Act-21 クレー射撃 前編
パリンっと軽快な音がして次々とクレー皿が割れていく.
「ほぉー……」
次々に割れる皿に、諸星は溜息を吐く。
先日業とベッドに潜り込まれてから妙に気に入られた。
元々は10日間程度京都で遊びまくって黒澤氏のブラックカードで贅沢三昧(残念ながら藤代一家が殆ど使わせてない)予定だった休暇もあと3日程。
可愛がっている鷹のレディはどうやらお気に入りができたらしく最終的にカッコイイ(俺にはどこがカッコイイのか分からないが)お婿さんが見つかったようで、鷹匠が別棟の番用の籠に入れて番になれそうかどうか見極めている。
「んふふふー♪ レディのお婿さんが見つかったらその内可愛い雛が産まれるかもっ! ね、ね、産まれたらどんな名前がいいと思う!? お前の名前も貰って大ってつけてあげよっか!? お婿さん候補の一匹とラブラブ青春真っ盛りなんですって」
「俺に聞くな!」
「酷っ! 諸星はレディが可愛くないの!!」
「ミス巳恩の鷹でしょう! 自分のペットじゃありませんから」
「あ〜〜 雇い主の鷹を貶す!!」
「雇い主ってな! 第一俺はレディに威嚇されてばかりなんだが」
「それはお前が私よりランクが下だからよ あ、そっか。 忘れてたけど、諸星のペットは明美だっけ? 手のかかるペットでご愁傷さまだわ」
「あのな!」
もはや不毛な会話としか思えない。
藤代氏が巳恩を座敷で舞をきっちり仕込んでいる午前中の一時だけが何故か平和に感じてしまう。
そんな時、朝っぱらから叩き起こされて(眠りは浅い方なので問題はないが)、藤代氏の車か恭介さんの車なのか分からないがシルヴィアの運転を仰せつかった。
助手席は恭介さんで後部シートに藤代氏と巳恩
「一体どこへ?」
ナビの恭介さんの指示通りに運転をしながら聞く
「んふふふふふー。 イ・イ・ト・コ・ロ」
「は?」
「藤代のおじ様も恭介兄さんも綾乃姉さん豆乃姉さんもメンバーになってるの! 勿論私もね!」
綾乃さんが早起きして用意してくれた朝食代わりの御握りとお茶と味噌汁(巳恩にはサンドイッチと紅茶)にパクつきながらご機嫌な巳恩
「おじ様にも恭介兄さんにも勝ってみせるんだからぁっ!」
「やれるもんならやってみぃ。」
「ぐっ」
「勝つ? 何をする気だ?」
「勿論、射撃よ! 射撃! シューティング!!」
「―… は? 射撃!?」
思わず横道にそれて一端停止ゾーンで急ブレーキをかける俺。
「ミス・巳恩!? 正気ですか」
「った〜〜!! 急ブレーキかけないでよ!」
「巳恩、いきなり射撃なんて言ったら吃驚しても仕方ないよ。 ちゃんとクレー射撃って言わないと」
「あら、そう?」
「僕らなら意味は通じるけど、諸星さんは驚くだろ? どうせ、お前がクレー射撃もするって言ってないだろうし」
「あれ? 言って無かった?」
「有間博士が趣味でどこだかの有名な射撃協会に所属していたのは特集で見た事がある。仕事が忙しくてクレー射撃がメインだったとか」
諸星は車のアクセルを踏み運転を再開する
「そ! そのクレー射撃。 おじ様と恭介兄さんが月1回練習に行くタイミングにかさなったから私も行くの! クレーなんて久しぶりだわ」
「はぁ…」
諸星は溜息を吐く。
「心配なんていりませんよ。 こう見えても巳恩はクラブの女性メンバーの中ではTOPレベルですから。 ね。父さん?」
「あぁ。 なんせ藤代の末っ子は多才やからな」
デレデレと、頬を緩ませる藤代。
そして2時間程車を走らせてついたクラブ。
自分たちのライフルバックを背負ってクラブに入った途端、巳恩どころか藤代達まで顔が変わる。
すでにプレーをしているメンバーたちがいる中で堂々と立って遜色がない。
「藤代の宗家! 恭介さん! 今日は巳恩お嬢様もですか」
「あと2日程でスイスに帰ってしまうんや。 ウチラが予約してた日と丁度重なってたからな。連れて来たんや。 明日には東都へ帰ってしまうさかいなぁ。」
「それはそれは。 お久しぶりですね、巳恩さん、また背が高くなってライフルの方は如何です?」
「買った時よりだいぶ重さに慣れたわ。でもやっぱりスイスでつかってる方が持ち慣れてるから、京都に預けてある子だと時々軸がぶれてしまうけど」
「巳恩は日本に居ない事が多いから仕方ないよ。 手入れだけは僕らが出来るけど、下手に使うと癖がでるからね」
「うん。解ってる。 来年日本に戻ってきたらちゃんと有間邸に引き取る積り」
「おや留学が終わりですか?」
「うん。来年卒業だもの。 それでお父様が勤務して外科外来の基礎を病院のインターンになるの!」
「流石藤代宗家の自慢の末っ子さんだ。先が楽しみですね」
「せやな。 亡くなった厳はんもやっと一息つけるやろ」
「あとは犯人が1日も早く捕まって報告ができればいいですね」
「日本警察はお馬鹿さん揃いだからどうかしら。 私のモンタージュなんてシュレッダーされたと思うわよ。何しろ外国人だったから国際法だとかなんだとか調査中止命令がでちゃって」
「そんな馬鹿揃いの警視庁にはC4の一つ位送りつけてやりたいですね」
「ふふっ! 確かにこのクラブなら仕入れられるでしょうけど、きっと無理ね」
楽しそうに笑う巳恩
「ではロッカーのキーをどうぞ。 こちらが恭介さんと宗家。お嬢さんはこちらで」
「ありがと! じゃあ、着替えてくるわね。 20分後でいい?」
「そうだね。」
「諸星」
「はい?」
「私のライフルバックを持ってて頂戴」
「は!?」
「鍵はかけてあるわ。 よろしくね」
「ちょ・・っ! ミス巳恩」
パタパタとボストンバック片手に女性用ロッカーにかけて行く巳恩を見送って、諸星は何度目になるか分からない溜息を吐いた。
「やれやれ。御庭番は大変だ。ま、それだけ信用されてきたって事ですよ」
恭介は諸星の方をポンと叩いて男性用のロッカーに歩いて行く。
時間つぶしに煙草の1本でも思ったが火薬を扱っているクラブである。
敷地内は喫茶店であろうとも火器現金。
組織に居る以上、ある程度の銃は使いこなせると思っていたが、ライフルを持たせて300ヤード程度ならクリーンヒットするだろう、と諸星は思ったがまさかレミントンを軽々と扱うとは予想打にしてなかった。
巳恩と一緒に射撃場に来た藤代と恭介も可也の腕で、本当に一般人か、と思える程だ。
幹部候補生に選ばれた構成員は全員、銃の取り扱いと組立分解掃除は教え込まれる。
明美は幹部候補生に選ばれずに下っ端の構成員である為に身を護る手段も何も教えられる事が無かった。
反してその妹のシェリーこと宮野志保は幹部候補生として組織の経費で留学して高等教育を受けた時にその一環として銃の撃ち方とかも教え込まれているのだと、 明美は ポツリ と寂しそうに笑った。
宮野博士夫婦の娘、という事で”生きる”事を許されたのだと
ー… 同じ親を持つのに、どうしてこうも違う、のかしら?
志保は私よりも10歩も20歩も先を歩いているの。
スイスで志保と仲良くなった子は3つ位年下らしいのだけど、医学を学んでいて、コードネームも内定しているとメールが来たわ。
志保も小さな時にコードネームが内定してけど、その子は何時寝てるのかっていう位芸術面も習っててもっと凄いらしいわ。
志保はね、日本語と英語は小さな時から流暢に喋ってたの。
科学者を目指してるから専門用語を覚える為に留学してからは独逸語と伊太利亜語もマスターしたって言ってたわ
志保の年下の友人は医者を目指してて、死んだお父さんは世界に名を馳せた医者だったんですって。
その後を継ぐ為に志保以上に語学は堪能で知らない言語を教えて貰う事もあるって。
研究者、という面ではライバルになるかもって嬉しそうに手紙をくれた事があるの。
―… 私が志保にしてあげれる事は、唯、待つだけ。 何もしてあげられないの
生活の全てを保証されている幹部候補生の妹
その妹が認める年下の友人は巳恩
明美はどんなに妹を思って長い年月を暮らしてきたのだろう…
仮初めの恋人関係を築いているとはいえ、何時かは姉妹で仲良く暮らせる日が来る事を、俺は願っている。
何時かは終わらせる恋人関係。
任務の為に
俺は此処にいるのだと
そして巳恩
俺は、お前の事も救いたい。
時と手段さえあるならば、今すぐ攫って誰も知らない場所に連れて行きたい
諸星は黙ってクレーを打つ巳恩を見つめる。
クレーをしたいなら止めようとは思わない。
語学も勉強も
望むもの全て与えてやりたいと思う。
けれどそれを与えたのは組織であり、黒澤氏であり、藤代の人達なのだ。
年相応の友人を作り、学校帰りにこっそりと買い食いをしたり、好きな人ができても親に内緒にしてヤキモキさせる―…
そんな当たり前の生活を巳恩はしていない。
諸星は小さな溜息を吐いて、クレーを割る巳恩を見守り続けた
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