Act-01 再会
"彼"は、愛車であるシボレーを走らせていた。

「(雪乃は、元気だろうか。 彼等に預けて半月。 俺は、10日以上も雪乃に会ってない)」

頭に叩き込んだ療養所への道。
仕事は、銃機店での営業と販売管理にクレー射撃のアドバイザーだが、日本政府が発行した銃刀法所持の許可証を免許証と合わせて持ち歩いているので問題はない。

諸星大、としてアメリカに新型の銃の見本市に来た彼から3日の間に顧客や仕事のレクチャーを受け、頭の中に叩き込んだ。
そして他社でのプレゼンテーションをこなして日本に戻り、会社でレポートを纏めて見本市での会議の報告書を書く。

年末年始以外は休みの無い会社だが、数年前に交通事故に遭い、ただ一人生き残った従妹を見舞うため8連勤をして3連休というサイクルシフトで勤務をしている。

今回は海外出張にレポート提出発表、という特殊勤務で15日間連続シフトだったが、アメリカで2日のオフと飛行機での時差もあったため法的には問題はない。

「(誰も、気付かなかった。)」

銃を取り扱う会社故にセキュリティは厳しく、正門はIDで済むが各セクションは指紋認証。
銃機ルームは静脈認証も必要な会社で流石の"彼"も内心緊張した。
だが、彼は余程上手く立ち回ってたらしく誰も疑わない。

「諸星」
「はい?」
「雪乃ちゃんが入院してる病院には、俺が連絡をしておいた。 8日毎にくるお兄ちゃんを海外に行かせてしまったと。 だが、今回は君に行って貰って良かったよ。先方も前向きに取引を考えるとのメールをくれた。銃規制が叫ばれる中どうなるかと思っていたんだが、君のプレゼンが良かったようだ」
「有難う御座います。」
「まぁ、褒美といってはなんだが、普通は5連休だが、1週間の連休にしてやる。 君は殆ど休みらしい休みを取らないからな。」
「ですが」
「病院の院長がな、この2〜3日、にぃにぃが来ない、と食事もとらなくなってきているとクレームを言ってきたんだ。 早く行って、安心させてやれ」
「雪乃が、ハンストを?」
「8日毎にくるサイクルが狂ったんだ。不安になっても仕方ない。 それに毎日電話とかしてたのも海外電話になると高額になる。」
「ー… 雪乃にはちゃんと言い聞かせてきたんですが」
「まだ子供だ。長期療養中のな」
「ー…」
「プラス2日は詫びのようなものだ。 気にせずに会って、傍に居てやれ。」
「有難うございます」


(良い人達、だ)

都会から少し離れた静かな別荘地帯。

大きくはないが、精神科の医師とカウンセラーが複数いて、此処の部屋も可なり広く、ベッドにバスルーム、トイレもあるしTVもパソコンもある。
料理こそできないが小さな食器棚に冷蔵庫もあって、病院関係の施設とは思えない
勿論談話室でTVをみてもいいし、楽器がおいてある音楽室に歩く練習をするようなリハビリルームもある。
退院してからも相談にのってくれるためにプライベート重視の面談室もある。

勿論、それなりに金の掛かる施設だが、雪乃の両親は殺された為、両親と兄の生命保険が可也あり、父親は可也の高給取りで貯金もかなりある事から閑静な施設で静養治療。
元々が多額の財産をのこしていたのと、彼等の裏での見事な力。

「あ、いらっしゃい、諸星さん。半月ぶりですね」
「あぁ。海外出張でね。是非プレゼンをと部長自らの御指名でどうしても断れなかったんだ。 ありふれたものだが、土産だ。」

諸星はピターチョコクッキーと珈琲の詰め合わせの箱を差し出す。

「医師達には別に持ってきた。本当なら酒の1本でも思ったんだが仕事に支障がでたらこまるからな。 医師たちには俺から云っておく」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく。 車は何時もの場所へどうぞ」
「分かった」
「院長に諸星さんが着いたと連絡を入れて置きます。」
「ありがとう」

諸星はゆっくりと車を回す。
雪乃の為に選んだのは紅茶の茶葉とチョコレートにブランドもののブレスレットに可愛いワンピースと靴を揃いで買ったので可也の大荷物となり海外旅行用のトランクに入れた。

「あらまぁ、諸星さんってば大荷物。 雪乃ちゃんと愛の逃避行ができそうですわね」
「ははっ! 2週間も会えなかった姫君への貢ぎ物さ。トランクに半分程入ってる」
「あらあら。 でも肝心のお姫様のご機嫌はとても悪うございましてよ、王子様」
「食事を摂らないときいたんだが」
「にぃにぃが来ないからいらないって、ハンストしてますけど、そのにぃにぃがやっと来たんですもの。昼食は2人分、お持ちしますね。」
「まぁ、精々頑張ってご機嫌を取りますよ。 1週間の連休を貰えたのでね。」
「ふふっ。 頑張って下さいな。 お姫様はお部屋でパスルをやってますから、無視されるかもしれませんわよ」
「パズル…」
「えぇ。 しかも1000ピースのジグゾーパスル。」
「1000? 100の間違いじゃないのか?」
「いいえ、1000ピースですわ。音楽室にあったチラシに掲載されてたイルカの模様のが欲しいと」
「喋ったのか?」
「いえ。 ジェスチャーで。 時折、何かを言いたそうにしてるんですが、にぃにぃ、としか聞き取れなくて。」

すいません、と申し訳なさそうにいう看護師。

「気にしないで下さい。雪乃は両親と兄を目の前で無くした時に喋れなくなった。 にぃにぃ、と呼んでくれるだけで充分だ。 治療には長くかかるのは覚悟の上だしな」
「そうですね。 此処に来た時は、食事も食べれず、水も飲めず、夜も眠れなかったんですもの。」
「食事の後で車で外に連れ出しても?」
「今日は夕方からとても冷え込むという天気予報ですわ。 明日は1日中暖かいという予報ですから明日に為さったら?」
「なら、今日は散歩程度でドライブは明日にしよう」

諸星は会話が上手くいった事にほっとする。

手首を切る、という騒ぎを起こしたあと、姫湖は異常な程敏感になり、喋る事が出来なくなった。
片言で何か言おうとしても言葉が続かない。
そんな姫湖を彼等に預けて、面倒をみてくれる人がいるとはいえ10日以上も一人にしておいたのだ。

諸星はドアに諸星雪乃と木彫りで彫られたプレートが止められている部屋の前で立ち止まると深呼吸を一つしてノックをした。

が、返事はない。

もう一度ノックをして、諸星は部屋のドアをあける。

大きなベッドなのは彼等が手を回したからなのか。
瑞樹邸のベッドほど大きくはないがダブルサイズだ。
部屋の窓も大きくベランダがあり、ベランダにも椅子とテーブルがあり日向ぼっこができるようになっている

そして部屋の中央のテーブルに置かれた木枠の中には作られたパズルの外枠。
そして青や緑や色ごとに分けられたピースが硝子のボールに、壁には出来上がりのポスターが貼られている。
穏やかな朝日が差し込む海中で親子のイルカが2頭泳いでいる

少女の周囲だけ時が止まったかのように細い指が色々なピースを選んでは違うボールに移していく
元々記憶力は良い為、あちらこちらと部分的にできているが、外枠のピースが一つ足りない所をみると欠けてるピースを探しているのだろう。
それでも部分的にできている隙間を少しずつ埋めていく。

諸星はふっと頬を緩めるとパスルを続ける少女の邪魔をしない様に荷物を置くと、邪魔にならないようにソファに座った。
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