氷壁の姫 Act-06 知識と覚悟
巳恩から時間を貰って赤井と工藤優作と工藤有希子と新一と妙に静かになった気まずい時、場の雰囲気を変えるように阿笠が、大量のケーキと供にやってきた。
「あの儘すぐに帰ったんじゃねーのか」
阿笠の持ってきた珈琲豆で淹れた珈琲を飲み、ケーキを口に運びながらコナンは新一の言葉使いで云う
「極上の良い豆を買っておいたんじゃが、珈琲は刺激的とかでの…… 一口も飲まずに比護さんのサインだけもって行ったわい」
「よく取りに行く時間をもぎ取ったな。あのままさっさと帰ったと思ってた」
「Dr有間にはご贔屓の歌舞伎役者がいるようでの。 志保君の気持ちも分かると云っておった」
「アイドルとかスポーツ選手じゃなくて、歌舞伎? また年寄りくせー…「新一!/コナンちゃん!」」
年より臭いと言いかけて有希子と優作が睨み付ける。
「歌舞伎はアイドルよりも歴史の長い文化財の一つなのよ!」
「ごめんなさーい…」
「都合が悪い時だけ子供になるのはどうかと思うがな。 だが、歌舞伎が好きだとは良い趣味じゃないか? 殺さ―… 失礼、亡くなった有間博士の趣味も確か歌舞伎だったと聞いた記憶がある。」
「そうなの? 日本の文化財のようなお能や香道がお好きだというのはニュースで聴いた事があったけど、歌舞伎は記憶が抜けてるわ」
「ナイトバロンの構想に煮詰まった時に参考になればと医学界の講演に通いつめた頃だったが講演後のレセプションに招待して貰った時に偶々お話する機会があってね」
「あぁ! ウキウキと帰って来て、有間博士とのおかげでナイトバロンの構想が出来上がったと云ってた時?」
「博士のご両親が―… 事故で無くなられているんだが、母方が京都の祇園の血を引いてるかでその影響で歌舞伎が好きになったのかもしれないと笑っていたが。 娘が医者になりたいと言い出して将来のライバル出現かもしれないと頬を緩めておられたな。だが、習わしているのはダンスやハープ、乗馬とかで日本の文化財とは縁遠いと笑っておられたよ」
「そうそう。とっても頭が良くて幼稚園は行かずに家庭教師を付けていると云ってたわよね」
「―… 6歳か7歳になったらご自分が卒業した医大のあるスイスに留学させるとか言ってたが留学目前にあの事故だった。 今となっては何故亡くなったのか理解してるが、当時は私も犯人を捜したいと思っていたよ。 毛利君に変装までして有間邸に伺ったが、あっさりと変装を見破られた」
「随分凹んでたわよねー」
「そうゆう有希子もショックをうけてたな」
「だぁーって盗一さんから教えて貰った変装なのよ? 私は盗一さんの変装を可也長い間、見破る事は出来なった。それなのに1回で見破ったんだからそりゃあショックだったわよ」
コナンはと、ある事件に巳恩がジン・デイジーと知らずに巻き込んだ時、自分には喋れないイタリア語やフランス語を流暢に使い分けで怪我人を見て、オタオタしてるスタッフに適格な指示を飛ばしていた事を思い出した。
その時、巳恩はどこの帰りか分からないが着物姿で風呂敷に荷物を包むという見事に日本人らしい姿だったが、迷う事なく袖を破り包帯代わりに切り裂いた。
草履を脱ぎ捨てて着物が汚れ、血がついても気にする事なく、近場で立ち往生している人を呼びつけて大怪我をして腕を押さえている人を、頭が血を流して動けない人が多くいる場所にいる場所に呼び寄せる
「お、おねーさん。着物が! そ、それにおねーさん、お医者さんじゃないでしょう?」
「私はこれでもスイスの医学部を卒業してるの! インターンだけど医者は医者よ! 邪魔よ! 役立たずはおどき!! これは正絹だから怪我した所を押さえるのに使えるわ! 肌襦袢はカーゼだけど、流石に躰に当たってる部分は衛生上使えないけど袖の部分は使えるわ。 着物はいつでも買えるけど、命は買えないでしょう!」
「で、でも!」
コナンの言葉に袖を破り乍答える巳恩
「でもじゃない! 怪我人は医者の領域よ! 退きなさい! そこ! スマホで画像向ける暇があるならフラフラしてないでこの人の腕の上腕をしばって上に持ち上げて! アンタはこっち! 頭を固定して傷を押さえて! そっちは出血は酷いけど止血して舐めれば治る程度よ! お母さんたちは自分の子供を連れて離れる! 外野はどいて!! 誰でもいいからそこらの喫茶店を駆けまわって水とタオルと氷と塩をかき集めて来て!! 薬局あったら精製水とガーゼと包帯と消毒薬!! AEDがあったらAEDもよ! そこのおじさん! ぼっとしないで救急車の通り道を確保して!! 火がくすぶってる所に塩をまいて! 」
ぐうの言葉を言わさない指示を飛ばして、買ったばかりのタオルを持ってる人やブラウスを差しだす買い物客に喫茶とコンビニに駆けて行く外野。
重症患者を軽症患者をより分けでスマホで複数の病院と連絡をとり、救急隊に伝える。
その時、灰原も一緒に居て、二人の連携は見事だった。
医学的知識の欠片もないコナンと他の探偵団の子供達も灰原に医学知識があるのは知らなかったらしく手が出せない。
巳恩の医学知識の片鱗をみたあの日。
自分の判断の甘さから大事故につながるのを偶々、居合わせた巳恩が救ってくれた
(あの時、散々灰原に怒られたんだよな… 後先考えずに逮捕する事しか考えていた俺を。蘭が近くにいたから蘭を守ろうとして違う方に誘導した所為で、犯人は石油コンビナートに逃げ込んだ。)
死者が出なかったのが幸いで、それでも一部の事務所が爆発をして近くの住民を巻き込んだ。
巳恩があの場に居なければ死者がでたかもしれないと後から聞いてコナンは暫くの間落ち込んだのを思い出した。
「歌舞伎、か―…」
赤井は京都に付き合わされた時。
歌舞伎の歌の字も知らない明美と諸星を散々貶して舞妓の服の違いを説明した事があった。
舞妓の姿で茶屋遊びをして歌舞伎界の大御所に差していた簪にサインを貰って、福玉やお小遣いを貰って嬉しそうには頬を染めていたのを思い出す。
クレーでパーフェクトスコアを出した時よりも喜んでいた。
あの時の年相応の微笑み。
福玉よりもクレー射撃のスコア更新の時よりも―…
舞妓をしていたあの子たちは襟替えが決まったと云っていたから今では芸妓となって祇園で舞をしているのだろう。
その子たちから貰った簪を自分が貰った訳じゃないのにとても喜んでいた。
「確かに巳恩は歌舞伎の御大と呼ばれていた人の前では手術に挑む時のように目を輝かしていた。 ボウヤが推理小説家のサインを貰って嬉しいのと同じだよ」
「ん〜〜〜 わからねぇよ。あんな奴」
「ボウヤには分からない事だ。 だが俺は、あの子を知ってる、からな」
「赤井さん…」
「新一」
頸を傾げるコナンに阿笠が言う。
「お前がいう程、冷たい子ではないと思うぞ。」
「博士?」
「恐らく、優しいという感情を表に出すのがとても下手なんじゃ。ダイヤよりも固い殻に優しいという感情を押し込んでいるのじゃろうて」
「―… けど、なぁ」
コナンは灰皿に残る硫酸をかけられた煙草の残骸を見る
「あんとき、本気で硫酸をかけたと思ったんだぞ!」
「それでも私の息子か。情けない。」
「へ?」
「Dr有間はアンプルを3本取り出したが最初の2本は何も考えずにテーブルに置いた。煙草に掛けたアンプルはテーブルに置かずに手にもっていた。 アンプルはとても割れやすいから万一を考えてテーブルに置かなかったんだと思うよ」
「親父?」
「ボウヤが騙されたアンプルの扱いかた。 無造作に投げたけどアンプルの先を切って、投げる事もできたはず。」
「赤井さん」
「つまり、お前の観察力は未だにそのレベルという事だ。 沢山の事件を解決して天狗になるのはいい加減に卒業する事だな」
「―… 俺は探偵に向いてねぇって事か」
「私の名や阿笠さんの発明、スケボーとかを使わずに解明した事件の件数はいくつある?」
「―… そ、それは 躰がちっせぇから」
「工藤新一だった時、私の名前を随分使ったな?」
「それは学生じゃあ現場にはいれねぇから」
「ならば新一。身体が元に戻ってから、私の名前を使わず、阿笠博士の発明品を一切使わず、自分だけの推理で事件を解決すると誓えるか」
「… ゆ、優作君、それは」
「勿論、盗聴やGPSが必要な時は自分で稼いだ金で買う事。法律的にも素人の盗聴は禁止さいれている。 今まで見たく阿笠さんに作って貰うとかはなしだ。 大人に戻って、高校生を続けて、成績はクラスで5番以内をキープして、事件を解決するという事が大学を卒業するまでできるか?」
「―…… そうね。 今まで散々甘やかしてたけど、2DK位のマンション買ってそこでお洗濯とか料理とかすべて一人で経験するといいのかもしれないわ」
「本気かよ!」
「大学卒業までは家賃と水道光熱費は払ってやる。 食費は月に10万程度でいいだろう高卒迄は15万出してやる。今迄どれ程恵まれていたのかわかる筈だ。 これまで充分、私の名前を使って工藤新一の名前を売った筈だ」
「は?」
「元々大学になったら独り暮らしをさせる予定だったからな。」
「そうね。 何時までも親係りは良くないわ」
「ちょ! ちょっと待てよ! 家が有るのにどうして独り暮らしの話が出てくるんだよ。 俺、料理できねーっての!」
「大丈夫よ。 炊飯器と冷蔵庫、電子レンジはちゃんと買ってあげる。 お湯いれるだけのお味噌汁も沢山用意しといてあげるわ。 あとレトルトのカレーやシチューとかも! 困った時のインターネットでググれば、簡単料理は山のようにヒットするわ」
「お米は無洗米の方がいいだろうな」
「そうね。洗剤で洗いそうだから、水入れてスイッチポンの無洗米にしましょ!」
だらだらと汗をかくコナン
「だああああああ!! もう! わかーった!!わかったよ! 俺が有間巳恩に謝ればいいだろ!! 頭さげて治療を頼めばいいんだろ!」
「「当たり前 / でしょう!」」
ダブルで云われて小さくなるコナン
「どちらにせよ、マンションを一つ見つけておいたほうがいいだろうな。 出席日数不足で、3年生には進級出来ないだろうから、まずは小さなアパートを借りておためし期間でも」
「俺が出席できなかったのは事故の所為で俺の所為じゃねーっての! 親父が一声学校に話してくれたら進級テストを受ける特別措置位で進級できるだろ!!」
「そうねぇ。 ちゃんと独りで暮らせるだけの生活力付けないと何時までもおんぶ抱っこはねぇ。 大学生にもなって掃除もできなきゃそれこそ 推理しか出来ない親の7光っていわれるのが落ちだもの。」
「高校生にもなって私の名を使って現場に顔を突っ込むのもな……… 恥ずかしくないのか」
「だったら他の高校に編入を!」
「自分で学費を捻出するなら構わんが」
「だったら高卒認定の試験うけりゃいいだけで!」
「自分の好奇心に負けるような息子に出す試験費用はない」
コナン=新一の意見は聞かずにあーだこーだと話を進める優作と有希子。
「大人に戻ったら戻ったで中々と波乱万丈になりそうだな、新一君」
「まぁ、制服はクリーニングにだしゃいいし、食事は顔馴染みのホテルで食えば支払いは親父の請求にいくだろ? 昼飯は蘭にいえば作ってくれるだろうからなんとかなるだろ。掃除だって、蘭に頼むかカード支払いでハウスクリーニングを使えばー…… 「新一!/新ちゃん!」」
「いっておくが、クリーニングもレストランも10万の中からだすんだぞ。お前に渡したファミリーカードは回収する。ホテルの支配人にもきっちり代金を請求摩るように連絡を入れるからな」
「ぇー……… マジか」
「博士にもいっておきます。 この馬鹿息子の世話をしないように。」
「蘭ちゃんには私から絶対に手を出さないように言っておくわ」
「わ、わかった」
「私達に内緒、も無しよ。 ドッキリで顔見せするから覚悟しといてね」
「赤井君は独り暮らしは大学生からだったかい?」
「いえ、高校生から寮に。何しろ留学でしたので」
「そうだったわね。 新ちゃんよりもよっぽどしっかりしてたもの。」
「ですが、ルナ姉と厳兄さんに随分と助けて貰ったのも事実ですが」
「そうなの?」
「何しろあの母親なので。高校と大学時代はバイトの掛け持ちとスポーツと、単位取得で終わりました」
「メアリーは雌獅子ですもんね。 新ちゃんなら100%ドロップアウトしてたわ」
「ー………」
確かに事実だろうと想定出来るだけにコナンは小さくなる
小さな事件でも工藤優作の息子がトリックを見破ったという事で新聞が書き立てる。
流石は工藤優作の息子だと誉める
工藤新一、という個人を認めているのは一部の人で大多数は世界的に有名な推理作家の工藤優作と天才女優の藤嶺有希子の息子だから解けて当たり前、という人も多い。
工藤の名前から離れたら、探偵を続けたくても、謎が解けても誉めては貰えない。
「巳恩は小さい時からお父様の片腕になる、というのが口癖だった。」
「そうなの?」
「京都の藤代さんから聞いた事だがな。 」
赤井はコナンに言う
「厳兄さんは親馬鹿だったらしくてね、産まれても居ないのに、女の子とわかった途端、おままごとやベビーベッドを特注して、早産だったが職権乱用で暇さえあれば顔見に行く程だった。」
「あらま」
「俺は、保育器の中のあの子を忘れる事は無い。 勿論、他の赤ん坊の事も。 健康優良児だった妹と違って小さくて、必死に生きようとしていたあの子を知ってる。 紅葉のような小さな手で俺の指を握ってきた時、俺はあの子を守る盾になるのだと決めたのだから」
「赤井さん………」
「あの子の父親を殺したのはFBIで、ジンをー…… 結果的には取り逃がしたが、追い詰めたのはこの俺だ。それは変わらぬ事実として、俺は一生恨まれ続けるだろう。」
「赤井さんは、恨まれ続けてもいいの?」
「構わない。俺は、その事実を背負いながら生きると決めたからな。」
「辛い選択ね……」
「それでも、巳恩を喪うよりはマシだからな…。 俺への恨みで生きる事を選んでくれるならそれでいい」
「赤井、さん…」
赤井はポケットを探り煙草を取り出そうとし硫酸の餌食になったのを思い出して苦笑すると立ち上がる。
「さて、俺はそろそろ失礼します。」
「もう? 夕食を一緒にと思っていたんだけど」
「有りがたいお言葉ですが、まだ少しやる事が残ってまして」
「やる事?」
「えぇ。 ボウヤが 薬を飲む気になった時の別荘の手配ですよ。 すでに何件かあるのですが、Dr有間のお気に召さない物件ばかりで。 やっとお眼鏡にかなう物件があったのですが、まだ本契約が終わってません。」
「馬鹿息子の所為で迷惑をかけるね、赤井君」
「新ちゃんが薬を飲まない特はどうなるの?」
「まだ仮契約です。それにFBIの権限で契約をしますから損はしません」
「そう? 違約金が発生したらこちらで払うから遠慮なく言って頂戴」
「最終的に決めるのは坊やー… 新一君ですから」
「今夜中に決めさせるよ。2回に分けるか1回の博打にでるかは新一の覚悟次第だがね」
「薬が無駄にならない事を祈りますが、後遺症とかの件も踏まえてよくよく考えた方がいい。 だが、この儘成長したら視力が少しずつ低下して好きな推理小説が拡大鏡なしで読めなくなるという事実だけは忘れるなよ。 恐らく車の免許も取得できない程定低下するだろう」
「! う… うん。 わかった」
コナンは顔を引きつらせる。
(大人になって、宮野を引き留めてパートナーに出来れば、東洋一の探偵になる事が出来る。)
(蘭は幼馴染で、大切な存在だけど、パートナーにするには知識が足りない。 ホームズにはワトソンが必要で、ワトソンになれるのは灰原で)
けれど、それは叶わぬ夢と消えるのだろう、と新一は思った。
子供の躰でいるのを選んでも、大人に戻るのを選んでも、灰原哀も宮野志保もパートナーにする事はできない。
子供の姿でいて後々視力が落ちてくるのを戦々恐々と待つ位なら―… 残る道は一つ
(俺はー…)
「赤井さん、待って!!」
コナンは居間のソファから立ち上がるとバタバタと赤井の後を追うように駆けて行く。
「どうやら、返事は決まったようだが」
「そうね。 着替えとかの支度が必要になりそうだわ」
「連絡は明日の23時でもいいんだから、とりあえず、今日は何も考えずに新ちゃんを真ん中にして親子3名で川の字で寝るのはどうかしら?」
「それは面白いな。 新一がどんな反応をするかどうか楽しみだ」
クスクスと笑う有希子
「博士」
「ん?」
「以前赤井君が棲んでいた木馬荘が、今は小さなマンションになっていて丁度空き部屋が一つあった筈です。 リハビリ後はそこのマンションを半年ほど借りて学校と病院への往復をさせようとおもうのですが、週2回程なら博士の家に行く事を黙認しようと思います。」
「もし、新ちゃんが腹減った〜〜 ってこっそり裏口からきたりしたら私たちは知らない事にして止めて上げて下さい」
「勿論じゃ! 志保君と同じで刺激物は厳禁じゃろうが、今まで作っておったレシピが残っておるからの!」
「新一の躰が安定するまで、暫くはここにとどまりますから、くれぐれも、内密に願いますよ」
「あぁ、解っておる! こっそり、とじゃな」
阿笠は優作と有希子の言葉にやっと、笑みを見せた。
リビングから外をみればマスタングに乗り込もうとした赤井を捕まえて何事かを必死に説明しているコナン。
赤井は黙って聞いていたがややあってコナンの頭をくしゃりと撫ぜるとそのまま車に乗り込んだ。
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