Act-14 福玉
女が3人寄ればなんとやら。
舞妓2人のマシンガントークに巳恩は撃てば響く様に答えて笑う。
諸星には意味不明な医学薬学の専門家の発表をキラキラした瞳で飼料を見ながらメモを取り聞いていた、天才少女としての顔ではない。
自分や明美には見せない年相応の笑顔。
あんな細い身体の何処に入るのかという位に完食し、ー…… といっても味噌を使った料理には箸を付けず、味付けの濃い肉豆腐にも殆ど手を付けなかったが。
ハイヤーで鷹匠の家に行き、ー…… 勿論、土産を渡した後、別な小屋に分けられた夫候補の鷹をみて触り、何事かを話し込んだあと、巳恩は籠ごとレディを預ける。
俺にはどの鷹も同じ顔に見えるが、飼い主や鷹匠には違いが解るのだろう。
「いいこと? 鷹匠さんが選んでくれた子の中からお気に入りを見つけるのよ? 気に入らなければ違う彼氏を探してあげる。」
巳恩は優しく言い聞かすようにレディの頭を掻く。
グルグルと気持ちよさそうに目を瞑って頭を摺り寄せる鷹のレディ。
「レディは飼い主に似て美人さんで気が強いさかいなぁ。 すこぉし難しいかもしれまへんが候補は数羽おりますからな。レディと相性の会う壻はんがいたら番にして籠を大きくしておきます。 あと、寄生虫とか病気になってないかも診ておきます」
「お願いね。もし番にできたら、改めてうちのレディの壻として躾けて貰うわ。名前はデュークよ」
「貴婦人のお相手は公爵様ですか。 さぁて、どの子が姫のお気に入りに為るか楽しみどすな」
「ふふっ。レディ次第ね」
その後、追加デザートは別腹なのだと京都でも有名な和菓子喫茶に連れて来られて、入るまでに約1時間待ちと言われ諸星はげっそりと溜息を付いた。
大の男が2人で並んで女性連中は近くの八坂神社にお参りに行き、さらに八坂神社の近くにある観光客相手の焼き鳥屋で串焼きを買って二人に届けた後、飴で有名な店に向かった。
「ー…… はぁ」
諸星は今日、何度目に為るかわからない溜め息を吐きながら串焼きにかぶりつく。
「何や、待つのは不満そうやな? この店の1時間は短いほうやで」
「1時間、がですか」
「夏なんて、炎天下の中この店のかき氷が食べとうてならぶ観光客で長打の列や」
並ぶことを厭わずに女性群を見送った鈴乃屋の主人である藤代も串焼きにかぶり付きながら諸星に向かって笑う。
「まぁ、自分の役目はミス巳恩の護衛兼荷物持ちです。 それにしても、 ミス巳恩も舞妓達も、あれだけ食べてまだ胃に入るのかと感心します。それに此れからデザートと云いながら串焼き迄。デザートは別腹とはよくいったものです。」
「芸舞妓達を甘く見たらあかんで。 着物はー…… 特にあの舞妓の着物は凄く重くてな。 それに店に出てる間はジュースかお酒しか口を付けないのが鉄則や。 着付け前に確り食べて店に出る。 」
「重い?」
「舞妓の衣装は10キロ超す場合もあるんやで? 歌舞伎衣装になると20を超す場合もな。 その衣装で舞をして、客をもてなす。 それだけの体力が必要なんやで? 朝昼と早めの夕食をしっかり食べんと稽古も出来んし、舞も出けへん。 巳恩は味噌と納豆は嫌いやが、それはまぁ7年外国で暮らしていれば仕方ない事や。」
「海外の味になれた、という事ですか」
「スイスはチーズやチョコレートが有名や。うちらとつきあうようになってから、時々航空便で食べきれんほどぎょうさん送ってくれるから芸舞妓たちに振る舞うんやが、いつも取り合いなる位大人気やで。」
「そう、ですか」
「チーズは生徒達に振る舞う程入ってはおらんから、置屋の常連はんにすこぉし振る舞う程度や。けどな、どこのメーカーか教えて欲しいと聞かれる事もしばしばあって、スイスに留学している末っ子が送ってくれる地元のもんやと答えると日本では買えないのかと羨ましがるで。 流石チーズ大国と言われるだけの事はある。」
「末っ子扱いは嫌がりませんか? ―…(つまり、あの子は、藤代氏にはそれなりに敬意を払っているという事か)」
「さぁ、どうやろうな?」
藤代は口角を上げる
「黒澤はんがな、一人の時は昼夜抜く時もあるというてはった。 朝は食べるが、一端勉強や研究に夢中になると水分しか摂らんときもあるとな。 たまぁにあれだけ食べる位どうってことは無いはずや。なんせ育ち盛りや。もっと太ってもいい位やで」
「確かに今朝は果物のパンケーキとサラダに紅茶だったが、昼飯は人並み以上だったと思うが」
「朝は果物と野菜がメインでどちらかというと洋食派。米は滅多に食べないと言っておったな。まぁ、外国暮らしが長いと味覚も変わってくるのかもしれんなぁ。 最も厳はんが洋食派だったからその血なのかもしれないが」
「―… 随分とよくご存じですね。」
「殆どが黒澤はんからの受け売りや。 だが、黒澤はんもなぁ。もうすこぉし当たりが和らこうなるともっとイイ男になると思うんやが、言葉も少ない上に笑いもせぇへん。 セキュリティ関係の仕事で世界を飛び回っているさかい無理なんやろうけどな」
「セキュリティ? 財テクアドバイザーでなく?」
「巳恩から聞いてないんか? 黒澤氏は巳恩の父親の教え子の一人で、周りの子より覚えが速すぎて幼稚園にも行きたがらず、家に籠って勉強ばかりしていた巳恩の体力を付ける為に合気道を教えてたんや。財テクはセカンドビジネスのようなもんや。」
「合気道」
(飛行場で密輸班の一人に捕まった時、怯えもせずに見事に腕を捻じりあげて蹴り当て落としたのは合気道か)
「黒澤はんの趣味はクレー射撃とかで何度か一緒にさせてもろうたがそれはもう見事な腕前だったで。オリンピック選手並や。巳恩も黒澤のパパに習ったから連れていけ、と、喚いてなぁ。 前回来た時に連れっていたんやが、子供にしては中々の腕前やで。厳はんもクレー射撃は得意やったから、生きていれば親娘して楽しんでいたやろうなぁ」
「それは―… 是非見て見たかったです(そうだ。厳兄さんは射撃のライセンスを持っていた。だが、忙しくて ―…クレー射撃が精一杯の楽しみなのだと)」
(―… つまり、Drは―… 厳兄さんは、それなりの知識のある黒澤氏を教育係りの一人に選んでいた、という事か。クレー射撃、という事は狙撃手としの素質もあるという事か?)
諸伏は自分にはできない事をしてのけた藤代に軽い嫉妬を覚える。
「お家元!? ―…ま! さっきお名前と人数聞いたんは誰やの!? 藤代のお家元を並ばせるやなんて!」
カフェの入り口が近寄づいてくると客の人数を確認していた着物姿のメイドが驚いた声を出す。
「藤代のお家元やて!?」
バタバタと店の奥から店長らしい男が着流し姿で飛び出てくる。
「よぉ!」
気軽に手を上げる藤代。
「お家元なら入り口まで上がって一言声をかけて下されば宜しいものを! えろう申し訳無い事を。直ぐに何時ものお席をおつくりしますさかい―…」
「ははっ! 席なんぞ気にせんでええ。 今日はウチの末娘の御供やさかいな。 子供等はそこの八坂さんへお参り中や。あと10分もすれば姦しくなるで」
「ま! 巳恩お嬢はんが日本に戻ってきとるんですか?」
「京にいるのは数日で直ぐにスイスに戻ると云っておったがな」
「だったら尚更お声かけておくれやす」
「構わん構わん。 この列に並ぶのもまた醍醐味や。 それに子供達は腹ごなしにもなるやろうからな。 もっとも何時もの焼き鳥屋で串焼きとか買うてたが」
「しかし…」
「皆 行列して待っているんや。 私らだけ特別扱いはせんでええ。 それに、今日は話し相手もおるさかいな」
「はい。 ではもう少々お待ち下さい」
メイドが丁寧に頭を下げて店内に戻っていく。
「藤代さんはこの店の常連、ですか?」
「まぁ、確かにな。芸舞妓たちも贔屓にしておるのが多い店やで。」
「そうですか。」
「そう嫌そうにしておると、また巳恩にどやされるで」
藤代が苦笑する。
「先日から怒られ続けてます。 年下扱をして怒られてレディに突かれ、歌舞伎を知らないと呆れられ、まぁ、その他諸々。」
「レディに、か? それはご愁傷さまやったがあの子らしいなぁ。 年下扱いするとごっつう機嫌が悪くなる。 もっともそれなりに教養を身に付けているからしている事や。 舞妓達と仲良くできるのは自分が極めてない芸事の面で優れていると認めたからやで。 舞妓たちは巳恩のように沢山の言葉が喋れる訳でも、飛び級して大学卒をしてる訳じゃない。 精々英語や。 医学や歴史とかに詳しいわけでもない。 けど、舞やお琴、三味線、お茶や俳句なんぞを学園で叩き込まれる。」
「―… なる程。」
「仲良うなったのは、真奈が稽古中に貧血起こした時やったかな。 偶々同席していた巳恩が手当をしてくれて、大事に並んで済んだ。」
「ミス巳恩は医師を目指してますから」
「最も原因は寝る時間を惜しんで舞の稽古をしていた睡眠不足で後で大笑いのネタになっただけや。 けど、それから、お互い知らない事を教え合う事で友人関係が成り立って、あんな風に仲良くなったんや。 巳恩が色々な基礎的な言葉を教え、飲み過ぎた時とかの対処方とかをおしえ、舞妓たちは和歌やお茶、扇の持ち方とかを教えてな。」
「それで、ですか」
「巳恩は記憶力の良い子や。 諸星はんもな、あの子に教えられるだけの事があればそれを教えてみるとええ。 あの子が興味を持つものを、な」
「難しい問題です」
諸星は苦笑する。
「仕事ですから我慢して―…、荷物もちだと連れ出されましたが。 あの子の子供らしい笑顔を見れた事が収穫なのかもしれません」
「―… (あの子、やと? 血縁関係のない諸星はんは、あの子の事を知っておるんか?)」
ふっ…と奇妙な間が流れる
と、きゃあきゃあと賑やかな声がする。
「戻ってきおったな。放蕩娘ども」
「あ! おじ様、酷い。 ね、見て見て! 諸星! 京都の12月名物の福玉! 豆乃姉さんと春乃姉さんが7寸のサイズひとつづつ買ってくれたのよ! 私は6寸で良いって言ったのに大きいの買ってくれたの。あと祇園小石の本店限定飴と季節の飴、緑寿庵の金平糖も!」
「「ずるいんやわ! 巳恩ちゃんだけ!」」
両手に紅白の大きな玉をさげている巳恩
春佳と真奈は祇園小石と緑寿庵の袋を持っているだけだ、
「福玉? その、紅白の玉事か?」
「そうよ。お餅の生地でできて、中に2から3つの縁起物の置物とか可愛い小物、お菓子とかが入ってるの!」
「そうか…」
諸星はふっと目を細めて優しく笑う。
「舞妓さんたちはね、除夜の鐘がなるまで見てはいけないの。 東京まで壊さないにもって帰ってね!」
「自分が、ですか」
「当たり前でしょ! 諸星は護衛兼荷物持ちなんだから! 1個は志保へのお土産にするの! 志保と一緒に開けるんだから!」
「あ、ええなぁ。東京に戻ってすぐ開けるやなんて」
「春佳と真奈は末になったらあっちこっちの置屋さんから貰えますやろ? 我慢しぃや。」
「巳恩ちゃんはまた日本を発ってしまうさかいな。 それに福玉は縁起もんや。来年まで残しておく事もできないもんやからな。」
「ふふっ! ずーっと欲しかったんだ。コレ! でも、福玉は12月しか売り出さないから。しかも今日からの売り出しだったのよ」
「せやな。 12月にきたのは初めてやったな」
「なら、ずーっとこっちにいればいいのに。 時期にクリスマスやろ? 学校だってもうお休みやないの? 」
「ん〜〜 でも、瑞西で暮らす最後のクリスマスになるから。 それに、今年は独逸とウィーンでクリスマスから年始を過ごすの。パパがウィーンのオペラ座のチケットを予約してくれているのよ。今回は一緒に遊べないけどクリスマスは毎年一緒に居てくれるから。 まぁ―… パパの場合は会社に呼び戻される可能性もあるけどね」
「いいよねぇ〜〜」
「ウチらはクリスマスも年始もないもん」
「でも、置屋さんやご贔屓さんから福玉もお年玉も貰えるでしょ? 一度、お正月にお年玉をもらってみたい。黒澤のパパにいっても「欲しいのがあったら、勝手に買え」で、ブラックカード渡されて終了だもん」
「それもええなぁ」
「羨ましいわぁ」
「でも、つまらない」
「お年玉って、ミス巳恩は生活に不自由はない筈ですが」
「それとこれとは別よ。お年玉でアルマーニの服が買えるなんて思ってないけど、レディの止まり木とか餌位なら買えるかなって。 ささやかな夢よ」
「なら、来年は京都で年を越せるようするとええ。 そしたらもっとぎょうさんの福玉を貰えるし、お年玉もたんとやるで」
「ホント!? じゃあ、京都に行けるように仕事のスケジュールとか組んでもらわなきゃ」
「巳恩ちゃんの年で医者の卵になるやなんて凄いわぁ」
「ウチラが困った時は巳恩ちゃんに相談すればきっとええ病院を紹介して貰えるんやない?」
「そうねぇ。 病院の介位はいつでもするけど。でも、病気にならないようにする努力は必要よ。 検査だらけで薬を山ほど出すのは嫌いなんだから、私」
「医師を目指しているのに薬は嫌いか」
「薬そのものの効果を否定する訳じゃないわ。 最近の病院は儲けの為にあれだこれだと薬を出し過ぎだという事よ。 お父様の将来計画の中に自分の病院を作るというのが有るの。病院自体は形になって居るのよ。技術は最高のものを。薬はそれぞれ人に寄って違うけど、なるべく躰に負担の少ない最高のものを、というのがあったの。 私はお父様の片腕になるのが夢だった」
「―…」
「勿論、放射能治療が必要な場合もあるし、強い薬を使わなきゃならない場合もある。 でも過度に出す薬は毒になるわ。」
(そういえば、以前、ルナ姉が同じような事を言ってたな。医者が病を治すのではない。患者のもつ力が病を治すのだと。医者はその手助けをするだけなのだと。)
諸星は壮大な夢を持つ巳恩を優しく見る。
「お家元!」
パタパタと店長が顔を見せる。
「えろうお待たせ致しました。 お席の用意が出来ましたぇ。 巳恩お嬢はん! お久しゅうございますな。 ほんまにお綺麗にならはって。 藤代のお姉はんらもご自慢でしょう。 福玉を買われてたんどすか?」
店長が案内したのはどう見てもVIP用と思われる衝立で仕切られた奥の小座敷風の席。
「ふふっ。ありがとう。福玉は姉さんたちが買ってくれたのよ。あ、私はスペシャルパフェね。 小倉抹茶白玉のわらび餅いりのチョコカステラ付きの黒蜜かけと抹茶オ・レのLサイズね。」
「「うちらも!」」
「はいはい。 お姉はんらとお家元とそちらのお兄はんは」
「うちらは和菓子のセットを釜炒り焙茶でな。 菓子の練り切りは席で見本を見せてもらうさかい」
「私とこのお兄はんにはくずきりのセットを煎茶でな」
「何時ものご注文どすな。」
店長はにこにこと笑ってメモを取る。
「ミス・巳恩。 スペシャルパフェの写真は見ましたがあんなに食べて大丈夫ですか? お腹でも壊して寝込んだら黒澤氏に怒られるのは自分なんですが」
「胃の調子が悪いなら薬を出してあげるわよ。 志保の薬は凄く良く効くんだから。なんなら私が勤務する事になっている総合病院の系列を紹介しましょうか。 お父様の事を知っているから最優先で診てくれるわよ。」
「それは辞退させて頂こう。」
「あら、残念。 諸星の躰は鋼鉄で血の変わりにオイルが流れそうだから人体実験に丁度いいと思ったのに」
「手の平でも切ってみせればご満足ですか? 躰は子供の頃から鍛えているだけですし、一応赤い液体も流れています。」
「鉄は錆びると赤くなるわね。」
「ー… 巳恩ちゃん。 大人を揶揄うのは止めにしぃや。黒澤はんが来れなくてご機嫌が悪いのはよぉ分かったさかいな」
「あーあ。 パパが一緒ならもっと楽しいのに。荷物持ちが寝不足顔の諸星じゃね…」
届いた特大パフェを黙々と食べながら呟く巳恩
「相変わらずファザコンやな」
「まぁ、黒澤はんは厳はんの変わりに巳恩ちゃんを育てた人やさかいなぁ」
「研修発表に参加しただけじゃつまらないと?」
「ぅ……」
言葉に詰まる巳恩
「志保たちの発表は面白かったわよ? 私が参加できた医療技術の発表も面白かった。それは認めるわ。 でも! 私はそれよりもパパとデートの方が楽しみだったの!」
「せやなぁ。巳恩ちゃんは黒澤はんベッタリだもんな。 黒澤はんが結婚できないのは巳恩ちゃんが目を光らせてるからやないの?」
「まさか! パパは適当に遊んでるわよ。 時々香水の匂い付けているもの。 私と同等に付き合えないなら遊ぶだけにしておいてと云ってあるけど。」
「―… 巳恩ちゃんと同等? ―…絶対!! 無理やわ」
「全く どうしようもない子やなぁ」
藤代は苦笑する。
そして気づけば店に残っているのは数名の観光客と巳恩たちだけである。
「さて、ごはんたべは終了や。春佳、真奈。 明日からまた気張るんやで」
「「へぇ!」」
「豆乃。 華豆の女将はんに宜しゅうな」
「へぇ。伝えます」
「明日はいつも通りのお稽古でよろしゅうおすか?」
「勿論や。 今日の稽古は師範に任せたけどな、明日はしっかりと稽古付けるで。 勿論、巳恩も稽古に連れてくから覚悟しぃや」
「おっ! おじ様! 私、仕込みさんでも舞妓さんでもないわよ!?」
「寿々乃の孫が見学というだけで稽古場が引き締まる。女紅場にはちゃーんと許可を取ってるし、恭介に云ってお前の着物も用意してあるさかいな。」
「幾らおばあさまが踊りの名手だったとしても、私には舞の才能は持ち合わせておりません。 私に出来るのは舞ではなくてダンス。 お琴やお三味線じゃなくてピアノとハープ。 それも仕事ではなく、趣味としてです」
「それも承知や。師範たちから巳恩の舞を見たい頼まれてるから連れて行くで」
「諸星、今すぐハイヤー呼んで頂戴。」
「ミス巳恩?」
「あの師範や芸舞妓さんたちに見せれるほど舞もお琴も練習してないし上手じゃないもの。鷹匠さんからレディを引き取って東都へ帰るわ」
「それも承知の上や。 だが、稽古に行った後は約束の茶屋遊びが控えてるで。ゲスト付きでな」
「ゲスト?」
「明後日は舞台が休みの日だと聞いてなぁ。 ゲストにお前のご贔屓さん数名に声をかけてあるんやが―… 」
「え!!」
「さぁどうする? 帰ったら会えんだけやが」
「行くっ!!」
藤代の言葉に巳恩はころっと態度を変えて返事をした。
くっくっくっ…と肩を震わせて笑う諸星。
「あー… 勿論、諸星の兄はんも稽古場に行くんやで」
「は?」
にっこりと笑う藤代
「巳恩の護衛なら護衛らしゅう、付き従うのが当然やろ。 着物はウチに沢山あるさかい、心配せんでもええで」
「ミス巳恩。 報酬を辞退するので変わりの護衛を呼んでいただいてもいいですか? 福玉は壊さない様に持ち帰りますから」
「却下。 根性すえて付き合いなさい。 着物は私と恭介兄さんで選んで着つけて上げるわ。 歌舞伎の歌の字も知らないお前には勉強にもなる筈よ。」
諸星の言葉は一刀両断に切り捨てられた
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