Act-22 顔合わせ
諸星&巳恩 VS 藤代父息の2回戦対決は決着がつか無かった。
最初は藤代父息チームの勝ち。
一度50枚撃って腕が疲れている所為かはたまた年齢差か。
30枚目過ぎあたりから重心が狂いだした。

本気で勝負を挑んでいる巳恩をみて、諸星は、2回戦に挑む前の休憩時間に、僅かにぶれている体制を指摘してコンマミリ単位でずれてくる銃口と姿勢の向きの癖を直す。

「余り変わらないようだけどどう違うの?」
「趣味で続けるならそのままでいい。 20枚30枚程度ならな。 だが、もし、これからも続けるなら僅かなブレが勝敗を分ける。 重心を今より僅かに右に掛けろ。 ―… 掛け過ぎだ。 もう少し左に。 そうだ。 それならもっと命中率が上がる。 そのフォームを躰が覚えたら50枚程度なら、今よりも楽に正面をブチ割る事が出来る様になるし腕の疲れも減るだろう」
「続けるなら…?」
「そうだ。」

流石に少し疲れたのかコキコキと腕を回す巳恩の腕を取ると、一部の筋肉をほぐすようにマッサージをする。

「〜〜〜っ! 何するのよ、この馬鹿力! 」
「 少し我慢しろ。 どんなに鍛えても長時間同じ姿勢はキツイものがあるからな。ほぐして柔らかくしないと後半戦も負けるぞ」
「諸星は平気そうね。って! 負けるだなんて失礼な! 雇い主に向かって言う言葉じゃ無いわよねっ!」
「教えてやってるのは俺だろう?   ー…… ほら、少し解れただろ?」
「ー……… あ、ホントだ? 車にぶつかって打ち身で済んだ鉄人間だけ在って詳しいのね。 もしかして躰のドコにぶつかれば気絶だけで済むのはわかるの?」
「それは、誉めているのか貶してるのか?」
「あら、褒めているのよ。 日本に居るときは諸星を経穴マッサージで雇ってもいいわ」
「ー……… お庭番の方がまだマシだな」
「あら、Cランクが幹部候補生に逆らうの? 最もお前が明日、Bランクに昇格しても、階級の差は埋まらないわ。 外から入った構成員が幹部になった例は過去にも有るけど、上級幹部になる事は無いのだから。」
「俺はー…… 」
「どうしたの? 諸星の替わりなんて星の数ほどいるわよ? お前を処分するのは簡単だけど、それではお前の目的は達せない。」
(ー…!)

諸星の心を読んだ様な言い方。

「俺は、いえ、自分はまだ50枚しか割っていませんから。1回戦は向こうの勝ちでしたが、ミス巳恩の性格を考えると2回戦は負ける訳にはいかないでしょう? 後半戦は勝ち取って貰わないと」
「本気で言ってる? おじ様も恭介兄さんもオリンピック選手並よ? 現に何度もクラブ主催の上級者限定の試合で優勝してるわ。 3位入賞は日常の腕前よ」
「お前ー……、いや、ミス巳恩は負ける気ですか」
「ー‥っ 負けるもんですかっ! 有間巳恩はね、天才外科医でクレーの名手でもあった有間厳の娘よ。こんなのでへこたれてたら外科医になって長時間の手術なんてつとまるもんですか」
「ふっ… なら、今度はこちらが貰う。向こうも本気だろうがこちらには若さがあるからな」
「若さ?」
「俺は藤代氏より若い、ミス巳恩は恭介さんより若い。 経験値よりも若さで勝負してみようじゃないか?」
「まぁ、理論ではあるわ。 なら、私達が勝ったら、最前の無礼な物言いは、聞かなかった事にしてあげる。 手抜きしたら承知しないわよ?」
「了解」


サングラスをしてガシャリ、とライフルを構える

「そうだ。その姿勢で撃ちぬけばいい。自分の目と手と風の流れを感覚で感じて信じろ。 プロの医者が手術前に悪い所が本能で分かるのと同じだ。 医者を目指しているならわかるだろ? 実験中に結果が成功するかしないかが見えて分かるのと同じだ。 女性と男性では骨格も体力も筋力も違う。ミス巳恩はまだ成長途中の女性だから、青年の恭介さんや宗家とは差があるからな。 100枚連射は無理だろうが、その姿勢なら軸がぶれても50枚なら十分当たる筈だ」
「ー… 確かに、恭介兄さんやおじ様と比べると筋力と身長の差はあるものね。 悔しいけど諸星の理論にも一理わるわ。
「だが、俺達は負けない、だろ?」
「当然でしょ! Are you ready?」
「Of course,Young lady」
「Then,We go」
「I understood 」


そして挑んだ後半戦は巳恩が軸ブレを起こさないのに気づいたのか、ほんの少し、恭介の軸がぶれてクレーに当たらなかった。

「勝った?」

カタカタと弾き出された結果に巳恩はぽかんとした顔を見せて諸星は口角を上げる。
(黒澤氏がクレーの基礎を教え込んだとしたら、大した教師だ。FBIアカデミーに入ったら射撃の訓練はいらないな。 そこらの捜査官レベルと比べても間違いなく巳恩の圧倒的勝利だ。)
「見事だったな。一寸だけ癖を指摘しただけだったが、一気にハイスコア更新したじゃないか」
「ハイ・スコア…? 恭介兄さんに初めて勝った?」
「あー… ははっ。 御免、父さん。巳恩の銃身が乱れないのに気が付いて気が緩んだ」
「ドアホ!」

藤代はゴン、と息子の頭に拳骨を与える
そしてぽかんとなったままの巳恩を抱き寄せての頭をぐりぐりと撫ぜる

「流石は藤代の末っ子や! ようやったな! 諸星の兄はんにアドバイスを貰ったら一気にスコアが伸びたやないか」
「おじさま?」
「お前の姿勢を直すのを簡単やったが、そういうのは躰で覚える事やからな。 黙ってたんや。 本気でやったらオリンピックでメダル総ざらいでもらえるようになるで」
「… 恭介兄さんに 勝った、のよね?」
「あぁ。 完敗したな。 見事だったよ巳恩。」

恭介が藤代から奪うように巳恩を抱き寄せてぐりぐりと撫でまわす

「ほーんと凄い面子でしたね」
クラブスタッフが関心した声でやって来る

「恭介さん、最後が少し残念でしたね。 ですが、2ゲームパーフェクトの証明書の申請が出来ます。 宗家はこのクラブ史上5人目の3ゲームパーフェクトの申請になります。 あと、巳恩お嬢さんは1回2回は、途中でスコア落ちたけど3回目がパーフェクト出したから初のパーフェクト賞を申請できますよ」
「ほ、ホント! パーフェクト賞の申請出せるの!? 」
「あぁ。 スイスに送ろうか?」
「ううん。いいの。 藤代のおじ様たちに預けるわ。 日本に戻ってきたら一緒に引き取る迄仏間に飾っておいて貰うから あ、今のスコア表頂戴!」
「分かりました。」

クラブ内にいたメンバーがパーフェクト総浚いの面々に拍手を送る

「Vaterに見せたかったな……」

巳恩はライフルを置いて小さく呟く

一番見せたかったジンは、海外数ヵ国でハンティングをしている最中でクリスマスまで会えない


「俺が、どうした?」

低い声が響いて巳恩は恭介の腕の中からパッと顔を上げる。

「Vater? ホントにVater!?「黒澤さん?」」
「腕を上げたじゃねーか、そこまでのスコアがだせたら俺のチームにも入れるぞ」
「ー…!!」

黒いスーツにグレーのハイネック。
さらさらと流れる銀髪は黒く染めている

「Vater! お帰りなさい!」

巳恩は恭介の腕の中から飛び出ると長身の男めがけて駆け寄った。

「クリスマスまで会えないと思ってた」
「たまたまだ。 予定よりも早く仕事が済んだ。飛行場からおまえの携帯に電話したらつながらず、鈴乃屋に電話をしたらクレー射撃に行ったと聞いてな。ヘリを飛ばせてきた」
「ヘリ? ここら辺に停められた?」
「忘れたのか? ここの屋上は緊急時に救助ヘリを停められる」
「あ、そうか。 万一の事故に備えてDrヘリが止められる屋上ヘリポートがあったんだわ」

黒澤、と呼ばれた男はスタッフから借りたライフルを肩に下げている諸星をみて、藤代と恭介を見る

「宗家、恭介、巳恩が世話になって居るな。」
「お帰りやす、黒澤はん。 気にすることはないで。巳恩は藤代の末っ子や。迷惑とはこれっぽちも思ってないで」
「お帰りなさい、黒澤さん。 父さんのいう通りですよ。巳恩はいつも頑張ってますからね。珠に京都に遊びにきた時位構ってやる位どうってことありません」
「ふっ… そうか」

黒澤は最後に諸星を見る

「貴様が諸星大、か。 巳恩から連絡を受けている。あのシェリーの姉でありながらCランクの評価ももらえねぇ下っ端と付き合っている男、だと」
「―… 云い方に語弊がある気もしますが。」

諸星は軽い溜息を吐く。

「諸星大、です。 ミス巳恩は流石、有間博士の血を引いているだけあって、とても優秀なお嬢さんです。クレーの技術も見事なものです。 基礎を教えたのは後見人である黒澤さん、ですか?」
「合気道もクレーも俺が一から基礎を叩き込んだ。分解掃除から何から何までな」

ごろごろと、尻尾があったらぶんぶんと振っているのではないかとおもう位に頬を緩めて黒澤に抱き着いている巳恩をみると、余程信頼関係があり、可愛がって貰っているのだろう。

「流石に汗だらけになってるじゃねーか。 シャワーあびて着替えてこい。昼を食ったらヘリで東都に帰るぞ」
「うん! って駄目駄目!! レディをお婿さんごと引き取らなきゃ! Vaterみたいに格好良いお婿さんを見つけてくれてラブラブ青春真っ盛りなのよ! あと、副玉が家においてあるの」
「レディの婿が決まったのはいいとして、福玉なんざ餓鬼の持ちもんだぞ レディはそれこそ、諸星につれてこさせりゃいいだろう?」
「福玉は諸星に持たせるんだから! 歌舞伎の御大2人と若手3人と豆乃姉さんと綾乃姉さんに貰ったの! おじ様と恭介兄さん、茶屋の女将さんと髪結いの源さんからも貰ったのよ! 沢山貰ったから大きい福玉の1つは志保にあげて一緒に開けるの! 1つはスイスの学校のクリスマスプレゼントの交換パーティーに出すのよ」
「巳恩が以前から欲しがってましたからね。」
「そんなにほしかったなら先にいえ。 100や200位届けさせる」
「もう! 買って貰ったりご褒美に貰うからうれしいの! でもね、こうしてVaterがきてくれた事の方が嬉しい」
「あー、はいはい。ご馳走様。でも巳恩が一番喜んだのは福玉じゃないんですよ」

恭介が笑う。

「ならなんだ?」
「ぇ…ぇっとね、」

舞妓姿で簪に直筆サインを貰った事、なんていえばまた餓鬼の戯れだといわれそうで巳恩はもじもじと黙り込む

「なんだ? 珍しく歯切れが悪いな」
「一番喜んだのは歌舞伎の御大方からの簪へのサインですよ」
「あっ! あの簪は永久保存だもの!  お父様が愛用していた手術用のメスと一緒にスイス銀行に預けても良い位だわ。ホント、プロ中のプロはオーラが違う… てで、でもっ 黒澤のVaterは一緒じゃなかったし。 Vaterに舞いを見せる事なくてほっとしたけど、けど、でも簪は嬉しいし、えっと…」
「彼等は梨園の御意見番だからね。 祇園で太刀打ち出来るとしたら父さん位だよ。」
「そうか。 お前の贔屓の歌舞伎役者と茶屋遊びか」
「ン… 下手っぴな舞をみせちゃったけど…」
「おいおい、あの御大に養子にとまで言われてそこまで謙遜はないやろう? ま、それだけ見事な舞ができたっちゅー事や。さすがは黒澤さんが後見をしてくれてるだけあって舞のセンスも銃のセンスもええって事や」
「もともと、歌舞伎は餓鬼の頃から好きだったからな。いい経験になっただろ」
「うん! でもね、私はやっぱりVaterとダンスをする方が好き。」
「そうか」

ジンはご機嫌な巳恩をみてくしゃりと頭を撫でて微かに頬を緩める

「ほら、さっさと風呂に入ってさっぱりしてこい。 明日、レディを引き取ったらとっとと帰るぞ」
「うん!」

パタパタと女性用のロッカー室に駆けて行く巳恩

「ミス巳恩から散々黒澤さんの事は聞かされましたが、貴方もミス巳恩が可愛いようですね。」
「はん。 出来の悪い子ほどかわいいってな。 まだまだ餓鬼だ。 だが、俺が出した18迄に医大を卒業しろという条件を4年も縮めたのは流石はあの有間の血を引く娘ではあるな」
「あの、とは?」
「知らないのか? 有間医師は19歳で心臓と脳外科の若手と呼ばれた天才医師だぞ?巳恩もその血を引いて餓鬼の頃から医学を学んでいる。卒業こそしてねぇが盲腸程度ならこなすだろうな。」
「まだ13で、そこまで?」
「お前は阿呆か? 巳恩は来年総代で卒業予定だ。 博士号取得の為のレポートも間違いなく高評価されるだろう。1年程残って博士課程を修めないかという話もでている。スイスはDr有間と縁のある心臓外科の専門病院があるから巳恩も残りたい気はあるらしい。」
「ほな、来年戻って来ないんか?」
「巳恩次第だ。 あいつの才能はまだ伸びる。病院に押し込めるよりも興味のある分野を見極める時間をやってもいい。」
「そうですね。 祇園は巳恩の止まり木だ。 息抜きでゆっくりと遊べる場所であればいい」
「藤代には感謝してる。 たっぷり羽を伸ばして新学期が始まったらまた寝る時間なく研究室に籠るだろうな」
「卒業式が決まったら日程を教えてや。 藤代一家揃って謝恩会にいくさかいな。 私と恭介と綾乃と豆乃がいればどんな盛装もできるさかいな」
「分かった。出来が楽しみだ。」
「手は抜いておらんさかいな。 人間国宝級の職人に染めて貰って帯も日本刺繍で作って貰ってるさかい。 どこの美術館にでも飾れるようなものを仕立てみせるさかい」

(藤代は14の子の卒業式の盛装に、それだけのものを作れる家柄、という訳か)

諸星は小さな溜息を付く。

「諸星さん、僕らもそろそろ浴室に行きましょう。 巳恩に言われて着替え位持ってきてるのでしょう?」
「ぇ、えぇ。まあ」
「諸星」
「はい」
「ライフルをよこせ」
「これは借りたもので―… 返すものですが」
「借りモンなら銃身を少し綺麗にしてから返すのが礼儀だろう。俺がやっとく」
「ですが」
「なにか問題でもあるか?」
「いえ。」
「恭介、お前のライフルと宗家のライフルもだ。」
「すいません。鍵は賭けてあります」
「承知」

諸星はそれ以上逆らえずライフルバックを黒澤に渡した。
29/30
prev  next
←銀の焔