Act-09 爆弾投下
銀座に有る10階建ての大手老舗楽器店。
地下は子ども向けキッズアニメや特撮とTVドラマ、1階と2階は売れ筋アイドルのCDとDVD、3階はクラシックやオペラ、落語等、4階5階は楽譜と楽器、6階は貸出イベントスペースと、3才〜6才迄のキッズ体験クラスがあり、今は有名だが、デビューしたての新人の頃、イベントをしたアイドルの写真や直筆サインが沢山飾られている。
国内メーカーのアップライトのピアノとギター、バイオリンが置かれ、お試ししたい人は誰でも引ける為、子供達や壮年になり退職した人達が新しい趣味を探すために社員にアドバイスを受けながら爪弾く事も有る。
7階8階は完全防音の音楽教室があるが、この階は音楽教室の生徒と、迎えに来た家族以外は入れない。
9階10階は社員たちの業務室と休憩室だが屋上は夏になると5時半から9時の間、ビアガーデンになり一般にも開放され、楽器店の社員や生徒たちが賑やかな音楽を生演奏を飾る。(社員の結婚式の2次会の会場として使う場合もあるがその場合は会場費は無償で、料理とは自分たちで持ち込む事と、片づけはきっちりとするのが規約だ)
ピアノにギター等の弦楽器、ハープ、フルート等の管楽器、声楽と琴に三味線もある。
大手の音楽院と提携してるので、近隣の子供達を対象としたキッズの週1回30分を3回合同クラスと夏休みや冬休みに遠方から体験したいと申し込みが入るキッズ60分1回合同クラスは、先生1人と、音楽院の専科の学生がアシスアントでボランティアで遊びを交えて教えるので口コミで有名になってとても人気だ。
専科の学生も週末や夏休みにキッズクラスの交通費支給のみのボランティアをする代わりに空いてる時間でレッスン室を無償で借りれるのと楽譜や弦やピック等の割引特典が貰えてる上に結婚式場での生演奏のバイトやコンサートホールでのバイトなど優先的に紹介して貰える。
ちょっとの技術で子供達に尊敬されたりとで登録メンバーに不自由は無い。
一流と言われるピアニストやギタリスト達が、後進を育てる為にお忍びで来る事も有り、音楽スクールもとても人気だ。
1階に飾られているスタインウェイとヤマハのグランドピアノは発表会やコンクールが間近になるとロープが外され、演奏会さながらで客の居るなかでレッスンをして度胸も養う
キラキラとした旋律はコンクールに出る生徒達が醸し出す。
ピアノとヴァイオリンのデュエット。
日本と海外のグランドピアノで奏でる連弾。
演奏中はビルに流れている有線が止まる為、生徒達は真剣で、譜面を捲る教師も真剣。
小さな子や初めてコンクールに出る生徒はビクビクして突っ掛かるが演奏後は観客は惜しみ無い拍手を贈る。
退院した雪乃も例外ではない。
ゆっくりと過ごせばいいと言われたが、アメリカンスクールの編入試験で高得点を出して、冬休み開けから登校していたが、週1回、学校帰りに英会話の学校に通い、ピアノスクールに通う。
図書館で英語の小説を借りて読む。
夜が遅い諸星の為にサラダや暖めるだけのおかずを作る。
朝御飯にお弁当を作る。
些細な事だが、春日の家では勉強ばかり、留学してから覚えた料理は、恋人であったアーチの親がせっせと作ってくれて、これがまた美味しかったものだから暇見て教えて貰ったものの作る機会がなかった。
諸星と二人で暮らし出した当初は、大が何時も作ってくれた。
偶々緊急会議で外で食べてこいとラインが入り、ならば、と思い出しつつ作ったら、頬を緩めて喜んでくれたので、色々作るようになった。
残念ながら和食は苦手で、肉料理は作れるが食べれられ無いという日が続いて居る。
料理の本を買い、作りたい物を選び、材料を買い、エプロンをしてにぃにぃと二人でキッチンに立つ。
ピアノ教室と英会話の教室がある日は迎えに来てくれて外食する事もある。
そして数ヶ月もせずに、コンクールではないが、楽器店主催のイベントで弾いて見ないかと打診された。
「にぃにぃ、どうしよう?」
「お前はどうしたいんだ? 中学生のバイトは感心しないが楽器店のチャリティーイベントだから学校に聞いてもNGは出ないだろ? 出るのはお前だけじゃ無いし。関係者外の写真撮影と演奏中の写真撮影もNGとなっている。期間も春休み中だから問題もない。」
楽器店が配布した、生徒達への参加者募集の広告。
楽器店所属の生徒達による演奏会が1時間あり、プロの演奏会もある。
プロのピアニストとヴァイオリニストによるコンサート。
プロの伴奏にあわせて子供達の合唱。
一般募集のピアノとバイオリン体験。
スケジュールによってはマジックタイムやピエロの演奏もあるらしい。
「まぁ、4月の新年度生徒募集の広告イベントもあると思うが」
「でも」
名前を変えて居る立場上、目立っては駄目なんじゃ無いかと不安がよぎる。
「雪乃」
「?」
「あまり気を遣うな」
「でも」
「此処では、俺は両親を無くして、父親の姉である諸星のおばさんに引き取られた養子だ。」
諸星は雪乃を抱き締める
「お前は飛行機事故で助かった数少ない生き残り。 」
「うん。 にぃにぃ、大好き (赤井さんー…… 何時か、この身体を、姫湖ちゃんに返す迄は)」
「俺もだ。 俺のお姫様。 お前が幸せに為るのを見届けるのが俺の役目」
(穏やかで優しい日々をお前に)
大は願う
(彼女の行動パターンは掴んだ。4月から彼女は銀行で働き出す。 1DKのマンションを借りた。)
宮野明美は裕福とはいえないがそれなりに頑張って、高校と大学時代のバイト貯金で免許を録り、車を買った。
車の頭金は、マンションを借りるための保証人を頼まれた養父母だ。
それを思えば赤井秀一も、諸星大も、充分恵まれた生活なのだ。
瑞樹姫湖も諸星雪乃も生活に困らないだけの保証が有る。
隠れ過ぎては反対に疑われる。
「参加希望の生徒は何を弾きたいか次のレッスンまでに提出、となってるな。 ドビュッシーとかビバルディ、バッハとか、ラフマニノフとかの楽譜ならあったな。 シューベルトとかどうだ?」
大は立ち上がると居間の本棚に置いて有る、楽譜専用のスペースからごそり、と譜面の束を取り出した。
雪乃は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、こてん、と首を傾げる。
「教室の先生がな、個人レッスンにして週3位なら教えに行きたい程覚えが良い、と誉めていたから色々買ってみたんだ。 俺も学校やスクール以外でお前がピアノを弾く姿を見たいしなー…… ほら、選べ」
机の上に置かれた譜面の山。
「に、にぃにぃ?」
「先生に奨められた楽譜だ。選べないから出された物とコンサートで良く聞く曲のを買っておいた」
「ー… もう。」
雪乃は呆れてクスクス笑いながら楽譜を見る。
ムスログスキーの展覧会の絵、ホルストの惑星、シューベルトの野薔薇に、モーツァルトの魔王にフランク・シナトラのマイ・ウェイ………
何を基準にしたのかわからない。
「これー…」
「ん? ビゼーのカルメン? 確かに耳慣れしてる曲だな。これで申し込むか?」
「これを、にぃにぃのギターとデュエットしたい」
「は!?」
雪乃の爆弾投下発言に大は手にした譜面を床に落とした。
「にぃにぃ、ギター弾けるでしょ? 音楽経験のある御家族との連弾がしたければ、当音楽スクールの生徒と参加に場合に限り考慮しますって!」
「し、しかしだな―… 俺のは趣味程度でそれこそ―… ここだけの話、聖さんに教えて貰った程度で」
「―… にぃにぃと一緒なら出るって、先生に言うもん!」
「勘弁してくれ―…」
言い出したのが自分とはいえ、思わぬ言葉に大は宙を仰いで溜息を吐いた
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