Act-19 誤解 後編
両腕に福玉を下げて、両手でお捻りを持った儘ドアを開ける、というのは中々と難儀な事だった。
それでもなんとかドアを開ける。
少女らしい部屋だが2間続きになっており、一部屋は1段上がって和室になっており、琴と三味線、お姉さんに買って貰った福玉がおいてあった。

お捻りをテーブルに置いて、福玉は畳も置いてある福玉とは違う方に置く。

(これを、持って帰る、のか…)
車の後部シートが埋まりそうな勢いに諸星は小さな溜息を付く

女の子の部屋をジロジロ見るのは悪いだろうとさっさと出て風呂場に向かう。
旧家ならではだろうか、身体も伸ばせれば大人が5人位充分寝転がれる程の広さがあるので軽い柔軟をやらせて貰えば、気がつかないところで疲れてたのか筋肉がゴキゴキとなる。
深夜のマラソンとかして庭を借りての自主トレとかで筋肉をほぐしたい所だが騒ぎになって困るので自重する事にして、誰も来ない浴室と着替え室を無断借用する形で截拳道の基礎トレを1時間程させて貰った。

1時間も動けば―… 勿論、深夜なので足音を立てないように動けば背中にびっしょりと汗をかく位の運動になる。
滅多に使わないだろうと思われる浴室はとても手入れが行き届いていれ、檜の匂いは森林浴のように疲れを癒してくれる。

(藤代さんは組織とつながっているのだろうか)

部屋にノーパソが置いてあったが使う訳にはいかない。
もし、繋がっているとしたら、履歴を消したとしても専門知識があれば復元できる。
だとすれば、巳恩に行ったように美味しいパン屋を検索する位にしておいた方がいい。

煙草を2本ほど吸って、部屋においてあるティファールで湯を沸かして珈琲を入れる
洋酒でオン・ザ・ロックとしたい所だか茶屋で十分美味しい日本酒を飲んだ。

接待する側だと思っていたが諸星は接待される側だったらしく舞妓姿の巳恩ことすずのや芸妓からお酌をされ、巳恩のご贔屓からも酌をされたり返杯をしたり。
滅多に味わえない宴の酔いは、組織の中でギスギスしかかっている心を解きほぐしてくれた。

綾乃が用意しておいてくれたらしいパジャマが着替えの中においてあったので有りがたく拝借してベッドに入って何も考えずにぼーっとする。
机の上にある携帯をみて、明美にメールでも打ってみようかと考えいたら、パタパタと足音がした。
そのまま通り過ぎるかと思ったら部屋の前で止まり諸星は枕元に隠し置いた銃に手をかけて様子をうかがう。

カチリとドアが空いて、ノックもせずにするり、と猫の様に部屋に入って来たのはキャミソールにガウンを羽織った巳恩

「ミス巳恩? なにか用ならルームホンを鳴らしてくれれば―…?」

驚いて枕の中に銃を戻してベッドからでるが、よく見れば巳恩の瞳はぼうっとしていてどこかおかしい。

「ミス、巳恩?」
「―… Vater」

(? Vater(父さん)だと?)
ふわふわとした視線。

ぱさり、とガウンが床に落ちて、細い躰が諸星の身体にぽふっと飛び込んでくる。
服を捕まれそのまま押し倒される用にベッドの中にダイビングして、諸星は壁に頭をぶつけたりしないように巳恩の頭をを守るように抱え込む

車の中でも感じたが、ふわり、と薔薇の薫り。

「っと!!」

巳恩の身体が猫の様に乗り上がる形でベッドに倒されている事に諸星は慌てる。
もそもそ、と、身体を跨ぐ様に動かれ、諸星の心臓は羽根上がった。
何しろ身につけているのはレースを使った袖無しキャミソールで丈は膝が隠れるかどうかという短さで薔薇の香りのボディソープとシャンプーの香りを纏って、鼻孔をくすぐるのだ。

明美は普通のシャボンの香りのしか使わなかったし、キャミソールなんか似あわないといい、ナイトブラにパジャマの為に焦る事も無かったが巳恩は真逆
子供体型から少女体型になり、女性体型に変わろうとしている絶賛成長期。
あと数年もして恋人ができたら数秒で美味しく食べられてしまうのではないかという目のやり場に困る姿

「!!!ミス巳恩」
「んー……… な、に?」
「そんな格好で寝ると、風邪を引きます」
「やだ」
「ですが!」
「おとう、さ ま―…」

もぞもぞと、諸星の体温を確認するかのように、纏い付いてくる。

「巳恩 コラ、オイ。 ここはお前の部屋じゃないぞ。」

まだ13、時期に14に為る女の子。
ハーフ、というだけあって白い肌と黒髪の対比は人形のような造形で睫も長い。
(寝ぼけて自分のベッドと間違えた、という所か)
諸星は苦笑する。

「ミス巳恩 起きて下さい。寝ぼけてるとはいえ、他人のベッドで寝たりすると俺が後で困るんですが」
「んっ…  いい、の この、儘―… Vaterと、寝る」
「おい、巳恩。 疲れてるのは分かるが、俺は黒澤氏じゃ無い。 寝るならー…」

自分の部屋に行け、と言いかけてすーすーと、しかも自分のパジャマの服を握り締めるように胸に顔を埋めるように眠ってしまった少女をみて片手で顔を押さえる。
どうやら、自分が寝やすい位置を見つけたのだろう。
(目が醒めたら殺されそうだな)
だが、目が醒めたらこの子はまた組織の幹部候補生に戻ってしまう。

冬にも関わらず薄着なのは癖なのだろうか。
それとも人の温盛を感じたいのか、自分の胸に顔をすりよせてくる少女の躰。
鼻孔をくずぐる、仄かに臭う薔薇の香り。
吐く息すら甘く、子供とは思えない。

「大きく、なったな」

目を閉じて思い出すのは保育器の中の娘を見て、溶けそうな笑顔の父親。
ラテックスの手袋越しだが小さな手は想像以上に暖かく、ぷにぷにとした頬も全てが愛らしくて、弟妹が産まれた時以上に胸の奥が熱くなった…
(巌兄さんが、何故、黒の組織に入ってたのか、分からない。だが、其れでも、この子に対する愛情は本物だった。 だから、俺は)

「ジン…… 大、好き」

その言葉に諸星は眠りに落ちかけた意識が覚醒する。

(ジン、だと?黒澤氏のー… この子の後見人の名前はあの方の側近のジンなのか?―… いや、飛行場であった時は黒髪だった。 つまり、ジン某、という名前かもしれない。いや、幹部候補生なら、ジンと顔見知りでも可笑しくないが)
だが、それを問う事はできない。

恐らく、黒澤氏と一緒の時はベッドの中に潜り込んでねる事もあったのだろう。
6、7歳の頃からなら小さな子なら大人が一緒に眠る事も可笑しくはない。
後見人であろうと、異性であろうと、大人に護られているという安堵は同じベッドで寝て護る、というのはごく一般的な事だ。
黒澤氏は、それほどまでにこの子の信頼を得ている。

年上を年上と思わないこの子が彼女宣言までしてしまう程の存在。

(ルナ姉。俺も小さい時、姉さんと一緒に寝るとごねて一緒のベッドに潜り込んだ。 ルナ姉は嫌がらずに先に寝ついた俺を温めるように抱き締めてくれた。 だから、俺は弟や妹が産まれても可愛がって、寝かしつけてやったりするのが苦じゃなかった。 妹がベッドに潜り込んできても一緒に寝てやる事ができた )

諸星は諦めて肩口までしっかりと毛布をかけると、幼い寝顔で眠りについた巳恩の躰が冷えないように確りと抱え込んで目を閉じた
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