Act-04 家族
(俺の姫湖…… )

唇が切れる程に噛み締める。

(誰よりも愛しい、俺だけの天使……)

一回近くも年が離れた妹を、聖さんは掌中の珠の様に可愛がった。

周りが冷やかそうが関係無い。
クォーターだけあって、白い肌。
赤ん坊なのに整った顔立ちは、美人なおばさんに似たらしく、先々の不安要素をどう排除するか、まだ赤ん坊の姫湖の写真を見て本気で悩んでいた。

俺にも一回り年下の妹が居るから分かる事だが、体力だけが取り柄だとしても、可愛いことには変わりがない。

瑞樹の血をひくと頭も良いのか、何時も学年トップを飾っていたが、音楽的才能のに飛び抜けて良く、3つ4つの頃から難しい曲を…… といっても、手が小さくて届かない和音もあったが、弾きこなしていた。
おじさんと聖さんに截拳道の基礎を習った為に身体能力も普通以上だったが、何時も間にやらピアノに夢中になってた。
此で目立たないほうがおかしい。
反対に俺の妹は、やんちゃが過ぎて、成績はまぁそこそこだったが、硝子は割るわ、喧嘩はするわで、何時も先生方に怒られていたので、物を壊すなと、何時も注意を受けていた記憶が多い。

そして、妹の方が、姫湖にちょっかいを出しすぎて、(仲良くなって姫湖の王子様に為りたいというのが理由だったと聞いて怒ればいいのか笑えばいいのかわからなかったが) あやうく登校拒否の直前までいき、親兄妹ともども呼び出し食らって厳重注意を食らったほどだ。
幸い、飛び級の話もでていたので、元々頭の良かった姫湖の学年を上げる事で妹の方も大事にならず事なきを得たが。
それ以降、真純の事をとことん無視するようになった姫湖。
何度か仲をとりなおそうとしたが、暖簾に腕押しという奴で、この件に関しては、返事すらしてもらえない儘だ。

「言っとくが、俺は手助けしないからな。秀一が姫湖と交渉するのは止めないが」

聖さんはあっさりとそう言った。

「秀一の妹だろうが、父さんの部下の息子だろうが、姫湖に近づく奴らは全力で排除すると言っただろう」
「聖さん……  真純も十分懲りてますからせめて、謝らせる位は」
「姫湖が許す気になるまで諦めろ」
「はぁ……」

姫湖に関しては妥協点の無い聖さんだったが、仕事には一向に支障はなかった。

姫湖は変わらずピアノに夢中で、発表会の都度、好成績を残していたが、困った事にピアニストになりたい訳でもなく、”ピアノが好き”というだけ。

「姫湖、ピアニストになるよりもにぃにぃのお嫁さんになりたい。」

久しぶりにおじさんに截拳道の稽古をみっちりと付けて貰って―……瑞樹の家には裏庭に防音設備の整った小さな球技室があり、おじさんと聖さんはタイミングがあればそこで截拳道の練習をして、おばさんは姫湖と一緒にエクササイズをしていた―……で打ち身だらけになったあと、夕食に呼ばれた時の可愛い言葉。

「姫湖はにぃにぃのお嫁さんになりたいの?」

あらあら、と自慢の料理をテーブルの上に並べながら苦笑するおばさん。

「うん!」
「姫湖、パパは? パパのお嫁さんになってくれないのか?」
「パパはママと結婚してるでしょ? 結婚してる人とはできないわ。 ”ふりん”になっちゃう」
「「……っ 不倫って……!」」

水を飲もうとして拭きそうになる兄と、ビールを喉に詰まらせてげほげほと咳き込む父親。

「あーちゃん、大丈夫? パパもどうしたの?」
「姫……? ”不倫”って意味わかって言ってるのか?」
「えーっと、結婚してる夫婦と一緒に結婚してない女の人が一緒に暮らすこと。」
「姫湖…… それは不倫じゃな……「いうな、秀一」」

にこにこ笑って答える姫湖をみて頭を押さえるおじさんとくすくす笑うおばさん。
説明しようとした赤井を遮る聖
意味も分からず言っているから性質が悪い。

「じゃあ、秀一はどうだ? 秀一の事は嫌いか?」
「しーちゃんは大好き。でも真純がいじめるから結婚出来ないわ。 知ってる? 同じ年頃の義理の妹って家庭不和の原因になるんだって、この間、サーシヤが言ってたわ。 大好きなお兄さんを奪ったのが同じ年の女性だったら、その女性をいじめるのが小姑なんてすって」
「―……姫湖 それも一寸違うぞ……」

ませた云い方でしかも妙な勘違いをしているのは女の子同士の会話でTVドラマからでも仕入れたのだろうか。
僕っこで男友達しかいないやんちゃすぎの妹とは違う夢多き少女の言葉。

「真純の所為で姫湖にフラれた……」
「ごめんね、しーちゃん。結婚してあげれなくて。姫湖、不幸になりたくないの。 それにね、あーちゃんは姫湖をいじめないもん」
「いや、兄妹でも結婚できないんだが」
「えー? だって歴史上は兄妹で結婚してる人いるもーん」

けろっとして笑う姫湖。

「よし! じゃあ、姫湖がピアノコンクールで優勝して大学を卒業するまで好きな人が出来なかったら結婚しようか?」
「優勝して、大学を卒業しておっきくなったらお嫁さんになれるの?」
「ああ! ちゃーんと指輪を買ってやる。それで母さんみたいに料理が上手だったら文句なしだ」
「なら姫湖、絶対優勝する!! ママにお料理習って作ってあげる! あーちゃん大好き! しーちゃんの事は、結婚式に呼んであげる。花嫁のブーケあげるから待っててね」
「ゴホっ!」
「姫湖、花嫁のブーケは未婚の女性友達にあげるものだ」

吹き出しかけた赤井の背中を叩く父親。

「あ! ガータートスやりたい! ミリーの上のお兄さんが結婚する時にガータートスやったんだって! パッチンって外すの、ダーリンがやるんだって」
「グっ・・ ゲホ。」
「あらま、聖まで」
「させないぞ! ガータートスなんて! 可愛い姫湖の足を不特定多数の人目に晒せるか!」
「それに関しては同感だ」

そんな会話をして笑ってた優しい家族。

「姫湖……」

子供相手の約束事。
大きくなったら、姫湖はとても綺麗になる。
そうしたら沢山の男友達もできるだろう。
すでのその片鱗は、出始めていた。

「俺が認める男じゃなきゃ姫湖との付き合いなんて認めないぞ。」
「はいはい、解ってますよ。俺だって妹がいますからね。」

聖は俺と仕事で調査をしてる時、大真面目にそう言った。

「ー…… だが…… そうだな。 俺に万一の事があったら、その時は秀一、姫湖を頼む。」
「聖さん! 縁起でもない事を」
「ああ…… それでもな。姫湖は”しーちゃん”が好きだし、懐いているからな。 父さんだってそうだ。 国防総省の准将なんて地位にいるが、今、手懸けているのは注意の上に注意を重ねても危険な事だと云っていた。」
「……分かった。万一の時は姫湖の後見人になってやる。 成人して一人立ちしてからも、生涯の伴侶を見つけるまで」
「……頼んだよ 秀……」
「ああ……」


あの時の会話。

冗談だと思っていたが、法律的に後見人になる手続きをすると呼び出された時には本当に驚いた。

おじさんもおばさんも聖さんも…… 本気で、姫湖の事だけを案じていた。


俺は…… どうすればいい……


あの手続きからまだ…… 1年も経っていない……

彼等は……

今日という悪夢が来る日を知っていたのか……?

幾ら考えても、俺には分からなかった。
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