Act-08 邂逅
「きゃあっ!?」
「明美っ!?」

バサバサバサっと頭上を大きな鷹が横切って二人の長い黒髪を爪でひっかけていった。

「大丈夫か、明美!? うわっ!?」

バサバサバサ、と羽音を立てて戻ってくる鷹。

「な、何!? 鷹!?」
「どうみても鷹だな。 どいてろ、直ぐ追い払っ ー!?」

追い払ってやる、と、常備している銃を取り出して弾を抜き、空砲で驚かして追い払おうとした髪の長い男は、飼われている鷹だというマークの足環があるのに目を止める。

「足環?」

男が空砲で威嚇射を躊躇った時、ピィイイイ、と鋭い呼び笛が耳に響いた。

二人の上空スレスレを飛んだ鷹は、バサバサと羽音を立ててその音の方に向かって戻る。

鷹の向かう方向には美少女、といっても過言ではない少女。
右腕と右肩に革のバンドをしている所をみると飼い主なのだろう。
鷹は少女の上でスピードを緩めてゆっくりと旋回すると宙に差し出された腕に止まる。
そして肩に移り、顔を摺り寄せるようにビービーと啼く。

「もう! オイタをしちゃ駄目じゃない。 低能の構成員を揶揄っても嘴や爪が穢れるだけで自慢にはならないわよ?」

鷹は飼い主の言葉を理解したかのようにグルグルと啼く。

「イイコね。もうオイタは駄目よ?」

細い指で鷹の首から背を撫ぜれば、鷹は気持ちよさそうに飼い主の肩で首筋に顔を摺り寄せる。

「―…… 低能、だと?」
「あら、聞こえたの?」
「聞こえるように言ったように思えたが」
「だって、アナタ方が入ろうとしている場所はAプラス評価でコードネームが内定しているメンバーしか入れないエリアよ?」
「それは…」

女性の方が黙り込む。

「規則を忘れたの? たとえ恋人やパートナーを組んでいたとしても、どちらかがAプラスにコードネームを持っていても、持ってない方は入った時点で捕まっても文句は言えない筈よ。連れ込んだ方も責任を取らされる場合があるわ」
「…… 君には捕まえる権利が有るのか?」
「私は7歳のレベル判定でAプラスをとっくに取得しているの。コードネームも内定してるわ。 あ、レディ!  こら、くすぐったいからやめなさいってば。 ん、もう‥ お腹でも空いたの? さっき沢山あげたじゃない。」

少女は鷹に首筋に顔を摺り寄せられて愛らしい笑みを見せる。

「君の名は?」
「人に名前を聞く時は自分から先い名乗るのが礼儀じゃなくて?」
「私は宮野明美」
「俺は諸星大」
「宮野明美に諸星大?  諸星―… あぁ、貴方が、志保の姉をたぶらかして組織に入った噂の狙撃手と志保の姉ね。」
「たぶらかすって、そんな言い方!」
「宮野明美は、あの、宮野博士夫婦の娘で有りながら飛び級も出来なかった役立たずのEランクと聞いてるわ。13で大学の博士号を取得して組織の天才科学者として薬学の研究チームで活躍中の妹と親の七光りで”飼われて”いるだけ。 諸星大とは交通事故の被害者と加害者。」
「妹と親の七光?」
「違うというなら、お前達の自分所属とランクを言ってごらんなさい。Aプラスの評価があって、コードネームがあるなら、ね?」
「所属は… ないわ。ランクは… E」
「お前は?」

くい、と諸星の方を見る少女

「ランクはC。属にいう迎撃部隊。狙撃部体ともいわれているが。 時期にB評価にあがれるだろうと上にはいわれているが、コードネームはまだ未定だ」

その返事に少女はくすっと口角を上げる

「能力がない構成員はGですものね。宮野明美が処分されないのは、その躰に宮野エレーナのDNAを持っていて、遺伝子学の研究対象として使えるからE評価を貰っているだけ。 本来ならばFランクよ。役ただずの下っ端は言葉使いに気を付ける事ね。」

明美は黙り込む。

「事故で知り合ったとはいえ、外部の諸星大が組織に入るにはBランク以上の紹介者が居ないと入れない。 志保がお姉ちゃんから諸星大を本部に推薦する紹介状を書いて欲しいと連日頼み込まれて五月蝿いって愚痴ってたわ。仕方ないから本部に紹介したけれど、月に一度の姉妹ごっこは面倒だって言ってたわね」
「五月蝿い? 姉妹ごっご? って…… 志保を知らない癖によくもそんな事を!」

羽音がして、ピィイと鷹が声を荒げた明美を威嚇するように頬をかすめるように飛ぶ。

「きゃっ!」
「明美!」

諸星が明美を庇うように引き寄せる

「立場を弁えなさい? 私はお前のように役立たずではないの。専用の研究室もアシスタントも持ってるの。」
「子供なのに研究室を、持っている…」

その言葉に少女は黒曜石の瞳を鈍く光らせる

「最も予想に反して諸星大の射撃の腕はよいそうね。 宮野明美のレベルには勿体ないって噂を聞いたわ。期待の新人、ですってね」
「随分な言い方だな? 君の両親は年上に対する言葉使いや態度を教えなかったのか?」
「お父様は殺されたわ。」
「殺された? 組織を裏切りでもしたのか?」
「まさか! お父様は組織を裏切るなんてしないわ。 外の世界では天才外科医として有名だったのよ? 世界中の名立たるセレブを顧客に持ってた。その中には有名女優に歌手、大物政治家や財閥オーナーに至るまで、お父様の治療を待っている人たちがいたのよ?」
「すまない。 悪い事を聞いた」

諸星は黙り込む。

「最も、お母様を裏切り者、というのであれば間違ってないわね。 顔も覚えていないけど、お母様は私が産まれて2ケ月位で組織から逃げようとして、事故にあって死んだとか。 最も私を産むから鬱気味で、でも私を身籠ってたから薬が飲めずに正常じゃなかったから、混乱していたかも知れないとお父様から聞いた事があるわ。役立たずの日本警察は権力に屈して、犯人を捕まえる事も出来ない上に事情聴取すらも出来ない低能揃い。」
「ー…… 君の名は? 俺達だけ名乗らせて言わないつもりか」
「あぁ! そうだったわね。 私は有間巳恩。 さっき宮野明美を揶揄ったのは私の鷹のレディよ。」
「レディ」
「半年程前に乗馬をしてる時に偶然3羽程、巣から落ちてる可愛い雛を拾ったの。 鷹とは知らずにね。親は猟師にでも撃たれたみたいで雛を護ろうとして近くで死んでいたからすぐに鷹の雛だとわかったけど。 2羽は羽を痛めてみたいで3日程で死んでしまったけど、この子は元気に育ってくれて、鷹匠を雇って調教させたのよ。 だから命を奪うような攻撃はしないわ。 さっきのようにオイタはするけど」

(有間巳恩… だと?)

「まさか、君のお父さんは有間厳医学博士か?」
「あら、知ってるの?」
「世界的権威の天才外科医。 6年程程前に無くなった事は知っているが」
「そうよ。 私はその一人娘。」

(あの、小さかった、保育器に入っていた巳恩!? 厳兄さんとルナ姉さんの娘!?)

諸星大と名乗っている今はその事をいう事が出来ない。
脳裏に浮かぶのは保育器の中で必死に生き延びようとしていた赤子。
父親の厳兄さんが頬を緩ませて見せてくれて、恐る恐る保育器の中で小さな手に触ればその指先を無意識に動かして握ってきた。
未熟児で、生きる為に鼻と手にチューブを付けられていたものの、ぷにぷにとした柔らかい頬の温もりを感じた時は命の重みに泣きそうになった程だった。

「… 君は、ずっと日本にいたのか?」

感情を押し殺して聞く。

「まさか! 私はDr有間の娘よ? その娘が! 狭い日本の教育機関でだらだらと教育を受けるとでも思っていたの? 志保と同じで海外の教育機関に留学したのよ。 今は医学部の博士課程。 向こうで医師免許も取得したの。まだインターンシップだけど組織の御蔭で心臓移植の手術に何度か立ち会ったわ。盲腸程度ならいつでもできるわ」
「貴女が、志保のメールにあった友人の巳恩ちゃん、なの?」
「ええそうよ。もう分かっただろうけど毒舌家で自分よりレベル下の構成員も外部の構成員には礼儀の文字は無いけれど、頭脳明晰で私の大切な友人で、研究上のパートナーだわ」

明美の言葉に呆れたような声が重なった
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