Act-20 ロリコン疑惑
「も〜ろ〜ぼ〜し〜!!」
耳元で叫ばれて、頬がバチンと音を立てる。
「朝から酷いおこされ方だ…」
「起きたのか、じゃないでしょ!! なんでお前が私のベッドで寝てるのよ!!」
「は?」
「は、じゃないでしょ!」
すっ!と綺麗な足が顔面に向ってきて諸星は避ける。
だが、均整のとれた足がくるんと回って今度は後ろ蹴りのように襲ってきた。
「危なっ! ミス巳恩! 誤解だ! ここは俺が使わせて貰ってる部屋で」
「おだまりっ!」
諸星の言葉は聞かないとばかりに拳やら足が飛び出てくる。
「っと!」
キャミソール、という姿だけに諸星は防戦一方だ。
綺麗に上がる足を掴もうとすれば足の付け根まで見えてしまう。
かと言って自分が本気をだせば狭い室内だけに大怪我をさせてしまう
「巳恩ちゃん? おきているんか? 朝から騒々しいで? 元気なのはええことやけど、運動不足なら庭でやりなさー 諸星の兄はん!?」
「い、いや、だからこれは!!」
巳恩がどれだけの体術を持つのかしりたくなって狭い部屋の中でバタバタしていた所為だろう。
綾乃がドアを開けて目を丸くする
息を切らしている巳恩と平然と立っているものの頬に紅葉のように叩かれた跡をのこしている諸星。
しかも巳恩は冬にそぐわないキャミソール。
「巳恩ちゃん! この子はもう! パンツとキャミソールやなんて新婚さんが旦那さんに襲ってくれ、っていうてるようなもんやないの! 」
「も、襲われっちゃった…」
うるるん、と瞳を潤ませる巳恩
「なぁんですってぇえええええ!!!! 襲われたぁああ!? 」
「私も一寸寝ぼけたみたいなんだけど、諸星ってば、私のベッドじゃなくて、自分のベッドにつれ込んだの……」
「な、な、な…っ!! まさか食べられたん!?」
「パパ以外の人と寝るなんて、もう、黒澤のパパのお嫁さんに、なれない……」
ぐっすん、ふぇぇぇぇんと、綾乃にしがみ付く巳恩
「ま! 諸星はんってロリコンやったの!? 寝ぼけてた子をベッドの中で美味しく食べたとか!? 男としてちゃーんと責任を取ってもらわな! 黒澤はんに殺されるで」
「いくら美味しそうにみえても子供を食べるか! 誤解だ! 俺は何もしてない!! ミス巳恩が勝手にベッドに潜り込んできただけだ! 手は出してない!」
「え! じゃあ何? 私、女といて見られてないって事!? 魅力の欠片も無いって事!? こんなに煙草の匂い移しておいて」
「だから、それはおま… ミス巳恩が俺にくっついて寝たから移っただけであって―…っ」
細身だがハーフという事もあって、同年代の子よりも女性らしい躰。
ちゃんとした服を着ていれば睨み付けてガツンと云えるが、顔を合わせようとすれば頭一つ程小さい為に見下ろす形になってしまうため、素肌が丸見え―… で背けざるを得ないため、他人からみたら疚しい事があるのだと思われても仕方ない。
せめてパジャマ姿だったら―…と、溜息を吐く。
「私のパパのお嫁さんになりたい宣言聞いておいて、玩具にされたんだわっ!」
「するか!!」
ズキズキと 偏頭痛がした。
(前言撤回。ルナ姉さんに似てるのは顔形だけだ)
「巳恩、綾乃、お前達は朝からまた何を揶揄って遊んでるんだ?」
「「藤代のおじ様 / お、お父はん」」
「まーったく、二人揃って朝からお庭番を苛めるのは止めなさい」
すっきりと着流し姿の恭介がコンコンっと二人の頭に痛く無い程度の拳骨を落とす
「「恭介兄はん / 恭兄さん! って二人とも早っ」」
「巳恩。諸星はんは、お前の遊びに付き合う事はでけへんで」
「ー………」
藍染めの丹繕姿の藤代に睨まれて、う、と黙り混む巳恩
「まぁ、昨日一昨日で二人で示し会わせたんだろうけど、諸星さんが気の毒だよ」
「だってだって、黒澤のパパ居ないから一緒に寝れないんだもの!」
「は?」
「だったら、僕か父さんの部屋に潜り込みに来ればいいだろう?」
「おじ様も恭兄さんも髪短いんだもん……。 諸星は黒澤のパパよりは短いけど長いんだもん」
「ー…… ミス巳恩。 まさか俺は人間湯たんぽか抱き枕ですか」
「あ、ばれちゃった。 もっとワタワタする顔を見たかったのに」
諸星が言った台詞に巳恩は楽しそうに笑う
「ん、もう。お父はんも恭介兄はんも来るのが早すぎやわ………。 ね、巳恩ちゃん」
「ほーんと。」
「この……っ お前は本当に留学してるのか!?」
「してるわよ? なんなら博士号取得レポート見せてあげましょうか」
「信じられないな。こんな悪戯を仕掛けるような子が天才とは」
「少なくとも、アナタの弟妹たちよりもいいと思うけど?」
「ー…!」
その言葉に諸星は目を見開く
「あらぁ、諸星はんって兄妹がいるん?」
「いや、残念ながら」
「巳恩ちゃんの云い方やと兄妹がいるみたいに聞こえるわ」
「私をベッドに連れ込む位のロリコンだとしたら小さな子が好きって事だからてっきり可愛い可愛い年の離れた妹がいるものだと思ったんだけど、あ、その場合はロリコンじゃなくてシスコンだわ。」
「―… それは、ミス巳恩の勘違いだ。」
「あら、そぉ? ざーんねん。 宮野明美の事は初中終ベッドに押し倒してるって聞いたから、さぞかし上手なんだと思ってたのに。」
「―… ミス巳恩。明美が貴女に無礼な事をしたのも、言葉使いが悪かったのも認めますが、八つ当たりで巻き込まないでくれませんか…」
「あら、明美が低能なのを認めるの」
「貴方はその年でスイスの医大の卒業が決まってます。明美はごく普通の大学の文系を卒業しただけにすぎませんから…」
「私の留学は当然よ。殺されたお父様もアメリカ留学してスイスの高校をでて、イギリスの医大を卒業してるもの。 むしろ普通のレベルの方がおかしいのよ。 志保もそうよ。 志保の亡くなったご両親はとても優秀な科学者夫妻だったから、娘である志保も私と同じようにスイスに留学したわ。 ―… と、ごめんなさい。諸星の彼女の明美もあの宮野夫妻の娘なのに留学できないレベルだったわね。 事故のあと知り合いに引き取られて二人とも留学させる予定だったのに、姉の方は留学できないレベルで日本で普通に育ったとか。志保が嘆いていたわ」
「―… 普通がおかしいとでも?」
「何の定義を持って普通だというの? 明美の特技はなに? ただ、優しいとか我慢強いとか? 諸星の特技は仕事の為なら嫌いな女でもたぶらかす、とか? 」
「それは…」
にっこりと笑う巳恩の笑みはまるで自分の正体を知っているかのようだ
「はいはい。IQの話も止め止め!」
「堪忍な。諸星はん。 京都に来るときはいっつも黒澤はんとベッタリ一緒に寝てたから間違ったんやろ」
「黒澤氏が一緒だと新婚さん顔負けでベタベタに引っ付いてるから」
「私と一緒の時は浮気何てさせないもん!」
「はいはい。 それに黒澤さんだって、お前と一緒の時は凄く優しい目をしてるしね。」
「つーまーんーなーい!」
はぁ、と溜め息を付いて、ぷーっと頬を脹らませる巳恩
「ミス巳恩。つまり自分は、黒澤氏の代わりに使われた、という事ですか」
「うん。」
いともあっさり返事をされる。
「今夜からは部屋に鍵を掛けた方がよさそうですね」
「心配しなくても行きゃしないわ。」
「思ったよりも遊べんかったなぁ」
「おじ様と、恭介兄さんが来る速さの事を計算しなかったのが敗因だわね」
「滅多に無い退屈凌ぎやったのにな」
「まったくもう。 綾乃は年上なんだから適当なトコで止めないと、諸星さんが気の毒だろう。じゃれ合いはそこまで!」
ポンポン、と手を打つ恭介
「巳恩も、そんな恰好やめて着替えてきなさい。 昨日ご飯に飽きた〜〜 パンが食べたい〜〜 と云ったから今朝はパンケーキを焼いてあげる。 生地はもう昨夜から寝かせてあるから、後は焼くだけ。」
「わ! ホント!?」
「巳恩と綾乃には蜂蜜に自家製バターにメープルシロップに果物のコンフィチュール。」
「やった!恭兄さん、パパの次に愛してるっ!」
ごろにゃん、と恭介にすり寄る巳恩
「はいはい。 僕も愛してるよ。 ―…で、諸星さんと父さんにはケーク・サレ風でツナとハムと溶けるチーズをサンドして焼きますから。 ほら、さっさと着替えておいで」
「はーい タバコの匂いついたから、朝風呂してくる」
「30分で食堂に来なきゃ先食べるよ」
「きゃん! 分かった」
恭介はポンポン、と頭を撫ぜて部屋の方へ追いやる
「すいません。年下の子の扱いはどうも苦手で。」
「で、しょうねぇ。僕は綾乃がいますし、祇園には仕込みさん達もいますから。 舞妓になるべく育った子や舞妓や芸妓の着付けを男衆の代わりにする事がありますから、肌襦袢や着物の下着姿とかも見慣れていますけど。諸星さんは免疫なさそうですし」
「だから、面白そうやったのに。」
綾乃がくすくすと笑う
「綾乃。全く、お前まで感化されてどうするんだ」
「ええやない。巳恩ちゃんの退屈の虫が解消されるなら」
「歌舞伎の御大達の効果は数時間、やったな。 まぁ、子供の遊びや。 大人の寛容で赦してやってな」
「了解しました。 今夜潜り込んできたら恭介さんか藤代さんの部屋に届けにいきますよ」
「ははっ! それがいいね。 朝から疲れたでしょうから、軽く汗を流してきたらどうです? 掃除の為に湯は抜いてしまいましたがシャワーは使えますよ」
「ならばざっとシャワーを使わせ貰おう。 ミス巳恩よりも早く食堂に行けると思う」
「分かりました。 朝食はあと、パンケーキを焼いて珈琲か紅茶を入れるだけですから」
「了解した」
廊下で話して居れば、着替えを片手に風呂場に駆けて行く巳恩がピタ、と立ち止まった。
「どうかしたかい? 巳恩」
「云い忘れてた。 おじ様、恭介兄さん、綾乃姉さん、お早うございます。」
丁寧に頭を下げる巳恩に赤井は目を丸くする
「ああ、せなったな。 朝からにぎやかしで忘れとった、おはようさん」
「全く末っ子はいつも賑やかだね。お早う、元気がなによりだよ」
「お早う巳恩ちゃん」
そして巳恩はじっと諸星を見る
「ミス巳恩? まだ何か」
「一寸、屈んでくれる?」
「は?」
諸星は聞き返す
「いいから! 一寸屈んで」
「―…?」
諸星はまだ何かしていたかと思いつつ、巳恩の前に屈み込んだ
とたん、頬にちゅっ! と暖かいものが触れた。
「「あらま / あーあ…」」
「おはよ! 諸星。 夫にはしてあげる事は出来ないけど、もう一寸したら、愛人にしてあげる」
「は?」
「一晩一緒に寝ちゃった以上は仕方がないもの。こう見えても私、気に入った男がいたら愛人にする権力位持ってるのよ? 黒澤のパパだって、愛人の一人二人で怒ったりしないしね。 早く幹部としてのIDを貰いなさい」
「―…な、ん……!」
「黒澤のパパにお前が幹部になったら、私の愛人する許可を貰って上げる。ちゃっちゃとお仕事こなしなさいね?」
にっこり笑った巳恩の背中に黒い羽と黒いしっぽが見えた、ような気がした。
「あーあ。 ご愁傷さま、やなぁ。 巳恩ちゃん、どうやら諸星はんの事がお気に召したようやわ」
「は?」
「なーんかわからんけどな。自分と対等に付き合える、と判断したようだね」
「対等って、俺は愛人になんてなる気はないぞ」
「勿論、あの子一流のジョークだよ。けど、どうやら諸星はんの事が気に入ったのはたしかだろうね。 この休暇の間は散々使われるだろうから覚悟した方がいいよ。」
恭介の言葉に諸星は深い溜息を吐く。
(やれやれ… 有間流の遊びに付き合うのは命がけだな。)
赤井は着替えを片手に客間用の風呂場に向った
26/30
prev next←銀の焔