Act-02 心のピース
どれくらい、パズルをしているのをみていたのか。

諸星はパズルのピースが一つベッドの傍に落ちているのに目を止める。
拾えば枠の1ピースらしく、片側は平らになっている。

少しだけ口角を上げて、少女の手元に差し出した。

「探し物はこれですか、お姫様?」

(ー…赤井、さん)

雪乃はピースを探すのを止めて赤井を見上げる。

「どうした? これを探してたんじゃなかったのか?」

困ったな、と少しだけ眉を寄せた赤井の手のひらに置かれたピースを取り上げると、欠けていた外枠にカチリとはめ込む。

(海外出張だ、と先生たちが言っていた。 諸星大の上司、とかの人もわざわざここまできた。どんな手腕を使ったのか分からないけど、今の私の名前は諸星雪乃で諸星大の従妹となっている。 つまり、原作でいう潜入捜査が始まっている、という事)

何か口を滑らせたら、と、この10日近く、回りとの会話を最小限にして、部屋に閉じこもってきた。
その為にたまたま見つけた1000ピースのジグゾーパズルが欲しい、とジェスチャーで強請った
どんな手を使ったのか分からないけど両親と兄を喪って精神を病んで入院している子供。
そして姫湖ではなく雪乃という名前にも驚いた。
おかげで雪乃と呼ばれて反応しやすくなったけど、それでも、油断をしちゃいけない

なのに。

赤井さんの姿をー 諸星大の姿をみた途端、私の中にいる姫湖ちゃんの心が騒めいてくる

「にぃ、にぃ?」
「ただいま、雪乃。食事を抜いて先生たちを困らせていると聞いて心配したぞ?」

霞んでいく視界の中でゆっくりと手を伸ばせば、力強い腕に引き込まれて抱き上げられた。

「(あい、た、かった)」

出ない言葉で赤井に抱き着けばわかってる、とばかりに背中を撫ぜられた。

「大丈夫だ。もう、”海外出張”はない。」

諸星は少女を抱き寄せたままソファに座るとそのまま優しく落ち着くのを待つ。

「土産が沢山、ある。」
「(お土産?)」
「海外出張先で、お前に似合いそうなワンピースや靴とか見つけてな。 つい衝動買いをしてきた。兄馬鹿と散々いわれたが、お前の好きな紅茶やチョコも沢山買ってきたぞ」

そう言って指の先をみれば海外旅行用のトランク。

きょとん、とした顔の少女を膝から下ろすとトランクを開けて買ってきた服をベッドの上に端から並べだす。
姫湖の家にあった服や靴も交じってる
甘いものは苦手なのに何故かロリポップだけは好きだったおじさんは家に100本差しをおいてあったし、軍の自分の部屋にも50本差しをおいてあったという。
の大きな箱にはリボンもかけてあり、そしてチョコの詰め合わせ。
紅茶の茶葉。

「どうだ?派手すぎない程度に可愛いのを選んだ積りだ」

(諸星太は雪乃の従兄。 大好きなにぃにぃ。)

雪乃は諸星に抱き付いた。

「おいおい。 どうした? 気にいらないのか?」

慌てた諸星に雪乃はぶんぶんと首を横にふると、アメリカの家にあった、服やら時計をを取り上げた。
(パパの好きなロリポップ。 パパが買ってくれたワンピース。 ママが買ってくれた靴。あーちゃんが買ってくれた時計、しーちゃんが買ってくれたバック)

諸星は苦笑する。

(やっぱり今はおじさん達の記憶が残るか…)

「にぃ、にぃ」
「ん?」

差し出されたのは土産に買ったリボンだけはずしたロリポップの大きな箱を抱えてる

「食べたいのか?」

そう問えばこくん、と頷く少女に諸星は苦笑した

「なら、組み立てるか」

諸星は箱を受け取る

(組み、たてる?)

きょとん、と目を丸くした少女の顔に満足して箱を開ければ大きな箱が二つあり、一つには店においてあるような球体が入っていて、それを置く台座まである。
そしてもう一つの箱にはびっしりと詰まったロリポップ

諸星は穴だらけの球体に付属の棒を差し込んで更に台に固定する。

「ほら雪乃 好きなのを好きなだけ差して見ろ。50本させるから楽しいぞ 箱の中は120本入ってるから、亡くなった穴にまた入れられるぞ」

(赤井さん… まさか、これ、どんな顔して買ったんだろう?)

あまり表情を崩さない―…どちらかといえばポーカーフェイスに近い赤井がソニプラのような場所で選んだんだろうか。

それを考えると今までの不安が解消されて可笑しくなった。
雪乃は笑って楽しそうにキャンディの色を分けると差していく。
イチゴにグレープ、レモン、コーラにオレンジ、ミルクに珈琲にチョコレート……

諸星は久しぶりに見る笑顔に頬を緩てロリポップをさしていく少女を見つめる。

正直パーティグッズ売り場なんて行った事がない。
笑顔になってくれそうなものを探してたら、10本指しのロリポップを見つけたのだ。
ガチャガチャみたくボールの中にキャンディが入ってて付属の玩具のコインを入れて回せばブラスチックのボールがでてくる、というのもあった。
けれど、姫湖はジョディや妹のようにゲームセンターには行かないしガチャガチャをしてるのをみた事もない。
ただ、10本刺しでは小さいに驚かせたりできないと迷っていたら、店員が大人数のパーティ用に50本差しのが倉庫にあると云ってくれたのだ

50本刺さったロリポップは中々見事で、壁際にある洋服箪笥の上に置いた。

「ここならとれるな? あまり食い過ぎて虫歯にするなよ?」
「(雪乃だった時はロリポップなんて食べなかった。でも姫湖ちゃんのパパは不思議とロリポップが好きだった。沢山残ってるアルバムには家族でロリポップを舐めているパパの写真があった。)」

雪乃はオレンジのロリポップを抜くと諸星に向って指を指す
「にぃにぃ、は」
「ー…」

行き成り指をさされて諸星は驚く。
正直甘いものは苦手だ。

姫湖の兄である聖は料理上手なおばさんのケーキを食べていた事もあり、好んでは買わないが出されれば食べるし嫌いでもない。

「そう、だな」

諸星がどれを選ぶのかじーっとみているような瞳を向けられていらないと云えずに無難な珈琲を選んだ。


「俺は珈琲が好きだから珈琲を貰うぞ。いいか?」

こくん、と頷く雪乃

「にぃにぃ」
「ん?」
「残して… おく。から」
「ぇ? お前… 声が」
「珈琲の、キャンディ。残しておく、から」
(違うの、赤井さん。 業とー… 話をしてないだけ。話そうと思えば…)

ふわり、と抱き締められた。

「久しぶりにお前の笑顔を見れただけで満足だったのに声も聴けた。」
(?)
「俺は、それだけでいい。今のお前は諸星雪乃で諸星大の従妹。お前の事をだれよりも可愛がっている兄馬鹿のにぃにぃだ。 病院で暫く一人にさせると云った時の不安そうな顔を、二度とさせたくない。」

(違う。離れた方がいいと、思った。でも、私の中にいる姫湖ちゃんは寂しがりやであーちゃんに会いたい、パパとママに会いたいと泣いている。しーちゃんに会いたいとないていた)

「しーちゃ…「にぃにぃ、だ。」
諸星は優しく窘めて指を唇に当てて止める。

「いったろ? 俺は諸星大。お前は諸星雪乃として暮らすんだと。毎日は会えないが、時間をみて必ず引き取るから。もう少し… 我慢してくれ。」

(赤井さん。 それでも貴方はこれから宮野明美の事を調べてー…もう行動範囲とか調べて、接近する計画を練っているかもしれない。 そうしたら、私は邪魔なだけ)

諸星は珈琲のロリポップの包み紙を開くと口に含む

「さ、洋服を片付けようか? ー… お昼を食べたら散歩に行こう。 明日はドライブに連れってやるぞ」
「ドライブ?」
「ここらは緑が多いからな。窓を全開にして30分位飛ばすと湖がある。 白鳥のボートがあるぞ? 乗りたくないか?」
「ボート?」
「ほら、MAPで調べてみたんだ。」

荷物の中にいれてある地図を見せる。

「ほらここが保養所だろ? ここからこうー… 湖があって、ペンション地帯だ。」
「……」
「分かるか?」

こくん、と頷く雪乃

「ここに来る時見てきたが、白鳥のモーターボート以外に普通のボートもあったぞ、 学生達は足で漕いで進むボートに乗って大はしゃぎをしていた。 何に乗りたい?」
「にぃにぃ、ボートこげる?」
「あぁ。勿論だ。ボートが良いなら日傘も持っていかないとな」
「うん」
「よし、決まりだ。 明日は朝から夜まで付き合ってやる。」

普通の兄妹のように。
兄が妹を護るように。

俺はこの子を護る。

「にぃにぃ、パズル、しよ?」
「あぁ。分かった先にやってろ。服をしまってから一緒にやってやる」
「約束?」
「大丈夫。今日から6日間、一緒にいてやる。夜も一緒だ。」
「ほんと?」
「その後は、また8日毎だ。いいな?」
「うん。」

パッと嬉しそうな顔を見せる少女の額にキスを落とした
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