氷壁の姫 Act-07 別荘
コナン=新一が薬を服用する、と決めてからは早かった。

今度こそはと赤井が下見で見つけた別荘のデータと近隣の情報を確認した巳恩は何処かへ連絡を取った後、優作たちに連絡を取り、翌月曜から治療を開始すると宣言をした。
毛利蘭と小五郎には、有希子が江戸川文代となり、やっと海外で引き取れる状況になったからと丁寧に頭を下げ小学校に挨拶に行く。
担当の小林は可也驚いていたが、実の両親と暮らせるようになったのはいい事だと、喜んでくれた。
あたふたとしたクラスでの挨拶に歩美たちはショックを受けたが、自分達が親と離れて暮らしていたらどう思うかと小林に諭されて、翌日が土曜だった事もあって急遽お別れ会をする事が決定。
さすがに断る事は出来ずに沢山の玩具やお手紙を貰った。
最後は歩美が大泣きして、流石のコナンも心の中で謝り、アメリカで落ち着いたら連絡をすると約束をして小学校を後にした。

そして月曜。

指定された別荘は東都から北の方に向って郊外に出た別荘地帯。
こんな所で治療ができるのかと思っていたら、巳恩のバックに控えている白の組織が機材一式運び込んでいつでも治療に入れる状態となっていた。


「来たわね、坊や」

ファイルを片手に長い髪をきっちりとアップに纏め白衣を纏った巳恩と、同じく白衣姿の志保が出迎える。

「あぁ。 親父と母さんときっちり話して覚悟を決めた、 コナンの躰で何時視力が低下するのかビクビクするより、大人になって子供ができにくい躰になったとしてもリスクを承知で俺はDr有間の治療を受ける。 俺の命ー…っつたら大袈裟かもしれねーが、まな板の鯉になる覚悟はできてっからな」
「OK。 ならば私は医者として最善を尽くす事を約束するわ。リハビリ先の病院も理学療法士と栄養士も手配済みよ。 まずは治療承諾書に正式にサインを。あとご両親もサインをお願いします。」
「あぁ。 ってどっちの名前だ?」
「工藤新一の方でお願いするわ。 コナンはあと数時間で居なくなるのだから」
「そうだな」
「志保。工藤君を病室へご案内して。念のため腎臓機能と血液・尿検査もね。それから治療室で点滴を始めて頂戴。 結果次第で解毒剤の投与を始めるわ。 赤井、工藤君のご両親をお部屋にご案内して、それから応接間へ。 私は薬剤の最終確認をしてから治療後のリハビリを説明をしに伺うから」
「はい、Dr。 工藤君、こっちよ」
「分かった。」
「了解。 優作さん、有紀子さん、狭い部屋の御用意ですいませんが此方へ。 東側は治療フロアなので、カーテンから先は両手消毒して、マスクを付けてから入ってください。」
「わかった」
「君にも迷惑をかけるね」
「俺は、巳恩―… Drが提示した治療に相応しい別荘を探しまくっただけですよ。 此所から先は医者の領域です」

部屋から応接に移って少し経つとノックの音がして巳恩が姿を見せる。

「あと15分位で検査結果がでます。 治療に掛かって1時間後位から痛みが出て来て、その痛みは持続的に全身の神経をくまなく襲いますのでその事はご了承ください。 予定通りの時間に治療を始められたら明日の朝には大人の姿に戻っていきます。」
「傍についていても構わないかな?」
「勿論です。激痛を押さえる為の薬は最新の薬剤を投与しますが、最小限しか出せませんから両親がお傍にいる方がいいと思いますわ。」
「その痛みは何時まで続くの?」
「データ上は2日。 と言っても痛みは投与後1時間位から始まり、ピークは4時間から6時間ほど。その後は鈍痛が続きますが短ければ1日程。長くても2日後には収まります。」
「そう。」
「その後3日程は体力回復と軽度のリハビリに努めて頂いて、また今日と同じ検査をしてから今度は細胞を安定させる薬剤を投与します。 この薬剤は1回目と違って激痛は伴いませんが副作用で嘔吐や関節炎、頭痛などを伴います。 副作用で熱がでる可能性もありますから容体をみて解熱剤の投与。脱水状態の緩和で点滴。食事は―…」
「いやはや、此所まで大事になるとはね。 宮野君にも先生にも迷惑をかけて申し訳ない」

治療工程を説明する巳恩に優作は溜息を吐く

「志保が絡んでた事に感謝して下さい。 志保が絡んでいたから引き受けただけの事ですから。」
「君ー… 有間先生にとっては、宮野君は余程大切な友人らしいね。」
「今の志保はおろかな高校生に感化された科学者でしかありません。 私のパートナーは江戸川コナンと同じように消える存在です。」
「人の心はそんなに簡単に変わらないわ。 たとえDr… いえ、今だけは巳恩ちゃんと呼ばせてもらうわね。 巳恩ちゃんが否定したとしても志保ちゃんが友人だったという過去は変わらない。赤井さんが巳恩ちゃんのお母さんの従弟である事も変わらない。 赤井さんがどれだけ巳恩ちゃんの身を案じて心配してい―…「有希子」」

有希子の言葉を優作が止める

「止めなさい。 治療の前に場を悪くしては、Drの気が悪くなる」
「ごめんなさい。 でも、私は」
「有希子。」

優作がゆっくりと顔を横に振る

「申し訳ない。治療の前に気を反らすような事を。」
「いえ。 工藤君のお母様が仰った事は事実ですから。 組織の科学者であった志保は友人で、お互いの研究上得難いパートナーであった事は事実です。 そしてダブルフェイス―… いえ、スリーフェイスの顔を持つ赤井秀一が、組織の裏切りものとなった母の―… ルーナ・ロッサの従弟であり、組織に潜入したFBIの狗だった事も、私のジンを追いつめた―… 私の愛する人を殺そうとしたのも事実。 志保の姉が殺される原因を作ったのも赤井秀一ですがそれに関しては志保と赤井が解決すべき事であり、私が口出しする権利はありません。 」

巳恩は何かを振り切るかのように目を閉る。

「貴方方と関わるのは今回限りと心得て下さい。 別荘内での録画録音は禁止。 お持ちのスマホやデジカメは治療フロアーに入る前に金庫しまって電源を落として下さい。 工藤君のスマホもGPS付眼鏡も志保が預かって。外部との連絡一切不可にしてる筈です。 ここで見た機材や薬品に関して、一切公言無用の誓約書類にサインを。 小説で使うのも映画の脚本の参考にするのもNGです」
「分かった。 新一の事は有間先生と宮野君にすべて任せるよ」
「息子の事―… お願いします。」

優作と有希子は丁寧に頭を下げる。

「息子さんの事はご心配なく。」

にこりと笑みを見せる巳恩

「先日申し上げました。 この私と志保がタッグを組んで精製した解毒剤です。 リスクに関しては避けられませんが、必ず元に戻して見せます。 薬品アレルギーが出るかもしてませんがに治療後のリハビリで確認しますのでご安心下さ―…?」

パタパタと足音がしてノックの音

「巳恩。 検査結果が出たわ。 血圧が少し高くなってるけどこれは治療前の緊張レベルの許容範囲ね。 巳恩のGoサインでいつでも治療に取り掛かれるわ。」
「血圧が? データを見せて」

パラパラとデータを確認する巳恩

「ホント。 確かに血圧は少し高めだけどこれは想定内。 腎臓とかは思ったよりも数値がいいわね。 点滴をすれば終わる事には血圧も落ち着くんじゃない?」
「えぇ。 私もそう思って点滴はもう始めたわ。 病室ですぐ着替えて貰って滅菌治療室案内してからでよかったのよね?」
「流石は志保ね。よくわかってる。」
「当たり前よ。 何年巳恩のパートナーをしたと思ってるの?」
「そうだったわね。 高校生探偵に感化されてお馬鹿さんになったのは人間関係だけでよかったわ」
「巳恩。 私は、生涯、貴女のパートナーでいるつもりよ。 これから先、パートナーは作らないわ」
「それは、無理よ。私達はもう同じ道を歩いていないのだから。 2度と重なる事はないわ」
「でも、」
「この治療がパートナーとしての最後の仕事と言った筈よ。責任を果たして終わりにするといった筈よ」
「そう、だったわね。」

ふっと息を吐く巳恩の顔が弾きしまる。

「点滴には軽い睡眠剤が入ってます。 お話をなさいますか?」
「「ありがとう。 / お願いするわ」」
「志保。 ご両親を滅菌治療室へ。15分後に治療に取り掛かかります」
「はい。」

優作と有希子を案内する志保を見送る巳恩

「巳恩。 ―… もしかして、お前は」

赤井は手を伸ばしてかけて叩かれる

「雑菌がつくわ。 赤井は煙草のニコチン塗れなんだから治療前の医者に触らないで」
「すまない。―… ここにいる間は出来る限り節煙する」
「そう願いたいわ。 カーテンから先は煙草もアルコールも厳禁よ。全身シャワーを浴びて滅菌シャワーを浴びてから入って頂戴。 最も赤井に出来る事は何もないわ。 私の目に付く範囲に居ないで頂戴。 盗聴したら白の組織がお前の仲間の命を貰うわ」
「分かった… そう警戒しなくても俺は」
「邪魔よ。 消えなさい」
「了解。俺は外を見てくるとしよう。次いでに食料の買い出しをしてくるよ。」
「なら、アクエリアスと水素水とノンカフェインのお茶をダースで買ってきて。工藤君は暫く刺激物禁止生活に突入よ。ドラッグストアの離乳食のコーナーになる幼児向けのドリンクでもいいわ」
「随分気を遣うんだな」
「私は医師よ。 工藤君がどれだけいけ好かない人間でも患者である以上、医師としての責務があるわ。―… それが赤井、貴方や貴方の友人たちでもね。銃創を負って医師を必要としている患者なら見捨てないわ」
「―… そうか。」

赤井は苦笑して別荘を後にした
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