Act-04 希望
「ね、見て見て! あそこ!」
「え?」
「ホラ、今ラムネ買った長身の、オトコよ! オ・ト・コ」
「オトコって、もお!」
「一寸素敵だったんだよ!」
「そぉ?」
「もぉ! 妹さん、かな? すっごく可愛い子が一緒で、今、ボートの方に向ってる」
「ボート?」

そう言われて大人しそうな顔立ちの女性が目を向ける。

「一寸寝不足っぽい顔してたよね」
「でもイケメン」
「あーんなカレシいたら自慢だよねー」
「そう?」
「あーもお! どーしてアンタはそう奥手なの! ハーフなんだからもっと自信もちなってば!」
「ハーフ、っていっても私は父親似で外見は日本人だから。美人っていうなら離れて暮らしてる妹の方よ。 母親似で髪の色の綺麗な赤茶で目の色も黒じゃないし。頭もいいから大学も卒業しちゃったし」
「はぁー… 確かに明美の妹が美人っていうのはしってるけどさ、あんただって10人並に可愛いのに」
「可愛い? 私が?」
「うん」
「そんな事」
「だ・か・ら! 大学生になっても恋人ができないのよ!アンタ位よ、仲間内でまだ未経験なの」
「みっ 未経験だなんてっ もう」

ボンっと頬を染める明美、と呼ばれた女性。

「でもさー。イケメンの彼氏は欲しいけど、あーんな可愛い妹が居ちゃ、あとが大変じゃない?」
「あー、そうそう! もぉ、可愛くてしょーがないって感じだったよね」
「うんうん。男どもが涎出しそうな感じだったけど、お兄さんが睨み付けたらスゴスゴ去っていったよね」
「うん」
「あの子さー。カレシとかできてもお兄さんにまだはやい、とか言われて恋人作れないかもよ」
「あ、そうそう! そんな感じ。」

(カレシ、か)

明美はピンクのボートに乗っている、男と、楽しそうに笑う少女のカップルを見つめる。
男性は少女にラムネを持たせてピンクのスワンを漕いで陸から離れている。

「ピンクってのはやっぱ妹ちゃんのリクかなぁ?」
「じゃない? ドライブはありでも男同士でスワンボートってのはまず無いし。男だったら、もー少し先の釣り場じゃない?」
「釣り場までボーイハントなんて魚臭くなるよねぇ」
「いいじゃん! 大学生活も今年一杯なんだから! 今のうちに楽しまなきゃ!会社員になったら男遊びなんて出来なくなっちゃう」
「そーね! 今年こそ明美に男、みつけるわよー!!」
「おー!」
「ちょっ! ちょっと!! もう!」

友人たちの言葉に明美は頬を染める

(恋人なんて作ったら、相手に迷惑が掛かる。それに、私には、どこかで組織の監視の目が光ってるー…)

だれがどこで監視してるのか、明美には分からない。 けれど、旅行に行く場合、それが例え1日であっても行先を届けなければ折檻が待っている。
友人たちは未経験だと思っているが、綺麗な躰ではないのだ。

もし、ボートに乗っているようなカレシができたら、そのカレシにも監視が付く。
当然、一緒に暮らしている妹さんにも監視が付く。
そうなれば先方の家族に迷惑をかけてしまうのだ。

妹はアシスタントを持つ程組織の中でもトップレベルの研究者。
小さな事から頭脳明晰で組織の費用で留学をして衣食住には全く困る事が無かった。
コードネームを貰ってからセキュリティの高いマンションで空き家となってる2LDKの中から好みの物件を選んで与えられた。
トップレベルの幹部に相応しく家賃と水道光熱費は組織持ちの待遇だ。

反対になんのとりえもない自分は高校卒業までは養父母の元で生活をしたが大学進学を機会に寮生活を選び、バイトをして少しずつ貯金を溜めている日々だ。
養父母は組織の人間としては優しく、大学進学の費用も出してくれて、明美名義で毎月少しづつ貯めてくれていた貯金通帳を寮に行くのを決めた前日にくれたが、明らかにほっとしていた。

(それでも、いつかは)

明美は思う。

強くて優しい男の人と出会いたい。

自分と妹を黒い世界から助け出してくれる人

そんな人と出会いたいー…
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