Act-18 来客
「シュウ。何なら私が姫湖ちゃんに付き添ってもいいのよ? 最近は話もしてくれないし、懐いてくれてないけど、仕事と思えば割りきれるし」
「すまない。 最も聖さんに近寄る同級生にも懐か無い子だったから、混乱してるのかもしれないな」
「そうだったわね。 ちっちゃな時からあーちゃん、あーちゃんって、付いて回ってた。」
「そうだな。試合の時も、聖さんと俺の時は、あーちゃんに勝っちゃダメ〜!! って、直談判だ。 その度おじさんに注意され、聖さんに宥められ。 だが、俺が聖さんに勝てた事は片手で数えられる位だ。聖さんはそれ位強かった。」

試合であーちゃんと呼ばれても平然と返事をして、自慢の妹を抱き上げる。

「姫湖。試合に来てくれるのは嬉しいけど、にぃにぃ以外の連中に近寄るなよ? にぃにぃより弱い狼どもに可愛い妹をやれんからな」
「あ、ひでぇ! 先輩の妹を取って喰ったりしませんよ。後が怖いッスから」
「しっかし、兄とはいえあーちゃんって、俺の妹なんざよくて兄貴だぜ。しかも姫湖ちゃんみたく可愛くねぇし」
「うちもだな」
「姫湖は特別さ。な?」
「うん!」

試合前の集中が必要な一時。
聖は妹を抱き上げる。

「にぃにぃが優勝するのを関係者席で見てろよ?」
「うん! あのね、優勝したらちゅーしてあげる。夜ご飯のデザートの時、姫湖が珈琲入れて上げる」
「姫湖のキスと珈琲付きか。 だったら、尚更、優勝カップは貰わないとだな。」
「―… 聖さん。 負けるという言葉は?」
「はっ! 俺の辞書には負けるなんて言葉はないさ。」
「聞いた俺が悪かった… なら俺が聖さんを負かして優勝旗…「駄目ーーーっ!!」」

赤井の言葉は姫湖の言葉に遮られる。

「優勝旗はにぃにぃのだもん! にぃにぃは強いもん! しーちゃんなんかより強いもん!」
「なんかって… おい。赤井。 お前聖先輩の妹に嫌われてるなぁ」
「ってか、お前さぁ、姫ちゃんが生まれた時から知ってるせいですっげー可愛がってるよな。 なのにこんな風に言われるなんて可哀想にな」
「姫湖、しーちゃんの事、パパとにぃにぃの次に好きだよ? でも姫はおっきくなったらにぃにぃのお嫁さんになるんだもん! 旦那さまを応援するのは当然だもん!」
「と、いう訳でな。姫湖に下手に近づいたらどうなるか覚悟しとけよ。 交際許可証は俺と父さんを相手に文武両道で勝つ事だからな。」

ぷー、と頬を膨らまして抗議する幼い少女と不適に笑う兄。

「「「―…」」」
「はー… 試合に関しては俺は聖さんの2の次。3の次以下だ。普段なら懐いてくれるのに」

わざとらしく溜息を付く赤井と巻き起こる笑い。


(姫湖…)


道場のアイドルにもなって、皆、姫湖には手をださなさいというか不可侵条約が水面下で結ばれていたのを姫湖は知らない。




そして翌日になっても熱が下がらずに病院に運び込まれた姫湖。
赤井が日本へ行く日が近づくにつれて容体が悪くなる。

「(一緒に日本に行けるなら)」
学校なんか行かなくてもいい。
傍に居てやりたい。
姫湖の笑顔が戻るなら。

不安要素は沢山ある。

(どうすれば、日本に連れていける? 姫湖の日本国籍と日本人としてのパスポートは作った。 だが、この状態の姫湖を飛行機に乗せるのは無理だし、目立つ上に危険すぎる。)


赤井は安定剤入りの点滴を投与されて深く眠る姫湖を見護り続ける。



カツカツカツ…


医師でも看護師でもジョディたちでもない静かな足音が耳に入り、赤井は緑の瞳を険しくすると、ジャケットのボタンを外す。

足音は姫湖の病室の前で止まる


(誰だ?この 特別病棟に一人で来れる奴は居ない筈。 もし見舞客ならフロントから連絡が入る。 だが、連絡もない。ジョディたちならすぐに入ってくる)



トントントン


同じ感覚でノックが響く。



「―… 入っても宜しいですか?」
「失礼しました。 どうぞ」

その声に赤井は目を見開いてドアを開けた。
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