Act-03 混乱
ストレッチャーに乗せられる姫湖。
「赤井君は、姫湖ちゃんと病院に行きなさい」
「ジェイムズ?」
「姫湖ちゃんが意識を取り戻した時、君がいた方が良いだろう?」
「ですが…」
「瑞樹君達には私達が付き添う。彼等は、姫湖ちゃんの無事を祈ってる筈だ。 それに国防総省も動くだろう。瑞樹准将は軍の要。恨まれる事も多かった筈。」
「ー……」
「聖さんー…… おじさん、おばさんー……」
第2の家族のように愛した人達の最後に、赤井は拳を固く握り締めて目を閉じる。
「赤井さんっ!」
救命士が声を掛ける
「行かないなら出ます! どうしますか?」
「―…… 今 行く!」
赤井は、手を後ろ手にされている5名ほどの男を睨み付け、容赦無い殺気を示して、救急車に乗り込む
「―…… っ?」
俺の殺気を感じ取ってしまったのか、意識の無い姫湖が小さく呻く。
「っと! ―…… すまない。 怖がらせたな……」
赤井は殺気を納めて姫湖の側に座り込むと一回り小さい手を握り締める。
「大丈夫。 俺が居る。 もう、怖い事は無い。」
「ぅ…… ち が ……」
「姫湖? 何が違う?」
「ひめこ じゃ …… な い」
「え?」
聞き直す赤井に浅い息の中でいう
「ー…… 混乱しているんですよ。 自分が姫湖ちゃんじゃないと思うことで、忘れようとしているんです」
「あぁ そういう事か 」
赤井が、納得したかのように頷く。
恐怖から逃げる為に。
「ココ は ドコ?」
「!」
「アナタ は ダレ……?」
「姫湖! おい? お前、何を」
「助け どこ? ……嫌 来ない で 」
「大丈夫。ー…… 大丈夫だから ね?」
救命士が細い腕に注射器を立てる。
「いや ……!」
疲れて動かない筈の躰が逃げる
「姫湖」
赤井は覆い被さる様に抱き締める。
「忘れろ」
「?」
「忘れてしまえ。嫌な事は」
「―……」
「俺が、守ってやる」
「ま ……も る?」
「そうだ、聖さんの替わり、おじさんの替わりに、俺が、守ってやる」
「あ あき ら……? だあれ?」
「聖さんは、お前の兄さんだろう? お前を、目の中に入れて持ってても痛くない程、可愛いがって―……?!」
赤井はいいかけて黙り混む。
「まさか 姫湖、姫?? 記憶が? 混乱してるだけか?」
「赤井さん。 今は 」
救命士が顔を横に振って嗜める
「一次的な混乱かもしれません。 結論は病院で検査をしてからです。」
「そうだな」
赤井は目を閉じた姫湖を見つめる。
「精神科の女医に連絡するように依頼します。 婦人科も女医の方がいいですね」
「そうだな、頼む」
安定剤でぐったりとなった姫湖に酸素吸入器を取り付ける救命士。
救急車は真直ぐにFBI関係の病院に向かう。
赤井は姫湖が、混乱しているだけだと思いたかった。
けれど、11歳になったばかりの少女に起った事を思えば忘れてしまった方がいいのかもしれない……
そうも思った。
「犯人は…… もし、主犯がいたら…… 必ず捕まえる。 ペンタゴンの幹部と、FBI捜査官を殺したんだ。 USAが黙ってはいない。」
赤井は冷たくなっていく姫湖の頬を温めるようにさする。
(姫湖……)
病院に付けば、待機していた医師達がストレッチャーを治療室に運び込む。
「家で一度呼吸が止まって……」
救命士が医師に説明をする。
「―…… 赤井さん。」
「はい?」
「―…… 少し、休憩室で休んでて下さい。 貴方も酷い顔色です。何なら点滴でもしますか?」
「出来れば俺は姫湖の傍に……」
「治療には時間が掛かります。……治療が終わったら赤井さんが寝ていても叩き起こしますから。それに、子供とはいえ、女の子ですよ?」
「あ……」
医師の言葉に赤井は黙り混む
「―……分かりました。 珈琲を貰っても?」
「勿論どうぞ。 フリー・ドリンクです」
「……姫湖を、頼みます」
「はい……! 預ります」
ペコリ、と頭を下げた赤井に医師は頷く。
捜査官である赤井にできる事はない。
赤井は治療室前の休憩室に入ると、フリードリンクの珈琲をいれ、ソファに座ると、一息に飲み干して目をつぶった。
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