Act-21 クレー射撃 後編
「3人とも見事な技術でしょう?」
「あぁ。確かに」
「藤代の宗家も恭介さんも1ケ月に2回は来るんですよ。お二人とも来るとスコアを競って、クラブ発行の満射賞に2ラウンド連続満射賞とか取ってますし。巳恩さんは留学中とかで日本に一時帰国をした時にしか来れませんが所属の女性会員の中では随一の腕までです。」
「―… だろうな」
3名を良く知っているクラブのアドバイザーがヘッドホンをして見学している諸星に云う
「3人の射撃ベストにグリーンのワッペンが付いているでしょう?」
「銀色でPROVAと書かれるな」
「ベストの着用はクレー射撃の協会全てで着用義務があります。それについてるワッペンですが、初心者はゴールドで中級はレッド、上級がシルバーです」
「藤代さんと恭介さんは銀色、という事は上級という事か。 ミス巳恩は赤だから中級だな」
「藤代の宗家と恭介さんがくるとまぁ、商売あがったり、という感じですね。 スコアが高すぎて他のメンバーが見学に回って遠慮しちゃうんですよ。あの2人よりも凄いのは巳恩お嬢さんの無くなった父君の有間博士と、巳恩さんの後見人である黒澤氏位ですよ。 巳恩お嬢さんが赤なのは年齢上です。技術はピカ一で上級ですよ」
そう言われて周囲を見回せばギャラリーがチラホラと、3名の射撃を真剣な表情で見学している。
中にはアドバイザーを捕まえて色々と聞いている初心者会員もいる位だ
パリンパリン、と見事に割れて外れる弾がない。
組織で射撃を教え込まれたのだろう。
巳恩のクレーを割る姿勢にブレがない事に諸星は少し関心した。
1枚1枚割っていく10程度で終了なら当然だとも思うが2枚飛び出てくるのを迷わずに撃ちぬくのだ。
「藤代のお嬢さん達は舞妓さん達の教育とかの方が忙しいですから滅多に来られませんし、来られてもクレーよりはこの近くにある有名な甘味屋が目当てで早々に引き上げてしまいますが、巳恩お嬢さんは別格ですね。このクラブではトップクラスの2人と競ってますよ」
「綾乃さんたちも射撃をするのか?」
「えぇ。まぁ、1ゲームしたらそれで終了、みたいな感じなので技術では断然巳恩お嬢さんの方が飛びぬけてます」
「まぁ、13歳であの技術、じゃな」
「最初は子供用の近距離トラップで当たるのを楽しんでただけなんですが、今じゃ大人の国際大会にでて金メダルがとれるんじゃないかと思う位ですからね。 最近はダブルトラップかスキートですよ」
「近距離トラップ?」
「ボウリングの児童用と同じですよ。 クレーも大きくて一寸掠っただけでパリンと割れるんです。距離は20メートルからで銃も軽量。 弾丸はプラスチックで周囲を強化したスポンジ。 磁石機能でクレーに練り込んである磁石めがけて飛んでいくので90%命中します。とはいえ、危険物でもあるので10歳以上で上級インストラクターか中級以上の会員が傍にいるのが最低規約です」
「ほぉー。それで子供のギャラリーもいる、という事か。 だが、日本では13歳には銃砲所持が出ないんじゃなかったか?」
「巳恩お嬢さんは海外で取得してますから特別枠対象です。 亡くなられた有間博士は合わせて狩猟免許もお持ちでしたよ」
(と、いう事は公安の方でも情報は握っている筈。 13でクレーをするなら尚更情報が流れている筈、だが)
クレーの割れる音がしなくなるとギャラリーの会員たちの拍手が飛び、諸星はスタッフと一緒にスタンドに向かう
「あ〜〜〜〜〜っつつ!! もうっ!! くやしいっ!!」
「また、父さんと勝負が付かなかった…」
「そうそう若いもんに抜かれてたまるかいな。 だが、巳恩はますます腕に磨きをかけてきたな」
「おじさま! 恭介兄さん! 手袋投げつけるわ! リターンマッチ! もう一度勝負して! 絶対勝ってみせるんだから!」
「は? 手袋って決闘じゃないんだから」
「もう一度って… 50枚も撃てばストレス発散で満足やろうが?」
「46枚目で銃口がぶれて。49枚目が掠りもしなかったんだもの!」
ヘッドホンを外してがっくし、と肩を落としている巳恩
「その年でそれだけ割れたら十分じゃないか」
「良くない! 黒澤さんならかーるく100枚は連射で割り続けるわよ」
「ミス巳恩。50枚も撃てば腕が疲れる筈です。ゲーム続行をするならするで少し休憩を挟まれては?」
頬を膨らませる巳恩に諸星が機嫌を取る様にスポーツドリンクを渡せばごくごくと飲む
「銃の重さと年齢を考えれば見事ですよ。 国際大会だって、女子は40枚という規定があるんですから、40枚割れればジュニアオリンピックで文句なくメダルがとれますよ。」
「男子は50枚だもん」
「男と女では体格も腕力も違います。」
宥めるようにいうインストラクター。
頬を膨らませる巳恩
耳を覆う黒いヘッドホンには銀色の狼がペイントされている。
「―… そうだわ!」
ポン、と瞳を輝かせる巳恩
「諸星! 勝負しましょ!」
「―… は?」
「黒澤さんが諸星も射撃をするって言ってたわ! 腕前を見せて。 中々の技術だって言ってたもの」
「いっ…」
「ほぉー。 諸星のお兄はんはクレーをするんかいな?」
「い、いや、俺は」
「射撃をしなきゃできないタコが手のひらにできてるでしょ? それに、私の蹴りを避けて、あれだけ鍛えている躰なんだから、できない、なんて言い訳は聞かないわ」
「―… ミス・巳恩」
「子供の私にここまで言われて、出来ませんなんて い・わ・な・い・ わよねぇ?」
ニッコニッコと微笑む巳恩の背中に黒く艶やかな翼が見える
「俺はここの会員じゃありませんし。銃も持っていません」
「そんなの! 藤代おじさまか恭介兄さんの紹介でゲストパス作れば問題ないわ。おじ様か恭介兄さんの銃で良ければ借りればいいし、会わないようなレンタルもあるわ」
「ミス巳恩 俺の仕事は貴女が京都にいる間の護衛です。」
「だったら、尚更よ!! 護衛の腕前を知るのは雇い主といては当然。 黒澤さんから、そろそろ、お気に入りを1人2人見つけておけと云われているし。 間違いとはいえ一夜を共にしたんだから、諸星には私のツバメさんになる権利があるわ」
「ツバメ…」
「それとも愛人って呼び方がいい?」
じりじりと追い詰められ、諸星はがっくしと肩を落とす。
「ふふっ! 決まりね! 受付でゲストメンバーの紹介状貰ってくる!」
「ミス巳恩!」
ルン、と頭の上に音符マークを付けて、背中に黒い翼とお尻に黒い尻尾を―… 勿論幻視だとは解っているが、―… 走って行く巳恩をみて、頭をかかえる諸星と、そんな諸星を見て恭介がクックッと喉を鳴らして笑う。
「諦めた方がいいようですよ。諸星さん」
恭介が同情するように云う
「巳恩には甘える事ができる対象があまりにも少なすぎる。大好きな父親は殺され、母親の事は写真でしか知らない。 スイスでは大人に混じっていつも医学の事ばかり。 タマに日本に来ても黒澤氏はタイミングが悪いと今回のように傍にいられない。 」
「―… 恭介、さん」
「口は悪いけど、本当は寂しがりやなんですよ。巳恩は」
「―… 巳恩は甘える、という事をせぇへんからな。」
「えぇ。今回のように命令口調で頼む事はありますけど、嫌いな人間にはそれすらしませんから」
「クレーを始めたのは厳はんが上手だったから、だったなぁ」
「留学中に黒澤さんが教えたって言ってましたね」
「黒澤はんは厳はんと同じ狩猟グループの後輩でもあったって云うとったな」
「黒澤氏が… 有間博士の後輩?」
「たまたま知り合ったらしいんやけどな。巳恩も随分と懐いてその縁もあって黒澤氏が後見人として引き取ったらしいんや。 藤代で引き取ってもええ、と打診はしたんやが、留学の話も決まってたさかい、丁重に断られ― 「 おじ様! おじ様! クラブのオーナーから紹介状の用紙を貰ってきたわ! 住所とサインして」
「はいはい。巳恩の頼みならサインの10枚や20枚書いてやるで ―… まぁ、今日の所はお姫様に屈して諦めるんやな。」
藤代は巳恩に強請れる事が嬉しいのか、いそいそと向かう
「全く。 父さんは巳恩に甘いんだから」
「俺からみたら、恭介さんも綾乃さんも甘いと思うが」
「否定は、できませんね」
諸星に言われて恭介はコホン、と空咳をする
「僕らは、祇園という土地柄、父が踊りの宗家で先祖に芸舞妓もいる事から、小さな時から芸事を習いました。先日、諸星さんが見た歌舞伎の人達も小さな頃から芸事一般仕込まれます。 それは巳恩には教えられなかった事です。 だから、自分に分からない、できない事が出来る僕らに甘えて懐いて貰えた。 クレーもそうです。 最初は厳さんが父に教えて父が僕や妹たちに教えてくれた。 僕もお茶や笛以外に必死になってクレーを覚えて―… 今は純粋に楽しんでいますが、―… 覚えたのは、巳恩に甘えて貰える対象になる為。 あの子の1歳の祝いの時に初めて会って、あの頃の巳恩は、妹と同じ1歳の時よりもまだ小さくて壊れそうな位可愛くて、僕はそう決めたんです。 祇園で一番恰好良い兄になろう、 自慢して貰える兄になろうって」
「恭介、さんは、巳恩が好き、なのか?」
「恋愛対象ではありませんよ? 巳恩の心の中には黒澤氏が棲みすいている。 父親との繋がりよりも深い繋がりでしょうね。 最も時々、背中に黒い翼と先の尖った尻尾が見える小悪魔天使ににみえたりしますが。 でも見えた時はとてもご機嫌な時だけなんですよね」
「くっ… 小悪魔天使か。 あながち嘘じゃないと思うぞ。 俺にもさっき、黒い羽と尻尾が見えたからな」
恭介と諸星は顔を見合わせて苦笑する
テーブルの上で藤代に書類を書いて貰ってスタッフと楽しそうに話している姿は年相応だ
「諸星、諸星っ!」
パタパタとバインダーに挟んだ書類を持って駆けてくる。
「はいっ! 此れに、住所氏名年齢、電話その他諸々書き込んで頂戴! あ、銃の所持登録番号ばわかればそれも!」
「至れり尽くせりで恐縮だ」
諸星は何度目かの溜息を付いて書類に目を通して記入をしていく。
(手抜きをしたらバレるだろうし、かと云って13の子と本気で勝負する訳にもいかないし…)
と、なれば手段はひとつ。
自分と相性があわないレンタル銃を借りるしかない。
使い慣れている銃よりも軽い―… と、云ってもクレー用のレンタル銃なので愛用のショットガンと比べると殆ど軽いものばかりだったが―… を選び、弾は恭介の勧めに従って選び。
試し打ち。
パリン
「へぇ―‥‥」
見事に中央に当てる。
パリッ… パリン・パリン… パリッ
「ふーん…」
巳恩は口の端を上げるとスタッフに一言二言囁く。
ややあってスタッフがライフルを2丁運んでくる
「はい、ストップ! 諸星、銃を替えてみて」
「え?」
「技と自分に合わない銃を選んだでしょ?」
「―… 合わない銃、ですか」
「お前程の筋力持ってるならその銃は軽すぎよ。 もっとヘビー級の方がいいわ。 これになさい。 ハンティング用のベレッタ上下2連モデル。スタッフの個人持ちのだけど貸して貰ったわ。 弾はもう詰めてあるから気を付けて」
「―… 生憎 ベレッタは苦手なんだが」
「あらそうなの? 銃といえばイタリア・ベレッタ社かイタリア・ペラッツィ社でしょ? 後はブローニング社かアメリカ・レミントン社も。 ブローニングは刑事ドラマで良く使われるわよね。 私はライフルだとベレッタよりもレミントンの方が性が合って好きだけど。 黒澤さんとお父様はベレッタ派だったわ。 最も隠れた名器というのはあるでしょうから、探せばもっといいのがあるかもしれないわ。 でも、銃は選ぶものじゃなくて、銃が持ち手を選ぶものよ。」
「―… 良く知ってるな」
(レミントン、か。 俺と相性がいいのもレミントンだが―… 偶然、か?)
「射撃齧ってたら常識よ。 ちなみに普通の銃だとオーソドックスだけどS&Wかしら。 黒澤さんは普通の銃もベレッタなのよねー。 将来の妻としてはメーカーも合わせるべきかしら? ほら、そんな軽いの止めてこっちにして! なんなら諸星の手に会うのを買ってあげるから!」
「銃は易い買い物じゃないぞ」
「散弾銃の一つや二つ位なら買ってあげるわよ」
「はぁー…」
降参のばかりに手を上げた諸星に巳恩は銃を差し出す
「ほら、早く! 20枚にセットしたわ」
「姫の仰せの儘に」
パリンパリン…
軽快な音を立ててクレーを割る
(が、あまり疑われるのもなんだからな…)
だが、しっかりと自分を観察している3名の前で下手に手は抜けない。
業と掠っただけのも含めて、20枚を無難に撃った所で諸星はふっと力を抜いて銃を下した。
「見事ですね。 御庭番で終わらせるには勿体ない。 本気を出せば僕よりも良いスコアを出せるんじゃないですか?」
「そんな事はないだろう。 まぁ、確かにクレーの経験があるのは事実だが、大学で機械工学を専攻した流れで知っているだけの知識だ。」
「そうね。確かに良い腕をしてるわね。」
「機械工学…」
巳恩はにっこりと目を輝かす。
たらり、と背中に嫌な汗が流れる。
「父さん?」
「巳恩の台詞やないが4人でもう一勝負、やな」
「やった! 50枚セット追加ねっ ゲームの申し込みしてくるっ」
諸星はがっくしと肩を落とした
***
追記
クレー射撃に関しては3割程度がWebで調べて残りは捏造です。
本場のルールと可也違うと思いますのでご了承ください
色々と突っ込みたい規約もあると思いますが夢小説の世界でのルールだとスルーして下さると幸いです
***
28/30
prev next←銀の焔