Act-03 ピクニック
「ホラ、雪乃 あそこだ」
「わ・・あ」
諸星が刺した指をみて雪乃は瞳を輝かす。
池に浮かぶ、白やピンク等のパステルカラーに彩られたの白鳥のミニボート。
カップル用の2人と家族用の4名は白鳥で 普通の2名〜4名用のボートは白と青のストライプだ。
カヌーもあるが大学の名前が書かれている所から競技用の練習で使っているものだろう、と赤井は判断した
「にぃにぃ、ピンク! ピンクの白鳥がいい」
「了解…(ピンク、ね)」
はっきり言ってピンクなんてガラじゃないが、雪乃の頼みとなれば別だ。
シボレーの荷台には車椅子もおいてあるが、盗られたりしないようにきっちりと暗証番号付きのチェーンで止めてある。
「にぃにぃ、ラムネの旗が立ってる」
「ん? あぁ。 色々な味があるようだな。 車を停めたら買ってやる。」
「うん!」
動きやすいようにと選んだのはピンクのショートパンツに袖なしブラウスにピンクのパーカー。
サンダルは危ないので赤井が土産に買ってきたメッシュのサマーブーツ
そして女の子らしくウサギの形のポーチにサンバイザー
ー… 十分目立つと気づいた時は遅かった。
車を降りた途端、不特定多数の視線が雪乃に集中したのを赤井は感じた。
雪乃はきょとんとしているが赤井が傍にいなければ砂糖に集る蟻のように寄ってくるだろう。
赤井が雪乃を見つける男性軍を端から睨み付ければ、恐怖に気おされたように散って行き声をかける強者は居ない。
「ほら、雪乃 どのラムネがいいんだ?」
「んー… んー… ブルーベリーとイチゴ」
「2本も飲む気か」
「1本にぃにぃの」
「俺?」
「はんぶんこ、して?」
「ー… お前な、俺は甘いのが…。」
俺が甘いの苦手なのを知っているだろう、と言いかけてキラキラする瞳をみて、小さな溜息を吐くと、ジャケットから財布を取り出した。
「じゃあブルーベリーとイチゴを」
「はい。 妹さんかい? 学校はお休みかい?」
くすくすと笑いながら、ポンと、蓋をあけてまずは苺からと、苺味のラムネを雪乃に渡す
「冷たくて美味しい」
「そうかい?」
「正確には従妹なんですが産まれた時から面倒みてたので妹みたいなものです。 少し躰を壊して病み上がりなのでリハビリ代わりのピクニックに」
「あぁ、それで色が白いんだね。お兄さんは大変だ」
「それほどでも ー… あ、こら! 雪乃! 待て! 転ぶだろう!」
海辺に向ってさくさくと歩いていく雪乃をみて、ブルーベリー味のラムネの瓶を受け取ると慌てて後を追う
「ったく! ボートは逃げないから安心しろ 」
「でも、ピンクのボートが戻ってきそう」
「分かった分かった。」
諸星はラムネを片手にボート乗り場の発券器の前で立ち止まると1時間のレンタル料金のボタンを押した。
ボートで日向ぼっこをして、降りたら屋台にでている焼きそばやイカ焼き、焼き玉蜀黍を買って観光客用のテントで食べる
「美味しい!」
(海の家で焼きそばやイカ焼きなんて懐かしい。大人になったら遠慮しがちだけど、この姿なら強請っても可笑しくない。小さな頃、お祖父様が連れて行ってくれた縁日ー… 綿あめに林檎飴にソース煎餅。 この世界にもあるのだろうか)
「そうか? まぁ、遊んだ後や外で食べるのは雰囲気的なものがあるからな」
子供は味の濃いものや甘い物。駄菓子やジャンクフードが好きで当然。
「ほら、ソースが唇の端についてる。気を付けろ」
「ん。」
「食べ終わったらもう一つ先のエリアに行こうか」
「先の?」
もぐもぐ、と玉蜀黍を頬張る雪乃
「この先はずっとキャンプ場で釣りができるんだ。釣った魚をその場で塩焼きにしてくれると案内があった。 傍にあるログハウスを2日間借りたから今日と明日はそこでお泊りだ」
「帰らなくて、いいの?」
「勿論、先生たちには許可を取ってある。 たっぷり遊んでこいとのお言葉だ。ちゃーんと着替えも車にあるぞ」
「うん!」
満面の笑みを見せる雪乃の諸星も頬を緩ませる。
(赤井さん。 赤井さんは本当に姫湖ちゃんが大切なんだ。 これから始まる、宮野明美さんとの接触と潜入とー…。 その危険の中で、姫湖ちゃんをつれて日本に行く判断をした程に)
チリ、と胸の奥が痛んだ。
「雪乃?」
黙り込んだ少女を覗き込む
「どうした? 久しぶりに外に出て、疲れたか?」
「…にぃにぃ」
ぎゅっ としがみ付いてくる。
「おいおい、どうした? 今日は随分と甘えたさんだな?」
「どこにも、いかない?」
「ぇ?」
「にぃにぃは、何処にもいかない?」
「雪乃?」
「おいて、いかれるのは、嫌」
「あぁ… 大丈夫だ。にぃにぃはお前のものだからな。」
諸星は玉蜀黍の芯やら焼き蕎麦の紙皿をゴミ箱に捨てるとウェットティッシュで手を拭いて、少女を抱き上げる
周りの観光客は年の離れた妹を溺愛している兄と思うだろう。
諸星はぎゅっと抱き着いてくる少女の温盛を感じながら駐車場に向った。
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