自得だ! けど、覚えて置け! お前が馬鹿な真似をしたら悲しむのは天に召されたおじさんとおばさんとお兄さんだ!」
「パパ…? ママ? にぃにぃ… どこ?」
「姫湖」

赤井は手首に込めていた力を更に強くする

「俺がいる。 お前を護る為なら、お前がこんな馬鹿な事をせずに笑ってくれるなら、俺がお前のにぃにぃになってやる! 聖さんの変わりにずっと傍に居てやる!」
「しーちゃ…っ 痛いっ」
「答えろ、姫湖」

(ごめんなさい、アーチ。 馬鹿な真似をすれば見捨てて貰えると思ったのに―… 赤井さんは。 私は子供の姿で。ひめこちゃんになって暮らしている。 ごめんなさい、ひめこちゃん… 私は、貴女の心が戻って来るまでここに…)

「―…っ! すまない。 力を入れ過ぎたな。」

包帯からにじみ出てくる紅い液体に我に返った赤井が力を緩めれば、支えを失った細い躰がベッドに沈み込むと動かなくなり、呼吸も荒い。

「―っ! 姫湖!」

慌てて抱き起して傷口をみれば、思った以上の力で握り締めていたらしい。
下手をすれば傷が開いて雑菌が入り込み、炎症を起こすかもしれない。

「今日一日は医師を待機させているから呼んでくる。 すまない。 こんなに強く握る積りは無かったんだが。」

赤井は身をひるがえしてルームホンで居間で珈琲を飲みながらカルテを整理しながら病院と連絡を取り合っている医師を呼ぶ。
治療に必要なものは姫湖の部屋に一揃い置いてあるので直ぐに駆けつけてくる。


「お説教は必要、とは看護師が伝えた聞いています。 ですが鍛えている男の人でこんなに力を入れられたら治る傷も治りませんよ!」

医師は傷に張り付いてしまった包帯をそっとはがしながらいう。

「すまない。 つい―…」
「全く、可哀想に。 馬鹿力でこんなに圧迫されて傷が開きかけて―…」

ブツブツと赤井を睨み付けながら医師が手際良く手当をし直す。

「さ、痛み止めを服んでゆっくり眠りなさい。」
「寝るのは、嫌」
「姫湖、ちゃん?」
「真っ黒な、夢、みるの。 誰も、いない黒い所」
「―… そう。でも、今は、少しでも眠って、躰を治さないとね?」
「―…嫌。」
「パパとママと …あーちゃんの…っ 夢、は見たくない」
「夢を見ない程強い薬は、躰が弱ってる姫湖ちゃんには出してあげられないんだよ。」
「嫌」

ぷい、と薬を飲みたがらない少女。

「大丈夫だ。 俺が傍にいてやる」
「しーちゃ…? 姫湖の傍にいて、くれる?」

自由の利く手で赤井の服を掴む。

「勿論だ。 黒い夢なんか追い払って、やる」
「ずーっとずーっと、一緒?」
「あぁ。ずーっと一緒だ。」
「しーちゃんが一緒なら、姫湖もうこんな事しない」
「姫―…? 姫湖?」
「しーちゃんと一緒に居たい。 にぃにぃは誰にも渡したくない。」
「分かった」

赤井はベッドサイドに腰を掛けると細い躰を抱き寄せる。

「―… そんな顔をするな。 どうしたらいいのか分からなくなる」
「にぃにぃ―… ごめ―…っ 」
「姫湖は俺の―…… 俺だけのお姫様だ」

ポロポロと溢れる涙

「泣きたいだけ泣け。 お前は俺が守ってやる。 命を賭けて守ってやる。 だから、今はちゃんと薬を飲んで、ゆっくりと眠れ」
「ん…」

姫湖はトレイに乗っている数種類の薬を何回か分けてゆっくりと飲んだ。




「赤井さん。 ―… 少し、時間をいいですか?」
「あぁ。 まぁ、大体、想像ついているが」

漸く寝付いた少女の脈と呼吸を確認して、医師が話しかける。

「なら、話もしやすいですが―」


医師に提案されたのは予想通りで、赤井は溜息を吐いた
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