氷壁の姫 Act-01 訪問
「相変わらずのセキュリティだ…」
降りしきる雨の中、キャメルの運転するセダンから降りた赤井は感嘆したように呟く
「何もないようだけど?」
「まぁ、お前たちは知らないだろうがな、有間邸は360度の監視システムがある。 組織が壊滅した今、どこまで機能しているかは分からないが、俺達の事は見ているだろう」
「だから、野放しにするなと云ったのに」
「俺達は俺達でこの有間邸を別カメラで監視してるだろ。お互い様だ。それに、勤務先の病院の話では巳恩はこの2日程体調不良で休んでいるから家にいる筈だ」
「そうなの?」
「電話して確認を取った。組織壊滅時に後見人の黒澤陣を行方不明リスト、まぁ、実際は逃亡だが、―… 偶々掃討現場近くにいあわせた巳恩を探しに来て、組織に人質にとられ行方不明となった人のリストにのせた。 俺としてはかなり不本意だったが、そうしなければ巳恩を守れなかったからな。 巳恩を探して殺害されたかも知れないというリストのメンバーに黒澤陣を入れた。 病院サイドもそれを信じてるんだろう。 実際、後見人である黒澤氏が行方不明になってから、休みらしい休みを取らずに若さに任せて徹夜シフトを入れて、ろくに止んで無かった疲れがあるんじゃないかと、院長命令で2週間の休暇にしたそうだ。」
「そんな事ができるの?」
「JRHは元々は巳恩の父親―… 厳さんが育てていた総合病院だからな。 天才外科医有間厳が常勤しているという事で沢山の患者が訪れていた。 手術で世界を飛び回っていたが、月に1週間は勤務していて、その間の予約は朝から晩まで待合室がサウナになる程だったという。 その娘が研修医として戻ってきた、というので連日予約が増えて来たらしい。病院長も巳恩が赤ん坊の頃を良く知っている。」
「良く知ってるわね」
「まぁ、色々と聞いてるから、な」
「でもまぁ、父親が育てた病院というのなら、親の7光 ―…「キャメル!」」
キャメルの言葉を赤井が鋭い言葉で遮る
「巳恩は7光でインターンになったんじゃないし、7光のインターンを受け入れるような病院じゃない。 スイスにある世界でもトップレベルの医学部を14で卒業して医学博士号まで取得したんだ。 学歴に関して侮辱するような言葉は俺が許さない」
「すっ すいません…」
キャメルが大きな躰を小さくして謝る
赤井は正門の所のインターホンを鳴らした。
が、返事はない
「留守、なんじゃない?」
「いや、邸宅の中にいる筈だ。駐車場にハーレーとジャガーが置いてある。」
「でも、日本では運転出来ないでしょう?」
「巳恩は海外国籍で免許を取って、日本の許可も得ているからな。運転自体は問題無い。 ジャガーは厳兄さんー…… 父親の形見だからとても大切にしている。バイクはジンが買い与えたものだが。」
「あんな細い躰でハーレーに乗るんですか?」
「あぁ。中々と見事な運転技術だぞ」
「へぇ。 見てみたいですね」
「俺は一度だけ見た。 志保と楽しそうに飛ばしてたな。 二人とも、あんな細い身体で良くまぁ、大型ハーレーを操れるものだと感心したよ」
「志保ちゃんもハーレーに乗ってるの?」
「メインはバイクだが車も運転できるぞ。 年齢的にバイクの方が早く免許を取れるから二人ともバイクの方になれているんだろう。 車よりも小回りの効く所が気に入っていると聞いた事を覚えている」
「そう。」
赤井は思い出すように目を閉じる
「あの日―…、明美にあの話をしたあの時、俺は、明美をセーフハウスに連れて行き、問答無用で証人保護にかけるべきだった。そうすれば、ジンに殺されるような最悪の事には無かった筈だ。 俺の、ミスだ」
「赤井さん」
「明美が無事だったら、志保の協力は得やすかっただろうな。 おそらく、組織内部の機密情報も、巳恩の保護も、もっと安易に出来ただろう。 最も俺は、巳恩が、後見人であり親代わりでもあったジンを慕い愛していたのを、―… まぁ、偶然の産物なんだが、潜入していた時に知った。 最も明美が無事だったとして、志保に説得させたとしても簡単には首を縦に振らなかっただろうがな。」
「苦労したものね。 この家の研究室で解毒剤を作る相談を持ち掛けた時も。」
「それは仕方ない。阿笠邸の研究室はあくまでも個人レベル。 この家の研究室は薬剤も調合システムも専門家のものだった。 阿笠さんには薬品の購入権限がない。志保は必要最小限の薬剤しか使えなかった。宮野志保と有間巳恩は薬品の取り寄せ許可を持つ専門医だったが、灰原哀の姿では薬品の購入は出来なかった。」
ジョディは溜息を付いた。
「つったくいるならさっさと出てきなさいよ!この雨の中で向いてきたのにっ「ジョディ!」」
ガンッと門を蹴り上げたジョディを赤井は咎める
「俺は、巳恩と喧嘩をする為に来たんじゃない。雨位でで我慢できないならとっとと帰れ! 邪魔だ」
「っ… いるわよ! 我慢するわよ!! 仕事・で・す・か・ら!」
「なら、黙って立ってろ」
赤井は濡れるのも構わず壁に寄りかかると腕を組んだ
「はぁー… にしても、有間巳恩がシュウの従姉の娘だったなんてショックだわ… しかもあの世界的権威の天才医師の有間博士が実際は組織の幹部でRUMと同じくNo2レベルの幹部だったなんて」
「全くです。」
ジョディの言葉にキャメルも頷いた。
(俺は、俺の意志で巳恩の傍に居たい。 世界中の人間を敵に回したとしても、例え巳恩の愛した男が明美を殺した奴だったしても)
赤井は邸の何処かで自分達を見ているであろう少女の事を思った。
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